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龍帝記  作者: 久万聖
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エルフヘイムの戦い 前編

 日没とともに、エルフたちの籠る森に火の手が上がる。


 これはバルバラとベアトリクスの放った、眷属化したエルフとともに潜入した、天狗(てんこう)族によるものである。


 それと同時に、眷属化されたエルフの一部が結界を破壊する。


 そして、火の手を合図に龍帝国(シヴァ)軍は一斉に進軍を開始する。


 一糸乱れず、整然とした行軍。

 エストレイシアの訓練の賜物であろう。


 迎え撃つ形になったエルフたちは、予想外の出来事に混乱している。


 結界を破られる可能性は考慮してはいた。

 だが、開戦と同時に破壊されるとは予想だにしていない。


「結界が破られるのは想定していたであろう!

 それが早まっただけだ!!」


 指揮官クラスの者たちは、そう叱咤して立て直しを急ぐ。

 敵にもエルフがいるのだ。

 結界を破られるのは想定していた。


 指揮官の叱咤する言葉に、エルフたちは落ち着きを取り戻す。


 だが、そうはさせじとデックアールヴとエルフの有角馬(ナルダ騎兵が突入してくる。


 カッレが指揮する有角馬騎兵隊の目的は、敵中突破してその背後に展開、中から外に押し出すことだ。

 そのため、突破時には抜いていなかった武器を、背後にて展開した時に一斉に抜く。


「突入せよ!」


 カッレの号令のもと、有角馬騎兵隊はエルフたちに襲いかかる。


 エルフヘイム側は、大きく劣勢に立たされる。


 本来ならば、樹上に陣取った弓兵の援護が得られるはずなのに、今回ではそれが望めない。

 火の手があちこちから上がり、その消火活動に人員を奪われてしまっているのだ。


 それだけではない。

 火の手から立ち込める煙が、なぜか樹上に立ち込めて晴れていかないのだ。

 この状態では、樹上に居ては目や鼻、喉をやられてしまう。


 龍帝国てきのエルフか、リョースアールヴによる魔法の効果だろうと推測される。

 だが、いくら推測できたとしても、完全に包囲され、全方位から同時に侵攻されては解除するための人手が不足している。


 そしてなによりも痛いのは、龍帝国は最初から皆殺しにすることを前提として進軍をしていることだ。

 これでは負傷者を盾に使うことが出来ず、また確実に仕留めにかかっているため、倒されることはそのまま戦力の減少に繋がる。


 死をも恐れぬ者たちであったとしても、死んでは戦力にならないのだ。


 その一方で、リュウヤの「皆殺し命令」に反発していたトモエたち龍人族も、今ではその命令の正しさを受け入れざるを得ない。


 通常であれば、二割も敵を倒せば崩れていくものだが、このエルフたちにはそれが通用しない。

 腕を斬り飛ばされても、また足を斬られても、なお向かって来るのだ。

 口が使えるなら魔法の詠唱や、精霊魔法を使って。


「まるで屍鬼(グールでも相手しているみたいだ。」


 と、トモエは感想を漏らす。


「それだけじゃないわよ、見てアレ。」


 声をかけてきたのはヒサメ。

 そのヒサメの視線の先にいた者、それは年端もいかないような子供たち。

 その子供たちも手に弓を構えて、こちらに狙いを定めている。


 それだけではない。

 別の場所では、子供たちが拙いながらも詠唱を行い、魔法を発動させようとしている。


 そして、その子供たちの目は敵愾心で燃えている。


「出来ることなら、あの年頃の子らを助けたかったのだけど、無理ね。」


 ヒサメはそう言いながら、無詠唱で雷撃魔法を放つ。

 雷撃魔法を受けて倒れる子供たちに、とどめを刺していく。

 躊躇する者には、


「お前が躊躇えば、それだけ仲間達が傷つくことになるのだぞ!」


 そう一喝する。


「陛下には、後で謝罪しなければならないな。」


 トモエの言葉に、ヒサメも頷く。


「だが、今は目の前の者たちを殲滅することに全力を尽くさねば。

 気は乗らないがな。」


 そう、圧倒的に自分達が強者であり、その強者たる自分達が圧倒的弱者を殲滅する。

 気が乗らないどころの話ではない。

 それでも、ここで根絶しなければ再び引っ掻き回されることになりかねない。

 気の乗らない戦闘を、トモエたち龍人族は継続していく。






 ☆ ☆ ☆






 リュウヤのいる本陣には、シズカ、スティール、ミーティア、ラニャ、ウッザマーニ、ナスチャ。

 さらに非戦闘員だが五人の聖女も、本人たちの強い希望でこの場にいる。


「なあ、龍帝りゅーていサマはエルフたちが、ああいう戦い方をすることがわかっていたのか?」


 ナスチャの疑問は、エルフヘイムのエルフたちが、子供たちすらも戦闘に立たせること、そして決して降伏などせずに戦い続けることを指している。


「わかっていたではなく、"知っていた"だな。」


 かつて自分がいた世界の歴史。


 宗教が絡んだ戦い、特に狂信的な信仰を持つ者達との戦いは、こうなるものなのだ。


「自分達が"絶対に正しい"、そう確信した者達の抵抗とはそういうものだからな。」


 キリスト教における、カトリックとプロテスタントの争い。


 織田信長を"仏敵"と宣言して戦った、一向一揆。


 どれも自分が絶対に正しく、だからこそ相手との話し合いや妥協は認められない。

 なぜならば、自分が絶対に正しいならば、相手は絶対に悪なのであり、そんな者の言葉に耳を傾けたり、妥協することは自分が悪に堕ちることを意味するのだから。


「だから、皆殺しにせざるを得ない、そういうことなのですね?」


 ミーティアが確認する。


「妥協が成立しない以上、そうなる。」


 リュウヤはそう答え、続ける。


「後は、奴らの教主とでもいうべき存在が、どういう態度をとるか、だ。」


「態度?」


「予想はつくがな。」


「そこまでわかるのかよ。」


 呆れたようなナスチャの言葉。


「二つに一つ。追い詰められて自死するか、無様に生き残ろうとするか、どちらかだ。」


 前者は人民寺院事件のジェームズ・ウォーレン・"ジム"・ジョーンズや、ブランチ・ダビディアンのデビッド・コレシュ、後者はオウム真理教の麻原彰晃が相当するだろう。


 ただ、前者の自死にしても、ジョーンズのように毒を飲んでの自殺と、コレシュのような自爆死では様相は違ったものであるが。


「バルバラ。あのパーヴァリとかいうのは、今どうしている?」


 側に控える吸血鬼ヴァンパイアの侍女は、


「教主と思われる者の側にいるようでございます。

 ただ、強力な結界が展開されているようで、断言は致しかねます。」


 眷属化した者とは、なんらかの精神的な繋がりができるとのことだが、それが強力な結界によって途切れているらしい。


「なるほど。穴倉に引っ込んだというわけか。」


 そう呟くと、


「ナスチャが捕らえた五人はどうした?」


 そう尋ねる。


「ああ、あいつらならベアトリクスにやったぜ。」


 その言葉に、リュウヤはベアトリクスを見る。


「はい。すでに眷属化は済ませてあります。

 解き放ち、教主の籠る穴倉を探す一助と致します。」


 リュウヤが言わんとしたことを理解し、ベアトリクスはそう返答するのだった。


 そして、戦いは掃討戦へと入っていく。


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