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龍帝記  作者: 久万聖
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ドワーフの王国

 翌朝、まだ日が昇りきらぬうちにリュウヤたちはトライア山岳地帯へ向けて出撃する。


 吐く息は白く、乾燥した空気は冷気を含み頰を撫でる。


 リュウヤの腰には、今まで使っていた剣とは別に新たな剣が下げられている。ギイに依頼したもののひとつである。

 片刃の反りが入った剣。太刀風の剣を依頼して、やっと届いたのが昨夜。刀身も長めの100センチ強。柄の握りも良いが、ギイはその重心のアンバランスさを気にしている。リュウヤにしてみれば、それが丁度いいのだが。

 柄や鞘には、ドヴェルグたちの意匠による細かな装飾がなされており、それだけで美術品としての価値がありそうだ。


 ラダによれば、半日ほどで龍人族のところまで来れたということなので、早ければ昼過ぎ、遅くとも夕方には到着できるだろう。そう考えながら、行軍の指揮をとるのだった。



 リュウヤの予測したよりも早く、昼前に迎えに派遣されたドワーフの一団と合流する。その一団の中には、ラダとイコマもいた。ラダは、帰りは龍化したイコマの背に乗っていたとはいえ、元気なものである。

 イコマより簡単な報告を受け、その労をねぎらう。

 すでにこちらの意向は伝えてあり、同意を得ているという。

 ここで休憩をとり、合流に備える。

 緊急時に形式は要らないと思うのだが、円滑に進めるためには必要なのだろう。相手に見くびられないようにする、そういう意味合いもある。


 準備を整え、ドワーフの王国に向け出発する。

 到着予定は二時間後。

 皆に号令をかけ、行軍を開始した。



 到着後、リュウヤはすぐにドワーフ王のもとに案内される。イコマを伴って。

 玉座の間には、他の者とは一線を画した武装により、誰の目にもそれとわかる者が玉座にいた。

 身長は他のドワーフよりもやや高め。130センチくらいだろうか。だが、リュウヤはそちらを無視し、近衛兵の列に並ぶひとりの前に立つ。


「陛下!!」


 イコマが慌てたようにリュウヤを呼び止めようとする。


「イコマ、お前の目は節穴か?」


「え?」


 驚くイコマを無視し、


「戯れはやめていただきたい、ドワーフの王よ。」


 周囲がざわめく。


「・・・・、なぜわかった?」


 沈黙の後、リュウヤに王と呼ばれたドワーフが口を開く。

 その言葉にイコマは愕然とする。先に来ていたにもかかわらず、自分は誰と話していたのか?


「視線、だよ。」


 玉座にいるドワーフは、リュウヤが入ったときにやたらと視線を外していた。その視線の先、そこを確認すると一箇所だけ違う装備をした者がいた。


「ただ、それだけだ。」


 ドワーフ王は自分の腰にある剣を見る。確かにこれだけは、他の者の装備と違う。


「そのふたつだけで見破ったか。」


 そう言って一息つき、


「試すような真似をしてすまない。俺がこの国、カルドゥハルの王バトゥだ。」


 握手を求める。リュウヤもその手を握り返す。


「リュウヤといったな?お主は信用できる者のようだ。ならば、儀礼など終わってからでよかろう。」


 着いて来い、そういうように先を歩く。

 今は緊急時。その状況下で不毛なことはしたくない、そういうことか。リュウヤとイコマも後に続く。


「陛下、申し訳ございません。」


 イコマがリュウヤに謝罪する。


「使者に立つというのは、いわば外交という戦いの先陣を切るということだ。そこには戦場となんら変わらぬ、虚々実々の駆け引きがあると知れ。」


「はっ!」


 イコマの返事にリュウヤは大きく頷く。今後の成長に期待できそうだ、そう感じていた。



 バトゥから、現在の状況説明をうける。

 ラダから聞いていたのと、あまり変わりはないようだ。


「エルフどもの、あの攻勢は狂乱とでも言いたくなる代物だ。」


 そう感想を述べる。


「おそらくは、あと1日。あと1日でエルフたちの攻勢は弱まる。」


 断言するリュウヤ。


「なぜわかる?」


「初日から、それこそ大攻勢に出ているのだろう?それが3日経っても落とさないとなれば、心が折れる。それに、肉体が保たない。」


 バトゥが納得したように頷く。


「なるほどな。そうなると、明日こそが最大の山場になると、そういうことだな。」


 エルフたちも、そのことはわかっているだろう。となれば、最大規模の攻勢が明日にも行われる。それを凌げば、勝ち。

 だが、ただ凌ぐのも芸がない。


「そこでお主の提案があるのだな?」


 先行させたイコマを通じての提案。


 戦線のほぼ中央に位置するドワーフは、ドヴェルグとともに防衛に徹する。劣勢にあるリョースアールヴ側にアカギ、ミカサ、ヒサメらを派遣。劣勢の挽回から、攻勢に転じさせる。激戦の最中にあるデックアールヴへは、リュウヤ自身が側仕えの者とで援軍に赴き、攻勢へと転換させる。その後、背後に回ると同時にドワーフらは攻勢に転じ、挟撃する。


 最大兵力であり、中央を指揮するドワーフ王バトゥが、事実上の総指揮官になる。


「それはかまわんが、援軍の数が少なくはないか?」


 ドワーフからも援軍を出すべきではないか?暗にそう言っている。


「大丈夫だ。今回に関しては、龍化を認めている。下手に近づくと、巻き込まれることになる。」


「なるほど、龍化を認めているのか。ならば、問題はあるまい。」


 両アールヴの拠点に近い場所まで案内することを、バトゥは確約する。そこからは、道案内として同行しているアールヴたちが案内する。

 これから休息をとり、日の昇る前に行動する。

 それらを打ち合わせると、それぞれがあてがわれた部屋で休息をとることにした。



 リュウヤたちが退室したあと、バトゥは思案する。

 龍人族との関係をどうするのか?

 両アールヴは庇護下に入ることを決めたようだが、自分たちはどうする?


 ラダから聞いてはいた。あのリュウヤという男は他種族を蔑むような男ではない、むしろ対等に扱うと。


 ならば対等の同盟も可能だろうか?


 絶大な力を持つであろうことは、対峙したことで理解した。その絶大な力を、破壊や破滅のために使うことはないのか?

 また、そうなったときに、どのような対処ができるだろうか?

 考えなければならないことが増えたようである。


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