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龍帝記  作者: 久万聖
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攻勢への準備

リュウヤはリクハルドが天幕より出て行くと、大きく息をつく。


そして、翼人族の双子姉妹デリアとエイレーネを呼ぶ。


「モミジのところに伝令を頼みたい。」


二人にそう告げると、その内容を伝える。


内容を聞き、二人の顔が強張るのがわかる。


普段のリュウヤならば絶対にしない命令。


「明日の日没とともに進撃を開始。

そして、老若男女問わず根切りにせよ。」


"根切り"とは、文字通りの皆殺しである。


「ほ、本当によろしいのですか?」


普段のリュウヤならば、"無駄に殺すな"、"非戦闘員は絶対に殺してはならない"、そんな命令を出している。


それなのに今回はなぜ?


「モミジたちのためだ。

進撃を開始すれば、そうせざるを得なくなる。

だから、先にそう命じておくのだ。

そうすれば、モミジたちの心理的負担は軽くなるだろう。」


全ての責任は自分が負う。

今回のことによってもたらされる全ての汚名、悪評の全てを。

そう言っている。


「わかりました。御言葉のとおりに、モミジ殿にはお伝え致します。」


ふたりは異口同音に返答すると、すぐに出立する。


ふたりが出立するのを確認すると、リュウヤは大きく頭を振る。


「上に立つ者の、最低限の務めだな。」


そう呟くと、スティールに対して命じる。


「非戦闘員はそのままエルフの里に向かわせよ。

戦闘要員は、護衛の者を残してモミジたちと合流する。」


さらに、リュウヤ自身もモミジとの合流する部隊に参加することを伝え、エルフの里に向かう者たちはサクヤが指揮を執ることが定められる。


トモエには一度岩山の皇宮へと戻り、すぐに参加できる龍人族を率いてモミジたちと合流するように命じられる。


「御一緒しなくても、よろしいのですか?」


サクヤが心配そうにリュウヤを見る。


そのサクヤの頭を撫でながら、


「心配しなくてもいい。

ただ、今回は見せたくはない姿を見せてしまうかもしれないからな。」


そう言うと、


「そちらは任せた。サクヤのことだからな。

十分以上に、俺の代わりを果たせるだろう。」


そうサクヤを送り出した。






☆ ☆ ☆






リクハルドは走る。


ただひたすらに。


あのリュウヤという男の言葉、あれは本気の言葉だ。


このままでは、間違いなく故郷(エルフヘイム)は破壊され、そして皆殺しにされる。


そう、自分の家族も。


自分の家族はもちろんだが、少しでも多くの同胞を助けたい。


だからリクハルドは走り続ける。


自分を見ている、ベアトリクスの視線に気づかぬままに。






☆ ☆ ☆






デリアとエイレーネから、リュウヤの命令を聞いたモミジは頷き、


「我らのことを気遣われての命令なのだな、これは。」


そう二人に確認する。


「はい。全ての責任は自分が負う、と。」


デリアの言葉に、モミジは空を見上げながら、


「あのお方は、どこまで見えているのだろうな。」


そう呟く。


「それはどういうことでしょうか?」


エイレーネの疑問。


「エルフヘイムなる国に逃げ込もうとしたエルフは、百人を超える。

そのいずれもが、捕縛されることを嫌い、自死した。」


ある者は舌を噛み切り、ある者は短刀を首に突き立てて。


「私どもの方も、似たようなものです。」


不意に二人の背後から声がする。


「キュウビ殿か。」


モミジの声かけに一礼すると、


「尋問をしたのですが、少し目を離した隙に自死しておりました。」


「私の方は、なんとか聞き出せたけど、少しだけね。

幻術やら房中術を駆使したのだけれど、正気に戻った途端にやられたわ。」


キュウビに続いて現れたファーロウの言葉。


「うまくいったとすれば、吸血鬼(ヴァンパイア)たちの眷属化かしらね。」


そう言うモミジの視線の先には、吸血鬼のバルバラがいる。


「残念だけど、頂いたエルフは、全員手駒として放っているわよ。」


そう艶やかな笑みを浮かべ、答えている。


「貴女たちが情報を引き出せないのなら、他の誰にもできないと考えておいでのようでしたからね、陛下は。」


「そんなことを?」


「ええ、私達に言われたのは、"有効活用"することでしたから。」


情報を引き出せではなく、有効活用。


モミジらがデリアたちを見ると、ふたりは頷いている。


「ですから、有効活用させていただきました。

今頃は、リクハルドなる者の後に続いて、エルフヘイムに入っていることでしょう。」


そして、ベアトリクスがその監視に入っていることも、伝えられる。


「なるほど。そのリクハルドなる者との約定にて、日没までに脱出を図るものはそのまま逃してもよいと、そういうことか。」


「はい、モミジ様。」


バルバラはそう答え、エイレーネが続ける。


「ただ、脱出しようとする者はいないだろうと、そう仰られておりました。」


「その通りだろうな、きっと。」


エイレーネの言葉にモミジはそう応じる。

そして、


「全軍に通達せよ。明日の日没とともにエルフヘイムに向けて総攻撃を仕掛ける。

日没の三時間前までは休息とする、と。」


日没の開戦に備え、全軍は態勢を整えていく。



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