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龍帝記  作者: 久万聖
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ヌーッティ

 安全だと確信していたこの場で、パーヴァリの裏切りを知らされて、ヌーッティは恐慌パニックに陥る。


 それでも、女と子供たちを先に逃がしたのは、その本心を知らなければ「天晴れ」と褒めたいところだったかもしれない。


 教主ヌーッティ好みの、肌が透けて見える薄衣うすぎぬを着たエルフ女たちは、慌てて子供たちを連れてこの部屋から逃亡する。


 ヌーッティはほくそ笑む。


 女たちは大騒ぎをして出て行った。

 当然、その騒ぎは衛兵たちの耳に入り、この部屋に大挙して押し寄せてくる。


 パーヴァリは、このエルフヘイムでは屈指の戦士だが、それでも多数の衛兵が来れば、今ここで取り囲んでいる者たち共にかかれば、十分に倒すことができる。

 しかも、自分は戦わなくても、女子供を先に逃がして残ったとなれば、一層の求心力になる。


 ヌーッティは、恐慌パニックになりながらも(したたかに計算していた。


 そんなヌーッティにも考えが及ばぬことが、目の前で起こる。


 パーヴァリと、そのパーヴァリを詰問していたエルフたちが一斉に自分の方を見たのである。


 驚いたのはヌーッティだけでなく、彼らを案内してきたエルフも同様だ。


「お、お前たち、どうしたの・・・」


 最後まで話し切ることはできず、パーヴァリに一刀のもとに斬殺される。


 噴き上がる血を見て、腰を抜かすヌーッティ。


 そして、自分の股間を生温かい液体で濡らしている。


「あわわわわっ!」


 言葉にならぬ音を漏らし、そのまま後退あとずさる。


「何事です?!教主様!!」


 ヌーッティの強運は続く。

 絶体絶命の危機ピンチに、衛兵たちがやって来る。


「む、謀叛むほんじゃ!パーヴァリどもが裏切ったのじゃ!!」


 ヌーッティの言葉に、駆けつけた衛兵たちに緊張が走る。


 パーヴァリが強敵なのは理解している。

 だが、衛兵たちは自身の職責に忠実だった。


「パーヴァリどもを討って、教主様をお救いせよ!!」


 たちまち部屋の中は乱戦になる。


 たちまち立ち込める血の匂い。


 そんな凄惨な現場を、ヌーッティはこっそりと隠し通路を通って逃げ出す。


 とにかく、この現場をやり過ごして生き延びるために。


 それを、エルフたちに紛れて潜入している天狗てんこう族に見られているとも知らずに。






 ☆ ☆ ☆






 宮殿の外の抵抗は、すでに小さなものとなっている。


 無数のエルフたちが屍となり、無残な姿を晒している。


 本陣を前進させたリュウヤは、その現場を見て信長と対峙した一向一揆を連想する。


 越前一向一揆や長島一向一揆。

 どちらも信長に徹底抗戦をして、そして皆殺しになる。


 特に長島一向一揆では、一度降伏を認めておきながらの皆殺しであり、この一件に関して信長の評判はすこぶる悪い。


 曰く、降伏を認めたのにそんなことをするなんて。


 曰く、女子供、老人たちもいたというのに。


 曰く、宗教弾圧だ。


 等々の批判を浴びせられる。


 一番目の批判は、当然のものといえるだろうが、二つ目、三つ目の批判は本願寺側に帰せられるべきものだ。


 信長に対して先に手を出したのは本願寺側であり、結ばれた和睦も全て本願寺側が破棄している。

 見方を変えれば、約束を破棄するという点において、信長は本願寺と同じ土俵に立ったとも言えるのだ。

 そして、女子供や老人たちを殺すことになったのは、本願寺が信長を「仏敵」と規定し、「戦わなければ地獄に堕ちる」と信徒たちに喧伝したことによるもの。

 その結果、老若男女問わず戦わなけれはならなくなった。

 なにせ、信長と戦わなければ地獄に堕ちると、自分が信仰する宗派のトップが言うのだ。信徒としては戦わざるを得ない。


 だが、立ち向かってきた一向宗信徒を殺した信長を非難する者はいても、信徒を戦いに駆り立てた本願寺顕如を批判する者はほとんどいない。

 そして、老若男女問わず、信徒を戦いに駆り立てた本願寺顕如は、その責任を問われることなく生き残っている。


「どうかなされましたか?」


 どこか考え込む風なリュウヤを見て、シズカが話しかける。


「いや、俺のいた世界の歴史を振り返っていただけだ。

 これと同じことをした人間がいるが、その人物はどんな気持ちでこれを見ていたのか、とね。」


 実は、信長の記録を読むと人間的にとても優しい人物だということがわかる。

 無論、"そこには敵対しない限り"という前提条件が付くが。


 そんな信長が、領民を煽って戦わせた本願寺顕如に対して、どのような感情を抱いていたのだろうか?


 興味は尽きないが、意識を現実に戻す。


「敵の領袖が逃げ込んだ場所は、特定できているのか?」


「潜入している天狗族が、居室からの隠し通路を確認、探索を行っております。

 また、翼人族、夢魔族が連携して上空から探索、ヒサメらが龍化してその援護をしております。」


 シズカの報告に、リュウヤは頷く。


 そこへモミジがやって来る。


「陛下。あとは宮殿を残すのみとなりました。」


「そうか。」


「つきましては、ここで兵を交代で休息させたく思いますが、よろしいでしょうか?」


 モミジの提案。


 休息を取らせた後、夜明けとともに総攻撃を仕掛ける腹づもりだろう。


「いいだろう。大規模魔法が必要なら、両アールヴを使うといい。」


 宮殿にかけられている結界を破壊する、そのために大規模魔法を使用する許可を与える。


「ご配慮、ありがとうございます。」


 最初に送り込んだパーヴァリの所在を、一度見失うほど強力な結界なのだ。

 相当な力でもって対処しなければ、破壊することはできないだろう。


 そして、戦いは最終局面に入っていく。

体調不良が続いております。


楽しみにされている方々には、とてもご迷惑おかけして、申し訳ありません。

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