入植地の会談
職場でノロウィルスの流行があり、くたばっておりました
行幸から戻ってからのリュウヤは忙しい。
この日は、牛人族と人馬族の入植地への視察。
入植して十日ほどしか経っておらず、新たな要望がないかの確認と、新たに合流した牛人族と人馬族の人数の確認が主目的となる。
なにせ、入植したからといってすぐに生活ができるようになるわけではない。
住居の建設やそのための資材、人員の手配はもちろん、当面の生活に必要な食料の手配も必要だ。
そのため、今回の視察には龍帝国の食料関連を統括するラティエが同行している。
ミーティアの母であり、エルフの一部族の部族長であった彼女の部族は、最も早くトライア山脈南方に移り住んでいる。
そのせいもあってか、新たにやってくるエルフたちに頼られている存在ともなっている。
それが、今もリュウヤに同行している秘書官長であり娘であるミーティアの狙いでもあったのだが。
牛人族と人馬族の入植地は、蟲使いの集落の南にあり、獣人族の国との国境に接している。
入植を始めてまだ十日ほど。
ようやく、居住スペースの木々の伐採が終わったというところのようである。
世話役となっているのは、リョースアールヴのアルットゥ。
フェミリンスから推薦された人材である。
彼女がいうには、目立つような活躍をする人物ではないが、細やかな気配りができるという。
今回のような世話役には、うってつけの人材のようだ。
さらに、今回の入植地にはサギリと彼女が世話役となっているトール族を動員している。
これは、エルフへの恐怖感を拭いきれない両者が、エルフが使役する魔人形を受け入れられるのかがわからないため、まずはトール族を投入することにしたのだ。
リュウヤは最近になって、ようやく従順になってきた雪風に跨り、入植地へと到着する。
そのリュウヤの姿を最初に発見したのは、トール族と行動を共にすることの多いリュウネだった。
「りゅーやさま!!」
目敏くリュウヤを見つけたリュウネは、すぐに駆け寄ってくる。
「ここにいたのか、リュウネ。」
雪風から降りたリュウヤは、リュウネを抱き上げる。
そして、リュウネがいるということは、その教育係兼付き人であるツイリとシブキもいる。
"申し訳ありません、陛下。どうしても、トール族と共に行くと言って聞かなかったものですから。"
ツイリから謝罪の念話が入る。
"気にするな。"
そう念話にて返す。
「陛下!」
アルットゥとサギリが共にリュウヤの前に来ると、そのまま跪く。
そして、二人に遅れて現れた牛人族のアレコスと、人馬族のマルヤーンが、リュウヤの前に跪いている。
そして、それを遠巻きにして見ている牛人族と人馬族の者たち。
自分たちの庇護者であり、また仕える主人の姿を一目見ようとしているのだろう。
「面をあげよ。」
その言葉にアレコスとマルヤーンは、面をあげるもののすぐに下を向いてしまう。
この行動を、庇護下に入ったことで卑屈になっていると、そうリュウヤは捉えた。
「面をあげろ。俺はお前たちを庇護すると言ったが、隷属させたつもりはない。
それとも、お前たちは隷属するために庇護を求めたのか?」
その言葉に二人は、
「い、いえ、隷属するために庇護を求めたわけではありません!」
異口同音にそう反論する。
「ならば下を向くな。俺の顔を見て話をせよ。」
「は、はい!」
リュウヤの言葉に返事をすると、しっかりとリュウヤへと視線を向ける。
「少しはマシな顔になったな。」
そう声をかけ、両者の肩を叩く。
「今日はこの地の視察に来た。表向きは、な。」
「表向き、でございますか?」
アレコスの疑問。
「そうだ。ここに客が来る。
お前たちも同席してもらう。」
「新参者の私たちが同席しても、よろしいのですか、本当に?」
驚くマルヤーンに、
「新参者だろうが古参だろうが、俺には関係ない。
俺の下にいる以上、誰であろうとこき使うからな。俺が楽をするために。」
ニヤリと笑うリュウヤだが、その背後ではラティエとミーティアの親娘をはじめ、随員たちが笑いを噛み殺している。
随員たちの様子を不審に思い、アレコスとマルヤーンは互いに顔を見合わせる。
それを見て、背後の者たちがなにかしていると感じたリュウヤは、
「お前たち、なにか含む所でもあるのか?」
振り返ることなくそう問いかける。
「いえ。陛下はご自分が楽をするためにこき使うと仰られておりますが、これまで一度も楽になることなどなかったな、と。
そう思ったまでのことでございます。」
ミーティアの言葉に、堪え切れなくなったのか笑いはじめる随員たち。
「うん!りゅーやさま、いつもお仕事で走り回ってるよね。」
リュウネが無邪気にそう言って、駄目押しをする。
そんな様子を、アレコスとマルヤーンは不思議な物を見るような目で見ていた。
☆ ☆ ☆
客が来るまでの間、リュウヤは入植地の開拓状況の説明を受け、そして必要な物資をはじめとする要望を受ける。
開拓が行われてから、十分な収穫が見込めるようになるまで三年はみなければならず、その間の食料の支給をしなければならない。
それにはラティエの方から、どれほどの食料の消費があるのかの説明を、アレコスに求める。
その一方で、マルヤーンからは耕作するために必要な農業用水、飲料をはじめとする生活用水の確保を求められる。
それに対して、同行しているウッザマーニが地図を広げ、水路を引く計画を示される。
それを、一緒に来ているドワーフの技術者から説明され、マルヤーンがそれに対して意見を言い、計画の修正が図られていく。
そんな議論が白熱してきた時、来客の報告を受ける。
報告をしたのは熊人族アミカ。熊人族族長であり、獣人族の国の代表でありまとめ役グリフの娘だ。
人好きのする丸顔と、それと反比例するかのような長身。
龍帝国へは、名目上は移住団の一員としてやってきている。
「熊人族族長グリフ、虎人族族長ガルフ、羊人族族長サリュラが到着いたしました。」
「わかった。だが、アミカ。
敬称はきちんと付けるように。」
かつての癖が抜けていないのか、敬称を付けずに報告したことに注意を与える。
「も、申し訳ありません、陛下。」
恐縮するアミカ。
元々、獣人族には仲間内に敬称をつける習慣がなかったらしく、兎人族のラニャもよく同じミスをする。
だが、国と国の付き合いとなればそうはいかない。
相手国の代表者には、敬称付きで呼称しなければならない。
敬称のつけ忘れどころか、つけ間違いで関係が悪化した事例すらあるのだ。
「絞られているようだな、アミカ。」
そう声をかけてきたのは、熊人族族長グリフ。
リュウヤは立ち上がって手を差し出す。
「久しぶりだな、グリフ。」
長身のリュウヤを見下ろしながら、その手を握るグリフ。
「積もる話もあるが、まずは公務としての話を始めようか。」
アレコス、マルヤーンを交えての会談が始められる。
自分は罹患することはなかったのですが、休んだ人間の分の仕事が回ってきてフラフラになっていました。
罹患した本人もですが、残った人間も苦しむことになりますので、皆さまも手洗い等、しっかりとするようにしたください