夕食会
日常回が続きます。
夕食会場へ足を踏み入れたシニシャは、先に来ていた二人の人物を見て硬直している。
二人の人物、一人は笑顔で、もう一人は大地母神の聖女ユーリャの隣で驚いた顔でシニシャを迎えている。
「お久しぶりでございます、シニシャ様。」
その言葉で硬直を解かれたのか、ツカツカとリュウヤのところまで行くと、
「なぜ、あの二人がいるのだ?」
掴みかからんばかりの勢いで問い詰める。
「ゼシカの方は、俺じゃなくユーリャに聞かないとなあ。
優しい傭兵のおじさん。」
「どういうことだ?」
「言っただろう?
ゼシカは、ユーリャが主催する孤児院に居ると。
俺も出資者だからな。
時には孤児院から子供たちを食事に招いているだけだ。」
孤児院への慰問も行なっているが、こうやって招くことで、国としても孤児対策を重視しているとよりアピールできる。
「ゼシカの件は了解した。
では、ナタリヤ殿の件はどうなのだ?」
「知り合いのいないこの地に、愛しい男を訪ねてきたのだ。
その健気さに感銘を受けて、食事に招いただけだが?」
「・・・・」
「いや、これは文才がある者に教えて、恋物語のひとつも作ってもらいたいくらいではないか。」
悪ノリするリュウヤに、
「お前には、ナタリヤがそんなに健気な娘に見えるのか?」
小声ながらも、ドスの効いた口調で問いかける。
こちらの様子を伺っているナタリヤは、切れ長の目と、すっとした鼻立ちをしており、健気さよりも勝気さの方が勝ってみえる。
ゆったりとしたドレスを着ているため、その体つきはわからないものの、その立ち居振る舞いを見るに"深窓の貴族令嬢"よりも、"女武者"を思わせる。
「人は見かけによらぬもの、そう言うからな。」
しれっと答えるリュウヤ。
「それよりも、早く席に着いたらどうだ?
お前が席に着かぬから、食事が始められないではないか。」
用意されている席は、当然ながらナタリヤ嬢の隣。
「婚約者の隣というのは、当たり前のことではないかな?」
躊躇しているシニシャに追い討ちをかけるリュウヤ。
シニシャは"この野郎"とでも言いたげな表情を見せて、用意された席へと歩いていった。
☆ ☆ ☆
夕食は和やかに進む。
ただ、心穏やかでない者も中にはいる。
一人はゼシカ。
一国の王妃を招いての夕食会であり、龍帝国の側もそれ相応の者たちが参加している。
リュウヤやサクヤ、アナスタシアをはじめとして、アデライードにクリスティーネとマクシミリアン。新たなパドヴァの王となるユリウスとグラツィエッラ。
さらにギイとアイニッキ夫妻と、カルミラとライラ、エストレイシアとモミジ、フェミリンスが参加している。
国の重鎮が集まっている中に放り込まれて、緊張するなという方がおかしいだろう。
それをシニシャが面倒を見ているのだが、優しい旅の傭兵だと思っていた相手が王族と知り、これまた恐縮してしまって固まっている。
そしてもう一人、ナタリアは愛しい相手の意外な面を微笑ましく見ている。
「殿下がこれほどに面倒見のいいお方とは、思ってもおりませんでした。」
当初こそ、そう言って慎ましい婚約者を演じていたのだが、"戦巫女"の異称を持つエストレイシアと"鬼姫"モミジを交えて、武芸の話をしている。
それを、
「色気の無い話を。」
そう評しているのはカルミラとライラ。
エウドキアは、先程リュウヤが話していた各種学院について興味を抱いたようで、その説明をフェミリンスとリュウヤから聞いている。
魔術・魔法から農業、医学・薬学、建設・土木、林業、漁業に養殖業と多岐にわたる。
「いきなりそのような学院を設立して、上手く行くものなのでしょうか?」
「そのために、幼年期からの教育を始めている。
読み書きと四則演算を教え、そこから優秀な者たちを初等教育に進ませる。」
初等教育では、四則演算から基礎数学へと移り、各種専門教育への適性を見るために、それぞれの基礎教育を行う。
そこから専門教育を行う中等教育へと進ませ、教育と研究を行う高等教育へと繋げていく。
国としての教育とは、ただ国民を教育するというものではなく、優秀な人材を発掘するという意味合いもあるのだ。
「ただ、現時点で高等教育まで準備ができているのは、魔術・魔法学院と医学・薬学院のふたつだけなんだけどね。」
この場にヴィティージェが居れば、彼からより詳細な説明がされたであろう。
「もし、教育に興味がおありであれば、ヴィティージェより説明をさせよう。」
「是非とも、お願いいたします。
それともうひとつ。
先程は異国の者でも受け入れると仰られておりましたが、その方針は変わらないのでしょうか?」
「そのスタンスは変えようかないな。
そもそもの狙いが、この世界の文明・文化の底上げなんでね。」
「なるほど。それでは、私の甥や姪の留学先の候補とさせていただきますわね。」
夕食会は、そんな言葉で締めくくられた。
日中の温度差が激しいです。
体調に気を付けてください