音の使い方
カウラン、ドゥーマの連合軍がエルフたちと戦いを繰り広げていたころ、他のドワーフの軍も似たような状況になっていた。
坑道という自分たちのホームに引き込み、エルフの数の優勢を消す。それが元々のドワーフの戦略であり、特に今回は、リュウヤたちが両翼を潰し駆けつけるまで耐えるというのが基本戦略となっているため、徹底的に守備に徹している。
こうなると、エルフたちも強引な攻撃しかできなくなり、単調になる。ますますドワーフの術中にはまっていく。
アカギたちはエルフたちを圧倒していた。
こちら側に石人形がいなかったこともあるだろう。
それ以上に、夜が明けると同時に仕掛けたミカサ班による奇襲が功を奏していた。
すでに夜襲により疲労していたところに、奇襲を仕掛けられ、それに呼応するようにアカギたちが討ってでたため、対応しきれていない。次々とエルフたちは討たれていく。
リュウヤたちもまた、夜明けと同時に仕掛けた。
リュウヤは自分ともうひとりで仕掛け、時間差をつけてタカオらに攻撃をさせる。
そして、二方向からの攻撃で薄くなった警戒網を掻い潜って、スティールらデックアールヴが本隊に合流、その方針のもとに行動する。
リュウヤは悠然とエルフの前に姿を晒す。その態度は、一緒にいたイブキ(伊吹山から)が慌てたほどだった。
「ここの指揮官のところに案内してくれないか?」
目の前に現れたリュウヤに、エルフたちは唖然としていた。
「へ、陛下!」
慌てたイブキの言葉にエルフたちが我に帰る。
「て、敵襲!!」
口々に声をあげ、リュウヤたちを包囲する。
「案内してくれる気はなさそうだな。」
当然のことを口にする。
「我らを馬鹿にしているのか!」
エルフの怒りのこもった声。
「仕方がない。イブキ、耳を塞げ。」
なにがなにかわからぬまま、イブキは耳を塞ぐ。
次の瞬間、周囲のエルフが崩れるように倒れていく。
なにが起きたのか?イブキは周囲を見渡す。倒れたエルフの外側に耳を抑えてうずくまるエルフたちが、多数いる。
精神に作用する魔法でも使ったのだろうか?だが、エルフは精神系魔法への耐性が強かったはず・・・。
「お前、なにをした!?」
イブキの疑問を口にしたのはエルフだった。
「なにをって、音をぶつけただけだ。」
一般に超音波と呼ばれる、極低周波の音。可聴領域から外れた音を相手に叩き込むことによって無力化する。地球においては音響兵器と呼ばれ、インド洋のソマリア海賊対策として海上自衛隊が使用したこともある。国によっては、暴動対策として警察に配備していたりもする。その音響兵器の原理を魔力によって生み出したのだ。
「音?」
答えを聞いたエルフは唖然としている。文字通り"まさか"という思いだろう。
イブキもまた、同様の思いをしている。まさか、音をぶつけただけでそんなことが起きるとは・・・。
「ならば、石人形どもを奴らに向かわせろ!」
石人形ならば、音は聞こえない。だから音によって無力化されることはない、そう判断したのだろう。そして、それは間違った判断ではない。
ここの戦場にいる石人形8体、全てをリュウヤたちにぶつけてくる。
「いいのか?石人形全てをこちらに回して。」
「かまわん!石人形ども、奴らを叩き潰せ!!」
エルフの命令に、石人形たちがリュウヤとイブキに向かってくる。
その時、反対側の方向で大きな魔法による爆発が起きる。
「なっ!?」
驚きの表情を見せるエルフたち。
「いくぞ、イブキ!!」
リュウヤの号令に、イブキは奮い立つ。エルフたちに向かい走り出し、手槍を携え突入する。
一方のリュウヤは、石人形たちの前に立ちはだかる。
石ではリュウヤの持っている剣は歯が立たない。そのため石人形相手には魔法を使うしかない。
リュウヤは不敵な笑みを浮かべる。
大きく両手を広げ、柏手を打つように手を合わせる。
たったそれだけで、全ての石人形が崩壊していく。
「なっ、なにをした!?」
「音だよ、これもね。」
エルフの疑問にあっさり答える。
音というのは大気の振動。その振動により崩壊へと導く。言葉にすれば簡単なことだが、実際に行うのは難しいだろう。現に目の前のエルフが驚愕している。長命である彼らですら、このような"音の使い方"を知らないのだろう。
「どうする?まだ戦うか?それとも降伏か?」
圧倒的な力の差。それを見せつけられてなお戦意を保てるのか?
そこにエルフたちにとっての凶報が飛び込む。
「デックアールヴたちが討ってでたぞ!!」
呆然とするエルフたち。
そして数瞬。
エルフたちは手に持っていた武器を捨て始めた。