戦闘開始
風邪でダウンしていました。
皆さんも風邪には注意したください
デックアールヴとエルフの戦いの現場に着いたリュウヤは、早々に合流を断念した。
「さすが激戦地。警備が半端ない。」
それが現場を見たリュウヤの第一声だった。
デックアールヴの籠る陣地(元は集落だったのだろう)は、堅固な砦と化しており、それを取り囲むエルフ側も柵や盛り土で包囲しており、それこそ水も漏らさぬ包囲網を構築している。それが双方で煌々とした篝火によって浮かび上がっている。
「スティール、君がいた頃には包囲陣地は無かったんだよな?」
「はい。これほど短期間で構築されているとは、思いもしませんでした。」
デックアールヴが敵襲を予想していたのと同様に、エルフ側も激烈な抵抗を予想していたということか。エルフだけで構築したわけではないだろう。別種族の協力があったか、それとも・・・。
「石人形でしょうか?」
タカオが指差す先に、篝火によって照らされる巨大な石人形が数体見える。
「石人形がいるのであれば、この状況も理解できます。」
スティールが言う。そして、
「石人形を前衛に出し、後衛があの包囲陣地を構築したのでしょう。」
と続ける。
"戦巫女"と呼ばれるほどの者がいるこの地に、エルフ達は最精鋭部隊を差し向けたのだろう。ならば石人形の他にも、何かがいることを想定した方がいい。
「ここで野営する。」
リュウヤは決断を下す。
「スティール、君たちデックアールヴは早く合流したいだろうが、ここは堪えてくれ。」
「わかりました。」
この包囲陣地を見たら、スティールたちも合流を強く主張できない。
リュウヤたちは夜が明けてからの行動を話し合い、決めていく。
夜明けと同時に、リュウヤと龍人族が攻撃を仕掛ける。それによって警戒が緩んだ隙に、スティールらデックアールヴが合流し、援軍の到着を中の者たちに伝える。
「もっとも、"戦巫女"とまで謳われる者なら援軍が来たことに気付くだろうけどな。敵の背後で騒動が起きたなら。」
そう言って締めくくった。
夜が明けると、各地で戦闘が繰り広げられる。
中央となっているドワーフの王国では、その入り口となる三つの門にエルフたちが押し寄せる。そのうちの一つ、西側の門にドゥーマらドヴェルグ300名は配置されている。あくまでも援軍であり、多数のドワーフ軍と共同で戦闘を行う。
エルフたちが押し寄せてきた様子を見て、
「来よったな、エルフども。」
不敵な笑みを浮かべるドゥーマ。その隣にいるドワーフの守備隊長カウランはエルフ軍に、昨日まではいなかった存在を6体発見した。
「あれは、石人形か?昨日までは居らなんだが、本気で落としにきたか。」
「あんな石人形など、中に入れば邪魔でしかないだろうに。」
ドゥーマが言う。あの石人形はかなり大きい。身長はざっと見て5メートルくらいある。中に入れば、その巨大が邪魔になり、力を振るえなくなる。
「この城門を破壊するためだけに投入したんじゃろう。」
カウランの言葉にドゥーマは頷く。城門を破壊することだけに投入するとは豪気なものだが、その後はエルフだけで戦えると思っているのだろうか?もしそうならば、随分と軽く見られたものだ。
もっとも、この城門を簡単に壊される気はないが。
エルフ軍は石人形に破城槌を持たせ、突撃させる。
ドワーフ・ドヴェルグ連合軍は弩を使い応戦するが、石人形には通用しない。
「さすがに効かぬか。」
カウランは呟くと、右手を挙げる。次の瞬間、地中に埋められていた鎖が現れる。石人形は足を取られるが、突進の速度を少し落としただけで、その歩みは止まらない。
城門まで5メートルほどまで接近したとき、先頭の石人形2体の姿が消える。落とし穴に落ちたのだ。
「単純な罠だが、効果的だな。」
残り4体いるが、先頭の2体が落とし穴に落ちた際に破城槌は折れてしまい、使い物にならない。だが、石人形たちはその腕を振りかざし、城門を破壊しようとする。その巨大な拳を城門に、城門の周囲の石壁に叩きつける。
巨大な拳が叩きつけられるたびに、城門が揺れる。
再びカウランが右手を挙げる。石人形に向けて鎖で作られた巨大な網が投げられる。それが石人形に絡まり、動きを封じる。絡まった鎖を引きちぎろうともがく石人形たち。
「真の銀で編んだ鎖だ。簡単には千切れんよ。」
カウランが呟くが、まだ一体残っている。
運良く絡まらなかった石人形一体は、なおも巨大な拳を城門に叩きつける。やがて、扉が変形しはじめ、数人ならば一気に入り込める隙間ができる。そこを目指してエルフたちが殺到する。
後衛から弓や魔法の援護を受け、扉の隙間へと殺到するエルフ。それを城門の上から弩や弓で迎え撃つドワーフ。
通常の弓ではエルフの魔法障壁により届かず、弩の矢は魔法障壁を突き破るも、軽傷を負わせる程度まで勢いが減殺される。
扉の隙間から侵入したエルフたちに、ドワーフたちが立ちはだかる。次々に倒されるエルフたち。だが、それでも侵入をやめようとしない。
扉に魔法をぶつけて、その隙間を広げようとする者もいる。残っている石人形は、なおも巨大な拳を扉に叩きつけている。その拳はひび割れ、壊れても叩きつけ続けている。その成果か、わずかずつ隙間は広がっていく。
「ここまでか。」
カウランはそう呟くと、城門の上にいる者たちに退避を命じる。最後に自身が退避すると、合図を送る。数瞬の後、轟音をたてて城門が崩壊する。その巻き添えにあい、石人形も崩壊していく。
城門を崩壊させたドワーフ・ドヴェルグ連合軍は後退し、坑道に籠る。ここからが、ドワーフ・ドヴェルグ連合軍にとって本番といえる、戦闘の開始だった。




