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龍帝記  作者: 久万聖
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終結

 夜明けとともに、龍帝国軍は行動を開始する。


 リョースアールヴ、デックアールヴによる魔法攻撃。


 一人一人の火力自体、相当な能力を持つ者たちが一点に向けて魔法を放つ。


 いかに強力な結界といえども、これだけの火力を一点に集中させられては堪らない。


 宮殿を守っていた結界は破壊され、さらにその余波によって宮殿の門が破壊される。


 破壊された門の残骸を乗り越え、龍帝国軍が殺到する。


 本来なら迎え撃つはずのエルフたちは、想定外の事態に狼狽え、また結界を破られた衝撃により倒され、また戦意を消失して逃げ惑う。


 逃げ惑うエルフたちも、リュウヤの命令に忠実な者たちによって、見逃されることなく討ち取られていく。


「動く者は全て斬りすてよ!」


 指揮官たちはその命令を徹底させる。


 生かしておいては、いつまた牙を剥く存在となるかわからないのだ。


 宮殿は至る所にエルフの死体が転がり、エルフたちの血が付いていない場所はないほどに、血の匂いが充満している。


 もう後がないエルフたちは、思い思いの部屋に立て篭もり、最後の抵抗を試みる。


 本当に、これが最後の抵抗。


 エルフヘイムの者たちは、悲壮な覚悟で戦いに臨む。


 だが、それも両アールヴの圧倒的な魔力と、鬼人オーガの圧倒的な武力の前には、蟷螂の斧にすらならなかった。


 リュウヤの元には、宮殿の制圧状況がリアルタイムに届けられていく。


「教主はまだ見つからぬか。」


 リュウヤの呟きに、


「申し訳ありません。隠し通路を通ったことまでは確認しているのですが・・・。」


 答えたのは本陣に戻って、側に控えているキュウビ。


「隠し通路も、かなりの迷路になっているようで、探索に時間がかかっております。」


 エルフヘイムの教主は、もしものときを想定していたのだろう。

 オウム真理教の麻原彰晃も、意外なところに隠れていたものだと、リュウヤは思い出す。


「自分が最後まで残り、非戦闘員を先に逃がすなどしていれば賞賛もしたのだがな。」


「はい。そうであれば、我らもまた違った想いで戦えたでしょう。」


 キュウビの言葉は、前線で戦っている者たち全ての心情を代弁したものだろう。


「モミジに伝えよ。教主を捕縛、もしくは討ち取った時点で戦闘は終結であると。」


 これは、戦っている者たちを慮っての命令である。

 このままでは、単なる殺戮でしかないものを、教主を捕縛ないしは討ち取ることで終結させるという、明確な目標を与える。

 そうすることで心身の消耗を抑えたい。


 兎人ラニャが伝令として走っていく。


 その後ろ姿を見て、リュウヤはこの戦いが最終局面に入ることを確信していた。






 ☆ ☆ ☆






「どうしてこうなった!」


 この日、何度同じことを口にしたかわからない。


 ヌーッティは自問自答を繰り返す。


 かつての蛮族の襲来から三百年。


 この地のエルフをまとめあげるために、エルフは光神ユリシーズすえとし、それゆえに最も優れた種族であると、そう三百年かけて皆を導いてきた。


 そして、この世界をエルフによって統治された世界にするのだと、一つの方向へと進ませたはずだった。


 それなのに、今の状況は何だというのだ!


 始源の龍が復活したと思ったら、わずか三年足らずで崩壊してしまった。


 他の地域のエルフに賛同者を得て、世界制覇へと歩き出したばかりのはずなのに!


 それが今では、隠し通路の奥にしつらえておいた穴倉で、息を潜めなければならないなんて!


 時折聞こえる足音にビクつきながら、ヌーッティはまるで呪詛のように口にし続ける。


「どうしてこうなったのだ。」


 と。






 ☆ ☆ ☆






「隠し通路の探索をしておりますが、いまだに教主らしき者は発見できません。」


 モミジから報告を受けるリュウヤは、少し考えてから、


「教主は穴倉に籠っているのだな?」


 そう確認する。


「はい。翼人族や夢魔族が周囲を上空から調査しておりますが、それらしき人物は発見されておりません。」


「ならば、燻し出してやれ。

 相手を、俺たちと同じような知性あるものとは思うな。」


 この言葉にモミジは破顔する。


「わかりました。アナグマ猟の要領で行います。」


 その返答にリュウヤは頷き、


「生死は問わん。皆にそう伝えよ。」


「はっ!」


 モミジは踵を返し、軍の指揮へと戻っていく。


 教主ヌーッティの潜む隠し通路の探索は、狩り出すための狩猟場へと変わる。






 ☆ ☆ ☆






 ヌーッティが、周囲の様子の変化に気づいたのは、隠し通路脇に偽装した隠し部屋まで立ち込めてきた煙によってだった。


「煙?なぜこんなところに?」


 隠し通路は洞窟を掘り進めたものであり、迷宮のように入り組んでいる。


 それなのに煙?


「ま、まさか・・・!?」


 この居場所がバレたのか?


 だから、煙を立ち込めさせて燻り出そうとしているのか?!


 このままここに居ては、煙が充満しての窒息死。


 だからといって、ここから出れば敵が待ち構えている。


 どちらも待ち受けているのは死。


 だが、どちらがまだ生き残れる可能性があるか?


 ヌーッティは必死に考える。


 だが、状況はそれを許さない。


 煙の臭いが変化してきたのだ。


「まさか、これは毒?」


 いかに肥満体だろうと、そこはエルフ。

 野草の知識は豊富にある。


 そして、この煙の臭いはその知識の中に入っている。


「ま、まずい。ここに居たら確実に死んでしまう!」


 外に出て捕まったとしても、このエルフヘイムのエルフたちを丸め込んだ話術が自分にはある!


 そうだ!


 最初からそうしていればよかったではないか!


 龍帝などと言っても、光神ユリシーズによって生み出されたエルフほどの知性はあるまい。


 よし、そうと決まればすぐに行動しなくては!


 とても都合の良過ぎる未来を描いたヌーッティは、意気揚々と龍帝国軍の前に姿を現したのである。



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