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龍帝記  作者: 久万聖
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視察報告

「よお。遅かったじゃないか。」


 岩山の皇宮に戻ったリュウヤを迎えたのは、廷臣たちとシニシャだった。


「お前は度々やって来るが、セルヴィ王国の軍事担当というのは閑職なのか?」


 軍が暇なのはいいことではある。

 だが、それは一般の兵士たちの事であり、そのトップである者が暇なのはどうなのだろうか?

 トップにある者というのは、常に最悪のケースを考え、それに対処するべく対策を練ると同時に他国の様子にも目を光らせなければならない、はずである、軍を指揮する立場の者ならば。


「龍帝国とオスマル帝国の和平が成立しているからな。

 だから、それほど忙しいわけじゃないさ。」


 この地域における、軍事の二大巨頭が和平を結んだため、大きな懸案は無くなったということらしい。

 あくまでも、「当面は」でしかないが。


 ただ、両国に挟まれた国々は、自身が騒乱の元となることで睨まれたくない、そんな意識が強く働いているようである。


「お前が怠けられる時代になったということか。」


 皮肉ともつかぬ、リュウヤの言葉。


「お前さんのおかげだな。」


 悪びれないシニシャの言葉。


 リュウヤは苦笑しながら玉座の間に向かい、シニシャは一旦、用意されている居室へと戻る。


 リュウヤには、玉座の間にて廷臣たちに自分の視察したことへの報告をしなければならない。


 玉座の主人といえど、廷臣たちへの報告は必要なのだ。

 そうする事で自分の意思と考えを示し、それと同時に廷臣たちとの知見の共有を図るのだ。


 シニシャにしてみれば、"絶大な力を持つのだからやりたいようにやればいいじゃないか"と思うのだが、どうもあの男にはそういう意識が無いようである。

 むしろ、絶大な力を持っているからこそ、より慎重かつ丁寧になろうとしている、それがシニシャの見立てであり、それはあながち間違いではない。


 絶大な力を持つ者は、それに伴って巨大な責任を負うもの。


 リュウヤはそう考えており、その考えを元に行動するように心がけている。


 玉座の間には、アデライードをはじめとする者たちが勢ぞろいしている。


 その前を堂々と進み、玉座に座る。


 慣れることは無い、そう思っていたのに今ではすっかり馴染んでしまっているような気がするのは、気のせいではないだろう。


 そんな感慨はさておき、いくつかの報告と指示を出すことにする。


 まずは牛人族ミノタウロス人馬族ケンタウロスの入植地の視察の報告。


 当然ながら入植したばかりであり、開墾もこれからというところ。

 食料生産などというものはまだ覚束ない状況であり、それらの手当てをしなければならない。

 この辺りは、視察に同行していたラティエを中心にして、援助計画及び食料増産を図る対策を策定するように命じる。


 城の建設は順調に進んでおり、またバティア王国のドワーフ、マティヌスなる者を現場で雇っていることを伝え、彼のための雇用契約を結ぶようトルイに命じ、また今まではタルヴォが身銭を切って雇っていたことを伝えて、その分の補填をするよう伝える。


 そして、鬼人オーガ族にとって待望の米を、竜女族ヴィーヴルが持ち込んでいたことを伝え、モミジに稲作の経験があるもの選び、竜女族と共同で耕作地の選定をするよう命じる。


 モミジは米が見つかったことに喜び、


「すぐにその選定に取り掛かります!」


 そう宣言している。


「だがモミジよ。

 竜女族が持ってきた米は、お前たちが食してきたものとは違う品種かもしれないからな。

 あまり大きな期待はするなよ?」


 米には大きく、大粒種(ジャバニカ種)・長粒種(インディカ種)・短粒種(ジャポニカ種)の三種類があり、それぞれの食味が違う。

 日本で栽培されているものは短粒種であり、粘りが強い。

 逆に、東南アジアで栽培されている長粒種はパサつきがある。

 また、大粒種もパサつきが強い。


 平成五年(一九九三年)、冷夏によって収穫量が激減したため、日本政府は東南アジアから米を緊急輸入したが、この食味の違いというものを考慮することなく行ったため、東南アジアのコメ(タイ米)は不味いと忌避されることになった。

 その結果、緊急輸入された米は市場で売れることもなく、アフリカなどへの食料援助に回されたという笑えない冗談のような状況を生んでいる。

 しかも、大量に輸入したために米の国際価格の急上昇を招いた上での行為だったために、大きな批判を浴びることにもなっている。


「わかりました。そのあたりも、確認したいと思います。」


 モミジはそう返答し、一礼する。


 これでやることは終わりだと思い、立ち上がりかけたところで、


「陛下、ひとつお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 カルミラにそう声をかけられる。


「ん?なんだ?」


「朝方、湖の方より巨大な魔力の高まりを感じたのですが、何かなされたのでしょうか?」


 その質問に、周囲の視線がリュウヤに集まる。


 どうやら、多くの者たちが気になっていたようである。


「ああ、あれは金剛石ダイヤモンドを生成していた。」


「金剛石を、でございますか?!」


 廷臣たちがどよめく。


「金剛石とは、意図的に生成できるものなのですか?」


「原理自体は簡単だ。炭素と呼ばれるものを、超高温、超高圧の状態にさらせばいい。

 自然に生成されるには、それこそ気の遠くなるような時間が必要だが、それを魔力によって短縮しただけだからな。」


「それは、私たちにも出来るものなのでしょうか?」


「できるとも言えるし、出来ないとも言える。

 やってみなければわからない、そんなところだ。

 俺にしても、何度か失敗しているからな。」


 リュウヤはそういって笑う。


 原理を知っているからといって、最初からうまくいくわけではないのだ。


「質問は終わりか?

 ならば、俺は行くがいいか?

 なにせ、客を待たせているからな。」


 そう、セルヴィ王国の王妃が自分の娘であるアナスタシアに会いに来ているのだ。


 サクヤの話によれば、なにやら変な誤解もあるようである。

 すでにその誤解は解かれているようではあるが、挨拶はしなければならない。


 質問は無いようなので、リュウヤは立ち上がるとサクヤを伴い、客人の元へと向かうのだった。






 ☆ ☆ ☆







 リュウヤが向かったのはアナスタシアの部屋。


 そこに、セルヴィ王国王妃エウドキアとシニシャ、そしてマリーアとその子供二人もいる。


 リュウヤが入室すると、アナスタシアをはじめとする、龍帝国に仕える者は一斉に立ち上がろうとするが、リュウヤは軽く手を挙げて制する。


「お待たせして申し訳ない、セルヴィ王国の方々。

 特に王妃殿には説明不足から、色々と心配をおかけしているようで、申し訳なく思っている。」


 それに対して、


「いえ、こちらの勘違いから押しかけてしまいまして、大変申し訳なく思っております、龍帝陛下。」


 エウドキアも、リュウヤに一礼して謝罪の言葉を述べる。


「思っていた以上に、アナスタシアを大切に扱ってくださっておられるのを知り、とても感謝しております。」


「いや、それは当然のこと。

 それに、アナスタシアはとても利発な、良い娘だ。

 エウドキア王妃殿の、教育の賜物なのでしょう。」


 リュウヤはエウドキアを褒めることを忘れない。

 実際、アナスタシアはとても良く教育されており、手がかかることも少ない。


「そう仰っていただけるのは、望外の喜びですわ。

 ただ、手紙の書き方をしっかりと教えていなかったのが、少し残念です。」


 そうエウドキアは口にすると、セルヴィ王国から付けておいたアナスタシアの侍女たちを一瞥する。

 その視線を受けてバツの悪そうな表情をする侍女たちだが、彼女たちがしっかりと手紙の内容を確認しておけば、今回のような誤解は起きなかったのだ。


 そこに、今回の騒動のきっかけとなったスヴィが、リュウヤの元にヨチヨチ歩きでたどり着く。


「随分と歩けるのだな。」


 そう言って抱き上げる。


 抱き上げられたスヴィは、満足そうな表情でリュウヤの胸に顔を埋める。


「アナから聞いちゃいたが、本当に良く懐いてるな。」


 シニシャが感心したように言うが、その口調を咎めるようなエウドキアの視線に、思わず慌てる。


「子供、特に小さな子供というのは、自分を守ってくれる相手を見極める能力があるのだそうだ。

 この子も、俺なら守ってくれると思っているんじゃないのかな。」


「たしかに、護衛としては世界最強だろうな。」


 アナスタシア付きの護衛である、ナスチャはそう軽口を叩く。


「そういうナスチャも、随分と懐かれているだろうに。」


 そう、スヴィがよく懐いているのはリュウヤ以外では、サクヤとナスチャ、そして兎人族のラニャだ。

 ナスチャとラニャは、スヴィを救出したこともあるのだろうと思われる。


 コンコンっと、扉をノックする音がして、


「アナスタシア様、お茶をお持ちいたしました。」


 アナスタシア付きの侍女が声をかける。


 室内にいる侍女が扉を開けると、そこにはアナスタシア付きの侍女だけでなく、リュウヤ付きの侍女も来ていた。


 この部屋に、けっこうな数の人がいるため応援としてきたようである。


 こうして、リュウヤらとセルヴィ王国王妃エウドキアらとの歓談が始まった。


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