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龍帝記  作者: 久万聖
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エルフの襲撃

行幸の列は、デックアールヴの里を出てエルフの里へと向かう。


そこに緊迫感は見られない。


そして、その行幸の列を高台から見下ろしているエルフたち。


カールレとは別の部隊であり、行幸を襲撃するのが目的である。


「襲撃されるなどとは思っていないようだな。」


行幸の隊列には、それなりに緊張感はあるが襲撃を予測しているような緊迫感は感じられない。


「パーヴァリ、先頭集団がこちらの想定した野営ポイントで準備に入っていると報告が来たぞ。」


千を超える大人数が野営できる場所というのは、どうしても限られる。

ある程度拓けていなければならないし、水源を確保しなければならない。


そういう場所を見つけるのは、森の住人たるエルフにとって容易いことだ。


だから、いくつかの候補地を選定し、その候補地ごとの作戦も立てている。


そして、報告の入った野営地は最も自分たちに都合のいい場所だった。


エルフの里からも、デックアールヴの里からも適度に離れており、どちらからも援軍が到着するには時間がかかる。

そして、襲撃後の逃走経路も確保しやすいという、襲撃側にとってはあまりに理想的な場所だった。


「罠、ではないのか?」


そう疑問を呈したのはリクハルド。

この部隊の中では、パーヴァリに次ぐ者だ。


戦い慣れたデックアールヴが配下にいるのに、そんなところに野営するだろうか?


「ふん。自分の力を過信しているのだろう。

所詮は、蛮族なのだからな。」


パーヴァリが吐き捨てるように口にする。


「ヴァンザントめが裏切りさえしなければ、もっと容易くこの地を奪えたであろうに。」


彼らの中では、この地でエルフが起こした戦いの敗因は、ヴァンザントの裏切りということになっているようである。


これは、リュウヤらが徹底的にそう喧伝し、情報を流していることが奏功している。

なによりも、ヴァンザントだけを生かしておいたことが、その情報に真実味を持たせているのだ。


「さあ、手はず通りに始めるぞ。」


パーヴァリはそう宣言し、懸念を示していたリクハルドもその言葉に従った。


そして、それを付近の木の上から見下ろしている、メッサリーナとその指揮下の夢魔族。


「なにやら、楽しいことを考えているようね。

それなら、その夢が永く続くようにしてあげる。」


蠱惑的な笑みを浮かべ、メッサリーナはそう宣言していた。






☆ ☆ ☆






夜も更けて、深夜。


トライア山脈の北側であり、また森の中ということもあり気温が低い。


そして水辺に近く、風もない夜。


霧の発生条件が揃い、夜霧が立ち込めていく。


襲撃には絶好の機会だろう。


この霧のおかげで、視界はもちろん音もある程度遮断される。


パーヴァリは好機と判断して、仲間たちに襲撃の指示を出す。


エルフたちの襲撃の方法は簡単だが、効果的なもの。


敵の一角で騒ぎを起こし、注意を引きつける。

そしてできた隙を突いて、本陣を強襲する。


それは成功する確度が高いと思われるものだった。


なにせ、自分たちは森を住処とするエルフであり、しかもこの霧だ。


一方的に、相手を翻弄できる。


そう確信して、行動に移る。


第一陣として、奇襲して騒ぎを起こすのはリクハルドが指揮する部隊。


リクハルドたちは気づかれることなく接近し、一斉に火矢を放つ。


霧により、燃え広がる速度は遅いが、混乱させるには十分なものだ。


混乱に陥ったことを確認し、パーヴァリ指揮下の本隊がリュウヤがいるはずの天幕に向けて飛び出す。


途中、幾人かの者を斬り捨てる。


手応えがないようにも思えたが、それほど気になるものではない。

なにせ、自分たちはエルフの国エルフヘイムでも指折りの精鋭なのだ。


リュウヤの休んでいる天幕へと押し入り、そこにいる者たちと剣を撃ち合う。


流石にリュウヤの側にいる者だけあり、なかなかの手練れのようだ。

容易に倒すことができない。


「なにかおかしい。」


そう一部の者が感じる。


「ま、待て!!双方、剣を引け!!」


パーヴァリが怒鳴る。


怒鳴るが、戦っている最中に止めることなど簡単にはできない。


「全員、相手の剣筋をよく見ろ!!」


そう怒鳴られて、皆が気づく。

そう、よく見知った剣筋であることに。


双方、剣を引いて戦いを収める。


呆然と立ち尽くす中、辺りの風景が変わり声がかけられる。


「楽しい夢は見れたか?」


その声のする方へ視線を動かすと、そこには長身の優男風の男が椅子に座ってこちらを見ている。


「なかなか楽しい見世物だったぞ。思い通りにできて、さぞや楽しい気持ちでいたのだろう?」


悠然と見ているリュウヤを見て、怒りを露わにする。


「幻術、か・・・。」


パーヴァリが呟く。

するとその耳元で囁く声。


「そう、その通りよ。あなたたちは、私たちの見せた幻術の中を楽しく動き回っていただけ。」


その言葉が終わると、周囲の者たちが倒れる音がする。


耳元で囁かれているため、迂闊な行動が取れないパーヴァリはその目だけを動かし、倒れた者たちの方を見る。


倒れているエルフの背後には、夢魔族がいる。


「夢魔族・・・!」


「そう、私たちは夢魔族。その意味は、わかるわよね?」


自分たちは夢魔族に捕らえられた。

後は、夢魔族による情報収集のための拷問。


その拷問も、徹底した快楽によるもの。

それに耐えられるがどうか・・・。


そう考えているさなか、パーヴァリはその場に崩れ落ちたのだった。


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