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龍帝記  作者: 久万聖
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盲目の巫女

 サギリとリュウネに導かれ、入ってきたのはふたり。

 ひとりに手を引かれて入って来た、その人物こそが面会を求めてきた当人なのだろう。


「りゅーやさま!!」


 リュウネがリュウヤに向けて走りだし、抱きついてくる。その頭をなでながら、


「ご苦労様、リュウネ。」


 "えへへへっ"と頭をなでられたことに嬉しそうな笑顔を見せる。


「これから大事なお話があるから、それまでサギリを手伝ってもらえないかな?」


「わかりました!」


 そう言ってサギリに向けて駆け出すが、すぐに止まる。方向転換して窓に向かう。


「?」


 不思議そうに皆がリュウネの行動を見る。その視線に気づいたのか、


「シヴァさまがね、ここを開けろって。」


 念話で指示したのか。

 窓を開けると、今度こそサギリのところに行く。それを見送る。


「可愛らしいお嬢さんですわね。」


 手を引かれて入って来たリョースアールヴの声。

 最上の楽器を最上の奏者が奏でたような、美しい声。声だけで魅了されそうになる。そしてその姿。


 ジゼルとヴィティージェが息を呑む。


「美しい」、それ以外の言葉が浮かばない。


 リュウヤが平然としていられるのは、リョースアールヴに匹敵する美形揃いの龍人族の中で生活していることと、サクヤの存在のおかげだろう。

 リュウヤは、手を引かれて入って来たリョースアールヴを見る。


 違和感を覚える。それはどこに?


 それは彼女が自分の方を見た時にわかった。開かれた目の焦点が合っていない。


 "懐かしき気配がすると思えば。久しいな、盲目の巫女よ。"


 小型化して、窓から入ってきたシヴァが念話にてリョースアールヴに話しかける。


 やはり盲目か。リュウヤは納得する。


「お久しぶりです。始源の龍、いえ、シヴァ様とお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」


 "シヴァと呼ぶがよい。その名を気に入っておるのでな"


「わかりました。では以後、シヴァ様とお呼びいたします。そして・・・」


 リュウヤに向き直り、


「お初にお目にかかります。シヴァ様の盟友たるリュウヤ様。」


 白鳥を思わせる優雅な動きとともに挨拶をする。


「こちらこそ、初めてお目にかかる。リョースアールヴの巫女殿。」


 リュウヤは立ち上がって、挨拶を返す。


「フェミリンス、そうお呼びください。」


「わかった。ではフェミリンス、何があったのか教えてほしい。」




 話は7日ほど前に遡る。


 龍人族の言う北部山岳地帯(リョースアールヴはトライア山岳地帯と呼ぶ)、そのさらに北部山麓に広がる大森林。


 リョースアールヴの暮らす国。


 そこはエルフの軍勢に攻められていた。

 森での戦闘であれば、アールヴたちは最強クラスの力を発揮する。が、相手がエルフではそうはいかない。

 エルフもまた、森での戦闘を得意とする種族だ。それだけではない。使う魔法も酷似している。

 個々の能力を見ればアールヴの方が高いのだが、ある一つのことが違う。


 それは数である。


 そもそもが、古き神の一柱である"調和者フォリア"によって生み出されたアールヴは、途轍もない長命であり、事実上の不老不死とされる。


 それに対し、新しき神によって生み出されたエルフは定命であり、種族を保つためか繁殖力がアールヴに比べて高い。


 そのため、個体数はエルフの方が多く、戦いとなれば多少の個々の能力差など、数で押し切られてしまう。

 しかも、今回は万を超える大軍で押し寄せており、抗することが出来ずに撤退。フェミリンスを含む者たちを龍人族の庇護に置くため、先行させた。


 そして負傷者を出しながらも、ここまで辿り着くことができた。



 戦闘の混乱もあり、またフェミリンスが盲目であるため、かなり大雑把な説明ではある。もう一人のリョースアールヴも、フェミリンスの護衛任務のため、局地的な部分しかわからないという。


「なるほどね。それにしても・・・」


 リュウヤは大きく息を吐き、


「なんでエルフは、アールヴをそんなに目の敵にするんだ?」


 見た目もよく似ているという。


 生み出した神が違うというだけで、よくもまあそこまでできるものだと思う。


 いや、同じ神を信仰しているにもかかわらず、その信仰の仕方が違うというだけで殺戮をしたキリスト教(サン・バルテルミーの虐殺等、カトリックとプロテスタントの紛争がある)なんて存在もあるな。いや、それを言ったら同じ一神教で殺戮を繰り返したっけ(一神教はすべてユダヤ教から派生している。キリスト教によるユダヤ人迫害や十字軍によるイスラム教徒を殺戮等)。


 ならば、生み出した神が違うことで争うのも、当然のことか?


「全てのエルフが、私たちと敵対しているわけではありません。」


 フェミリンスは言う。

 それはそうだろう。だが、敵対する要因、理由はなんだ?

 それが取り除かれなければ、同じことの繰り返しではないのか?

 理由を知ったからといって、それを取り除けるとは思わないが。



 会議室の扉を叩く音がする。


「デックアールヴの一団が到着しました。面会を求めておりますが、どういたしましょうか?」


「ここに通せ。」


「わかりました。」


 デックアールヴが来るまでの少しの時間、考えを少しはまとめたい。

 リュウヤは窓の外を見ながら思案していた。

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