穏やかな日
二日酔いに悩まされながら、午前の会議を終える。
リュウヤは自分の執務室にもどると、サギリを呼ぶ。
「サギリです。」
「入れ。」
サギリはリュウヤを前にして、緊張しているようだ。
「今日より、巡視班から外す。」
「!?」
驚きの表情をリュウヤに向ける。
「人員が増えたことによる、再編と人事異動だ。」
人間たちの兵士が来たことで、龍人族と巡視地域の分担をすることになった。その為の再編の一環。
「ですが、私は・・・」
「お前には別の役目を与える。」
「・・・別の役目、ですか?」
「そうだ。お前には、トール族の監督を任せる。」
「!?」
「不満か?」
「い、いえ、不満など!」
リュウヤは立ち上がり、ゆっくりと歩きだす。そして、サギリの肩を叩く。
「トール族のこと、任せたぞ。」
そう言ってリュウヤは先に部屋を出る。
「ありがとうございます、陛下!!」
リュウヤに向けてサギリは感謝の言葉を発し、トール族のもとに駆けて行った。
午後の会議。
参加しているのは、サクヤとその従者であるトモエとシズカ。グィードとギイ、巡視班の者達。
そして、パドヴァの王族の子弟たちのうち10歳以上の7名。現場を見せることで教育を図るのが目的である。
巡視班は5班25名体制だったが、サギリが抜けたため、その補充を図るだけでなく、巡視エリアの設定。
西部湖沼地帯と北方山岳エリアを受け持つ。そして補充要員は、トモエからの推薦によりアマネ(雨音)を入れる。
人間たちは東部を担当。
ドヴェルグが南部を担当することに決まる。
東部、南部に龍人族を配置しないのは、パドヴァ王国を事実上壊滅せしめた戦力であり、他国になるべく脅威を抱かせないようにするためである。
トール族が道を切り拓いた副産物である、大量の木材があるため、それらを加工することで、住居の建設を進める。
トール族の復帰には、あと5日から7日かかるとの報告があり、それまでは開拓よりも建設を優先する。
次々と議題を片付けていく。
「君たちは、意見はないか?」
リュウヤは末席にいるパドヴァの王族の子弟に声をかける。
11歳から15歳。男子4名と女子3名。貴族の子弟らも入れたいところだったが、スペースの問題もある。
「いえ、ありません。」
最年長のユリウスが答える。他の者も同意したように頷く。初日から意見など言えるものでもないだろう。
「では、それぞれの仕事についてくれ。」
会議後、リュウヤはデュラスとジゼルのもとに行く。側仕えのタカオと、ユリウスら4名もそれに続いている。
側仕えも、パドヴァの王子たちの存在もあるため、増員されることが決定している。
「待たせたな。」
デュラスたちのいる部屋に、リュウヤはそう言って入る。
デュラスたちも立ち上がってリュウヤたちを迎える。
「昨夜は失礼いたしました。無礼講とはいえ、あのようなことをしまして。」
「いや、無礼講といったのは私自身。自分が言い出したのですから、文句などつけられん。」
そう言って笑う。
握手をした後、実務的な話にはいる。
イストール側からは、年内は国内の混乱を鎮めるための期間としたい。そのため、来年の春以降で使節団の派遣を、とのこと。
リュウヤ側としては、イストールの提案はむしろありがたい。来年の春以降なら、半年ある。それだけ迎えいれる準備期間ができるのだから。
そして、ジゼルと騎士10名ほど、連絡役として残す旨が決定された。
「サクヤ様、今日はとてもご機嫌がよろしいわね。」
トモエが小声でシズカに言う。
朝からとても機嫌が良い。
なぜだろう?
昨夜、どこかに行かれていたようだけど?
もしかして、リュウヤ様のところへ?
じゃあ、リュウヤ様と進展が?
従者といえどもそこは女性。恋愛絡みの話は盛り上がる。
「ふたりとも、王女たちもおられるのですよ。」
サクヤたちの周りには、穏やかな時間が流れていた。