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龍帝記  作者: 久万聖
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新たな動き

 主だった部下たちが見た、リュウヤとハーディの戦闘訓練から三日後。


 リュウヤの元にシヴァが訪れる。


「随分と長い睡眠ねむりだったな。」


 執務室に現れたシヴァに笑いながらそう話しかける。そして、


「こちらに来なくても、呼べば俺の方が行ったのにな。」


「それでもよかったのじゃが、そこの嬢ちゃんたちに伝えておくことがあったでな。

 ここに来させてもろうた。」


 嬢ちゃんと呼ばれた二人、リュウヤ付き侍女長キュウビと秘書官長ミーティアは顔を見合わせる。


 いったい何事だろうか?


「畏まらずともよい。

 四色の竜の名代が来るゆえ、その歓迎の準備をしてもらいたいと、それだけのことじゃ。」


 四色の竜の名代。

 それは竜人族ドラゴニュートということかと考える。


「わかりました。

 しっかりとおもてなしを致します。」


 キュウビはそう言って一礼する。


「全て、滞りなきよう準備致します。」


 ミーティアは一礼する。


 キュウビは上役である総侍女長ウィラの元へ、ミーティアはサクヤとアデライードへ報告に向かった。


 残されているのは、侍女アルテアのみ。


「それで、本当の用件はなんだ?」


 リュウヤの問いに、


「テラスに出ぬか?」


 そうシヴァは返すとテラスへと歩き出し、リュウヤもその後を追う。


 テラスに出ると、いつの間に来ていたのかハーディが椅子に座っている。

 そして、ただならぬ雰囲気を纏った初老の男も。


「アルテア、お茶を頼む。」


 指示を受けたアルテアは、一礼すると行動に移る。


 アルテアがその場を離れたことを確認すると、初老の男が名乗る。


「お初にお目にかかる、リュウヤ陛下。私はヴァシーレと申します。

 カルミラの父、そして吸血鬼ヴァンパイア族の長を務めさせていただいております。」


 ヴァシーレと名乗った吸血鬼は、リュウヤを値踏みするかのような視線を向け、慇懃に挨拶をする。


「私がリュウヤだ。カルミラには色々と手伝ってもらっている。」


 リュウヤも、当たり障りのない挨拶を返す。


「このヴァシーレは、お前の先代の頃より生きておる。」


 それは先代のフェミリンスとの戦いを知っているということだろう。


「そのことはどうでもよいのじゃが・・・」


 ハーディはそう続け、


「お主、自分の中に彼奴の力が混ざっていること、いつから知っておったのじゃ?」


 本題に入る。


「はっきりと自覚したのは、ハーディとの訓練中だな。」


「はっきりと?」


「ああ。シヴァの力とは異質の物がある、そう感じ始めたのは、ユーリャと会ったあたりからだ。」


「ユーリャ?大地母神イシスの聖女じゃな。」


「そうだ。初めて会った時に、なぜかどこかで会ったような既視感を感じた。」


 シヴァとハーディは顔を見合わせる。


「なるほどな。ならば、サクヤがお主を呼ぶ儀式をした時、我の力だけでなく彼奴も力を貸したということじゃな。」


「ならば、お主はこの世界に召喚された時に会っておるのやもしれぬな。」


「その可能性は否定できない。

 だけど、何かを言われたとか、依頼されたとか役目を与えられたとかいう記憶は無いんだよ。」


「すると、何かの節目となる時、接触があるやもしれぬな。」


「その時は、俺に直接来るのか、それとも聖女たちを通じて来るのか・・・。

 どちらだろうな。」


 そう口にしたリュウヤは、なんの気なしに二人に問いかける。


「二人には心当たりは無いのか?」


 シヴァとハーディは顔を見合わせる。


「考えられるのは、彼奴も今回で終わりにしたいのじゃろうということくらいじゃな。」


「それなら、俺たちの思いと同じなのだな。」


「方向性が同じなのかはわからぬがな。」


 たしかにその通りだろう。

 同じように終わらせたいと思ってはいても、その形が同じだとは言えない。


 そこにアルテアがお茶を運んで来る。


 なかなかの手際で皆にお茶を淹れていく。


 四人分のお茶を淹れ、御茶菓子を置くと一礼してその場を離れる。


「なかなかの手際ですな。」


 ヴァシーレがアルテアの手際をそう評価する。


「ベアトリクスとバルバラが教育しているからな。」


 自分付きの侍女でもある吸血鬼族の名を挙げる。


「ほお?あの二人が?」


「随分と親身になって教育しているようだぞ。」


 不思議なことを聞いたかのように、ヴァシーレはリュウヤを見る。


「アルテアは人懐っこいところがあるからかな、吸血鬼族だけだなく、様々な種族の者たちから可愛がられている。」


「お主のお気に入りということも、多少は影響しておろう。」


 ハーディが補足する。


「ほう、お気に入りですか。」


 ヴァシーレの目が細くなる。


 だが次の瞬間、ヴァシーレを凄まじい重圧が襲う。


「試すつもりなら、そういう手段は取らぬことだ。手加減ができなくなる。

 ハーディ相手にも、まだ見せていない術は幾らでもあるのだからな。」


 リュウヤの言葉に、ヴァシーレは背中に冷たいものが流れるのを感じる。


 どうやらこの男は、近しい者を巻き込むことに凄まじい嫌悪感を持つ性質たちであるようだ。


「申し訳ありません、リュウヤ陛下。」


 ヴァシーレは頭を下げる。


「すまぬな、リュウヤ。

 わらわ相手に善戦したと聞いて、お主に挑みたいと考える眷族が増えてしまっての。

 ヴァシーレもその一人でな。

 お主を試したかったのじゃろう。」


「恥ずかしながら、ハーディ様の仰る通りで。

 そしてなにより、カルミラが認めた相手がどれほどのものか知りたかったというのもございます。」


「それで、お主の眼鏡にかなったのか?」


「今少しの間、保留とさせていただきます。」


「その意は?」


「四色の竜の名代が、決して放っては置かないでしょうからな。

 それを見てから、判断を致したく思います。」


 ヴァシーレの言葉にシヴァとハーディは笑みを浮かべ、リュウヤはウンザリした表情を見せていた。






 ☆ ☆ ☆






 キュウビとミーティアが戻って来たことで会談は終わり、シヴァらは大扉前へと移動する。


「ヴァシーレ、主はリュウヤをどう見た?」


 ハーディの下問。


「ハーディ様、シヴァ様同様に、底の見えぬ御仁ですな。」


 そして、


「アスランめが夢を見るのも、理解できるというもの。」


「そうか、理解できるか。」


「はい。我らハーディ様の眷族は、長い、本当に長い時を影で過ごして参りました。

 それ故に、陽の光の中を、自分たちの世界にしたいのしょう。」


「その気持ち、わからんでもない。

 妾が果たさねばならぬ役割ゆえ、それを成す機会すら無かったのは辛かった、そう思う輩もおるのやもしれぬ。」


「はい。ですが、アスランほど極端な思考に染まっている者はおりませぬ。」


「それはなぜじゃ?」


カルミラの報告でしょう。

 リュウヤ陛下は、種族による差別をしないと。

 陛下ご自身が、差別が無くなるには一千年もの時がかかる、その一歩を自分が進めるのだと言われていると。」


 そう言うと、大きく息を吸い込む。


「もし、リュウヤ陛下がご自身の一代で差別を無くすなどと、そんな綺麗事を語っていたならば信用など致しません。

 現実を理解し、そしてそのためには相当な時間がかかることを明確に仰られることに、私たちはその誠意を感じたのです。」


「なるほどな。

 ならば、お主に命ずる。

 アスランめの動向を調べよ。

 手は出さずともよい。ただその動向を調べ、リュウヤに報告せよ。


「はっ!」


「先刻、アスランめはティアマトに接触したと、ウガルルムより通達があった。」


「・・・。」


「ティアマトの力を持って、フェミリンスの封印を解く腹づもりじゃろう。」


「止めなくてもよろしいので?」


「どのみち戦わねばならんのじゃ。

 いつ封印が解けるか、それがわかった方が対応もし易かろう。」


 アスランを、坑道のカナリアにするつもりのようである。


「わかりました。」


 ヴァシーレは一礼すると、すぐに行動に移した。


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