愚者?
ドワーフの救援要請、「敵がエルフだったら笑うぞ」と思っていたら、やはりエルフだった。
正直、乾いた笑いしか出ない。
二正面作戦なら、まだわかる。なのに三正面?
旧日本軍参謀かヒトラー並みの軍事音痴。いや、エルフってそんなに馬鹿だったのか?あちらの世界では、もっと理知的で思慮深い種族として描かれていたはずだぞ?
なんか、あれだけ両アールヴから話を聞き、悩みながらも検討していたのが、馬鹿馬鹿しくなる。
ドワーフを攻めるにしても、両アールヴを殲滅し、ある程度の休息をとって体力を回復させてからだろう、普通なら。ドワーフを攻撃するとなれば、坑道での戦いになるし、いわば一種の攻城戦だ。攻城戦の場合、攻める側は防衛側の兵力の3倍は最低でも必要とされる。
まあ、そもそもエルフがドワーフを攻撃するメリットが思い浮かばない。住むエリアが完全に違うのだから。もっとも、メリットが無くてもやるのが狂信者というものではあるが。
だが、本当にそうなのか?そういう疑問も残る。集団洗脳されていたとしたら?もしくは魔法的な力で精神支配をされている可能性は?
「みんなに確認したいんだが、エルフっていうのは馬鹿な集まりなのか?」
刺激的な物言いではあるが、その言葉に皆が考えこむ。
「ヴィティージェ、お前の持つエルフの印象は?」
「はい、他を低くみる傾向が強く傲慢ではありますが、理知的であり、また他を干渉せず、干渉させず。そういったところでしょうか。」
「ジゼル、君は?」
「ヴィティージェ師が仰られたことに加えるなら、精霊を扱うことに長けた種族でしょうか。」
他の者たち全員に聞くが、みんなの持つエルフの印象は似たり寄ったりだ。そして、それが今回のことにどう結びつくのか?それが知りたそうである。
「理知的な者たちが、リョースアールヴ、デックアールヴ、ドワーフの三者に同時に仕掛けるのか?」
言われてみればそうだ。本当に理知的であるならば、各個撃破するはずだ。
リュウヤはドワーフの使者ー名はラダというーに質問する。
「あの山岳地帯のドワーフ、その戦士はどれだけいる?」
ラダは少し考え
「ざっと3万はいますな。」
そう答える。
ドワーフの住む街、それは地下要塞とでもいうべきものだろう。その地下要塞に屈強なドワーフの戦士。
「あくまでも目安だが、兵学の基本として城塞を攻める場合、攻め手側は守る側の最低3倍の兵が必要だという。そうなると、ドワーフの相手だけで9万の兵が必要になる。そんなに押し寄せてきたのか?」
みんながそれぞれの顔を見合わせる。両アールヴへの侵攻を含めれば、10万は超えなければならなくなる。
「いや、そんなにはいなかったな。」
ラダの発言に、アールヴたちも頷く。
そんなに集めていたら、奇襲などできるわけがない。
「他に、なにか気づいたことはないか?」
リュウヤはさらに問いかける。
「そういえば・・・」
スティールが思い出したかのように発言する。
「やけに鬼気迫るというか、強引な攻撃の仕方だったというか・・・。」
「言われてみれば、そうだったな。」
ラダが肯定する。
「あまりの凄まじさに、援軍を要請しなければならんと、そう思うほどだった。」
ラダの感想を聞きながら、リュウヤはその脳をフル回転させる。そして、立ち上がると窓際に向けて歩きだす。
「少し窓を開けさせてもらう。頭を冷やしたい。」
開けた窓から、冷気が部屋に流れ込む。
20数えるほどの時間、リュウヤは窓を閉じ振り返る。
「エルフたちは攻撃を仕掛けたというより、攻撃をせざるを得なかったんじゃないのか?」
「それはどういうことでしょうか?」
フェミリンスが興味深そうにリュウヤに問う。
「幾つかのケースを考えてみたんだが・・・」
集団洗脳。集団洗脳されたからといって、元の理知的なところまで無くすことができるのか?中には、そういうことに陥る者がいるかもしれないが、全てがそうなることはあり得ない。
魔力等による精神支配。それだけの膨大な魔力を扱える者がいるのか?しかも、エルフは抵抗力が強いという。魔力の宿る道具を使うにしても、それだけの数を集められるのか?
そうなるとなんらかの手段によって、エルフたちを戦闘に追い込んだものがあるのではないか?
「どうかな?」
かなりざっくりと説明し、みんなに意見を求める。
「たしかに、一理あるとは思いますが・・・」
「なんらかの手段というのがわからないことには・・・」
「手段、例えばだが・・・」
エルフたちにとってとても大切なものであったり、または家族や子供を人質にとられるというのもあるかもしれない。
「人質・・・」
フェミリンスが呟く。
無論、可能性でしかない。
「まずは向こうに行って、エルフを何人か捕らえ、尋問するとしよう。」
まずはドワーフの拠点に合流する。
あとは、エルフを何人か捕らえて尋問する。その尋問内容によって方針を調整する。
そんなところでいいだろう、今は。
「では、行くとしようか。」
リュウヤはゆっくりと歩きだす。
リョースアールヴの救援に、デックアールヴへの応援。ドワーフからの援軍要請に応え、出撃が決定された。