扉の前にて
9時に投稿予約していたのに消えてた(;_;)
この大きな扉がある場所は、周囲を見渡せるほど高い。
眼下に広がるのは荒涼とした大地。大きな川も湖もなく、オアシスが点在しているだけ。まるで砂漠のようだ。
そしてそびえる山々も岩山ばかり。
「殺風景じゃろ。」
ギイが話しかけてくる。
「たしかに。少し気が滅入ってくるよ。」
自分の住んでいた日本は、緑豊かな国のひとつだった。平地こそ少ないが、水も豊富で実り多き"瑞穂の国"。地震や台風の直撃が多いのが玉に瑕ではあるが、まあ、暮らしやすい国。
「これでも、昔は森に覆われ豊かな土地だったんじゃぞ。」
それが事実なら、大きな気候変動でもあったのだろうか?その疑問もギイの次の言葉で解消される。
「この地の守護者たる、"始源の龍"の力が衰えたからじゃよ。」
"始まりの龍"とも、"原初の龍"とも呼ばれる存在。龍人族をはじめとする、この地に住む者たちの守護者だったという。
なるほど。ならば、自分が召喚されたのはその"始源の龍"が関連しているということか。始源の龍の力を復活させる鍵、それが自分なのだろう。なぜ"鍵"となっているのかはわからないが。
「ドヴェルグは影響を受けているのか?」
「いや、ワシらは受けてはおらんよ。ただ、龍人族は著しく受けておるが。」
龍人族というのは始源の龍の眷属であるため、影響を強く受けているのだという。始源の龍の力が著しく衰えたため、現在では人間族とたいして変わらない力しかない。
また、美形が多いために人間族らによる奴隷狩りの対象とされているそうだ。そんな危険な場所となっているにもかかわらず、この地に留まっているのは始源の龍の存在と、故郷を捨てられない強い思いからなのだろう。
「ドヴェルグから見ても、龍人族は美形なのかい?」
「間違いなく、美しい種族じゃ。一番はドヴェルグじゃがな。」
そう言って笑う。
この世界のドヴェルグは、北欧神話のドヴェルグのように無節操な好色ではないらしい。
「ここには、どれだけ住んでいたんだ?」
「ふむ、最盛期なら・・・」
と少し考えると
「ドヴェルグが1万人、龍人族が5000人。他は、獣人族やらなんやらで、ざっと10万人といったところかの。」
10万人を超える人口を支えられる食料生産が、この地にはあったということか。
「それも今は昔というやつでな。今ではドヴェルグが1500人余りと、龍人族は300人ほどじゃ。」
奴隷狩りだけでなく、ここでは食べていけなくなったために、新天地を求めて旅立った者も多いのだとか。
「ギイは、旅立とうとは思わなかったのか?」
「ここは良い銀鉱山でな。質が良いだけでなく、真の銀も取れる。なかなか出て行く気にはならんよ。」
かつては、ドヴェルグの銀細工を求めて来た商人も多かったようだ。
陽もより傾いてきているところをみると、もう夕暮れといったところか。ギイと随分、話し込んでいたようだ。
「おまたせいたしました。」
ギイと話し込んでいたため、巫女姫が来ていることに気づかずにいた。
「おお、来たか。」
ギイが巫女姫に言葉を返す。
巫女姫の表情も、先ほどよりはかなり良くなっている。
「それでは、扉を開けます。」
巫女姫が手をかざすと、扉がゆっくりと光に包まれていく。これも魔法というものだろうか?
扉がゆっくりと開き出す。
人が入れるくらいに開くと、巫女姫に促されて中に足を踏み入れるのだった。