フェミリンス
諸事情により、大幅に更新が遅れてしまいました。
両アールヴ及びドワーフへの援軍。
ドヴェルグ兵300。龍人族からアカギ、ミカサ、ヒサメの各班15名とリュウヤとその側仕えの5人で21名。総数321名。それに道案内としてリョースアールヴの中で怪我の程度の軽い者数名と、デックアールヴのスティール以下数名。
本隊に先行してドワーフの王国に人を派遣し、情報収集にあたらせる。
ドワーフのラダはそちらに同行する。龍人族からは、リュウヤの側仕えの一人であるイコマ(生駒山から)を派遣する。イコマには、速さを優先するため龍化を許可することを伝える。
本隊の出撃は翌明朝。すでに日も傾いていることと、特にリョースアールヴの疲労回復を、少しでも図る。そのための時間だ。
シヴァとサクヤ、ギイは残り、他の国の動きに備える。イストールは友好的ではあるし、パドヴァは現在のところ属国化しているので問題はないだろうが、万が一ということもある。そのためにグィード指揮下の兵力も残していく。
また、フェミリンスと道案内に参加しないリョースアールヴたちも残ることになる。彼らは重傷者を含めて負傷者が多数あり、治療に専念してもらう。
それらを指示するとこの場は解散、それぞれ準備にかからせる。
ジゼルやヴィティージェらも下がり、会議室には人間族がいなくなる。
フェミリンスは供の者を退室させる。扉の開閉する音が聞こえ、それを確認したようにリュウヤに問いかける。
「リュウヤ殿。貴方はこの世界の者ではありませんね?」
問いかけというよりも、確認か。
サクヤやギイは一瞬だが驚いた表情を浮かべたが、互いに納得したように顔を見合わせる。
「そうだ。貴女方からみれば、異世界から召喚された者となる。」
よくわかったな、そう続ける。
「その身に宿されている力が、他の龍人族の方々と違っておりましたから。その量も。」
そして、
「龍人族には、異界より呼び寄せることのできる秘術がある、そう聞き及んでおります。長き時を生きる私でも、異界の方にお会いするのは初めてですが。」
秘術、か。果たしてこの秘術がなんのために行われるのか、フェミリンスは知っているのだろうか?
「それで異界の者だと気づいたのは、それだけか?」
サクヤに緊張が走る。
「はい、それだけです。」
サクヤはホッとしたように緊張を解く。
リュウヤは、フェミリンスの表情を見る。目の焦点が合っておらず、そのためか表情から読み取ることが難しい。"目は口ほどに物を言う"とは言うが、目というのは単体でも表情が豊かな物だと気付かされる。表情から本心を読み取ることは諦めた。
ただ、警戒はしておくべきか、サクヤの精神的負担を増やさないためにも。
「フェミリンス殿。部屋を用意させてあるので、ゆっくり休まれるといい。」
そういうと手元のベルを鳴らし、侍女を呼びフェミリンスを部屋に案内するように指示をする。
「リュウヤ、あのフェミリンスとかいうリョースアールヴをどう見る?」
ギイが興味深そうに問いかける。
「相当な美女。そんなところか?」
その言葉にサクヤの表情がわずかに反応する。
「そんな風に見ておったようには見えなかったがの。」
リュウヤの返答に、ギイは笑う。
「サクヤたちを見ているからな。美女だとは思うが、それだけだ。」
サクヤの表情が先ほどとは別な形で表情が変わる。
「ただ、油断できない相手だろうな。あの目のせいか、表情から本心がどこにあるのかが読みづらい。」
考えすぎな可能性もあるが。彼女の性格が理解できるまでは、油断しない方がいいだろう。
「明日に備えることにするかな。」
そういうと立ち上がる。
「そうじゃリュウヤ。お主の依頼品、できておるぞ。」
依頼したのはふたつ。できたのはどっちだ?
「ふたつともできておるが、両方とも持ってくるか?」
「いや剣の方だけでいい。もうひとつは、戻ってきてからでいい。」
「わかった。後で部屋に持って行かせる。」
両方とも、この世界、少なくともこの地域には存在しないようで苦労したらしい。
そんな愚痴をいうギイの相手もそこそこに、リュウヤは会議室を後にする。
「フェミリンス様、あのリュウヤという人物をどう見られますか?」
従者ディルからの問いかけ。
「底が見えない、恐るべき人物だと思います。」
秘術によって呼び出されたことを否定しない。これは、後から暴露たときよりも、先に明らかにしておいた方が実害が少ないということだろう。ただ、人間族に知られているかは不明だが。人間族に知られたところで大したことがない、そう判断しているのかもしれない。
「秘術、あれは始源の龍を復活させるために必要なもの。ですが、始源の龍を復活させた後も存在しているというのは、過去にふたりしかいません。」
そのふたりも、絶大な力を持っていたという。
過去のふたりは、伝承によれば苛烈な性格をしていたらしい。凄まじいまでの力を振るい、破壊の限りを尽くしたと、伝承にはある。伝承は伝承であり、話半分と理解するべきだろうが、もしもの場合、その対処を考えなければならない。だが、それも簡単なことではないだろう。
リュウヤは、今は理性的な態度を見せている。その理性を繋ぎ留めることこそが肝要だろう。そのためならば、自らの身体を供することも必要になるかもしれない。
フェミリンスは見えぬ目を天井に向け、思案していた。