西方の状況
リュウヤは、蟲使い一族の族長アーグが来たことを確認すると、獣人族の族長たちとアレコス、マルヤーンを連れて別の場所にて協議を行う。
アレコスとマルヤーンは、ここにいていいのかと顔を見合わせるが、そのままこの場に残っている。
まずはアーグから、築城の進展状況の説明を受ける。
縄張り(城の設計図のこと)が完成し、一部の工事が開始されているとのこと。
それに関して、一部気になる報告があった。
それは、バトゥ王が治めるカルドゥハルとは違う国に所属するドワーフがやってきているということだ。
そして、工事に参加しているとのことなのだが、
「総指揮はタルヴォがとっていたな?」
ひとりのドワーフの名を挙げる。
「はい。違う国の出身であるのに、同じドワーフということで意気投合されております。」
「ほう。ならば、帰りに寄ってみるか。」
カルドゥハルとは別の国のドワーフに会う。
なにがあるのか楽しみではあるが、築城とドワーフに関する話はここで切り上げる。
そして本題である、神聖帝国との状況について熊人族グリフから説明される。
「誰かさんの手のものが、なにかやらかしてくれたらしくて、内部がかなり混乱しているようだ。
そのおかげで、こちらに手を回す余裕はないようだな。」
そのせいか、神聖帝国による経済封鎖もかなり緩んでいるとのこと。
完全に解除されているわけではないところに、神聖帝国の意地が見えているようにも感じる。
「それと、至高神神殿から出てきた者が何人かいたな。」
「至高神神殿から?」
少なくとも、神聖帝国帝都パルドビツェの神殿の教義では、獣人族は不倶戴天の敵であるはず。
その獣人族の地に、自分から選んで入ってくるというのは・・・。
「ついに始まったか。」
至高神神殿の分裂。
出てきたのは、いままで表に出て来なかった融和派だろう。
ようやく、至高神聖女派を立ち上げられるようになるが、その前に考えておかなければならないことがある。
「グリフ、お前たちは彼らをどうする?」
「そうだな・・・」
グリフは腕組みをして少し考え込む。
獣人族としては、長年の戦いで殺された者たちやその家族もおり、簡単には答えを出せそうにない。
怨讐の連鎖とは断ち切り難いもの。
だからグリフもおいそれとは答えることができない。
「全員、こちらに回すといい。
獣人族の国では、新たな火種になりかねんだろうからな。」
怨讐は断ち切り難い。
たとえ、神聖帝国から出てきた者たちが無関係だとしても、その国の出身というだけでその対象となり得るのだ。
そうなってしまえば、国内に火種を抱えることになる。
そしてもう一つ。
出てきた者たちの中に、工作員が紛れ込んでいる可能性。
内部から破壊工作などされては、たまった者ではない。
だから、全てを龍帝国へと回させる。
そうすれば、少なくとも獣人族の国への被害は抑え込むことができる。
「そうだな。それが一番いいだろうな。」
「ええ、それがいいでしょう。すでにピリピリしている者たちもいますから。」
羊人族サリュラがそう口にしたことで、それは決定される。
「あ、あの、陛下。」
アレコスが、遠慮がちに問いかける。
「私と、マルヤーンはここにいてよかったのでしょうか?」
「いてもらわなければならないな。いざという時、お前たちが、蟲使い一族とともに獣人族への援軍の第一陣となるのだからな。」
そのための顔合わせを兼ねていたのだと、アレコスとマルヤーンは気づいた。
そして、すでに龍帝国の一員として組み込まれていることを理解する。
「不満か?」
「い、いえ、そんなことはありません。」
リュウヤの言葉に、慌てて否定するマルヤーンだが、
「突然、そんなことを聞かされたら、そういう反応になるのも当然か。」
リュウヤはそう言って笑う。
そして、
「いや、突然のことだからな。嫌ならば、そう言ってくれ。
それは今でなくてもいい。
考えて、それで嫌ならばそれで構わない。」
その言葉に、再び顔を見合わせる。
「それでは、なぜこの場に我々を?」
マルヤーンの疑問。
「知っておいて欲しかったんだよ。
現在の、龍帝国の主敵がどこか。
その相手の状況はどうなのかってな。」
「・・・・」
二人からの返事はない。
リュウヤは立ち上がると、
「アーグ。今夜は蟲使い一族の村に世話になるが、問題はないか?」
「はい。村の者たちも、久しぶりに陛下がお越しになると聞いて、張り切っております。」
「グリフ、お前たちも来るだろう?」
「酒の誘いとあれば、行かない理由はないな。」
グリフは豪快に笑い、ガルフとサリュラも、それに同意したのだった。




