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龍帝記  作者: 久万聖
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エルフの里の出来事

リュウヤたちに先立ち、エルフの里に着いたミーティアはそのままこの辺りのエルフのまとめ役であるクイスマの元に向かう。


クイスマは、先の戦いの責任を取って族長を辞任したナルディルに代わり、新たに族長となっている。


無論、ナルディルらも辞任したからそれで終わりというわけではなく、クイスマに協力して里の立て直しから、賠償としての労働への参加など、積極的に参加している。


この時も、ナルディルはクイスマの相談を受けていた。


「クイスマ様、ナルディル様!」


「どうしたんだい、ミーティア。そんなに慌てて。」


旧知の親しさからか、ナルディルは穏やかな様子で迎える。


そしていま一人のクイスマは、当然の疑問を口にする。


「ミーティア、君はリュウヤ陛下の秘書官長ではないのか?

陛下は明後日到着予定と伺っていたのだけれど?」


クイスマはどのエルフよりも柔和な顔に、疑問符を貼り付けて問いかける。


「はい、そのことですが、里に"白の教団"のエルフが入り込んでいる疑いがあります。」


白の教団、その名を聞いてクイスマの表情は一変する。


「あの、忌まわしい者たちが入り込んでいるのか?」


柔和な顔を一気に嫌悪感を表に出してしまう。

それほどまでにこの地のエルフたちにとって、白の教団の名は唾棄すべき存在なのだ。


子供達を人質に取り、他種族への戦争へと駆り立てた者ども。

そのせいで多くの同胞の命を失った。


その白の教団が、再びこの地に蔓延るなど悪夢以外のなにものでもない。


「はい。かの者どもは牛人族(ミノタウロス)人馬族(ケンタウロス)を殺戮し、その手をこの地に伸ばしております。」


その言葉に絶句する二人。


「最近、両者の行商人の姿を見ないと思ったら、そんなことが起きていたのか。」


「両種族の生き残りは、リュウヤ陛下の庇護を受けるために、デックアールヴの里にて謁見をしております。」


そして、牛人族と人馬族はエルフに怯えていること、なぜそうなったかの説明を併せて伝えられる。


「そんなことがあれば、我らの元に向かおうとは思わないだろうな。」


ナルディルがそう呟く。


「そして、白の教団の正体は、東方の森のエルフたちが立てた国です。」


「国そのものが白の教団だというのか?!」


驚きを隠せない二人。だが、同時に納得もする。


単なる過激な宗教団体と考え、そういう組織を探していた。

それが、トライア山脈北方で根をはるデックアールヴの情報網にすら引っかからなかったのだ。


「国そのものが、一つの宗教団体だったとは。」


「そのことについてですが、陛下は三百年前の東方の人間族の来襲が原因だろうと。

その被害から立て直すため、部族の結束を高めるためにそういう宗教、教義を作り出したのだろうと。」


似たような事例は、リュウヤのいた世界にある。


二千年に渡る流浪を経験したユダヤ人。

彼らが民族として生き残ることができた理由の一つが、ユダヤ教による結束。

その結束こそが、ユダヤ人を滅亡した民族にすることなく、現在まで生き残ることに繋がっている。


「そんなことより、陛下はどのような指示を出されたのだ?」


クイスマが本題へと戻す。


「そうでした。リュウヤ陛下からのご指示は・・・」


ミーティアは説明し、それを聞いた二人は唖然としながらもすぐに行動に移した。






☆ ☆ ☆






行動は迅速に、かつ大規模に行われる。


エルフの国から来た者、全てが捕縛対象であり抵抗する者は抹殺する。


「エルフの国から来た者、全てを捕らえろ!」


捕縛に動く、完全武装したエルフたちが口々にそう大声で叫ぶ。


これに慌てたのは、エルフの国から来た者だけではない。

それと取引をしていた者たち。


彼らも内通の疑いで一斉に捕縛されていく。


騒ぎは大きくなり、潜伏していたエルフの国から来た者たちの耳にも当然ながら入る。


一軒一軒、しらみ潰しに探索する様子を見て、潜伏しているエルフたちは慌てる。

このままでは、自分たちが見つかり捕縛されるのは時間の問題。


「どうする、カールレ。」


リーダー格の名前を呼び、その判断を仰ぐ。


どうすればいいか、名を呼ばれたカールレは考える。


考える時間はあまりない。


「うまく溶け込めていると思ったのだがな。」


そう呟く。


「大声をあげて、一軒一軒回っているなら、まだ少しは時間がある。

我々と国との関係を繋ぐものは、全て破壊しろ。」


暗号を用いた書類をはじめ、色々とある物証も破棄する。


すぐに暖炉に火をつけ、証拠となりうるものは火にくべられる。


「気づかれたぞ!」


窓から外を見ていた者が、仲間に伝える。


煙突から出た煙で気づかれたのだろう。


この隠れ家としていた家に向かってくる。


「この家に火を放ち、全員ここから脱出!

国に戻れ!」


「カールレ!すでに出ている襲撃隊はどうする!?」


「下手に伝えようとすれば、かえって襲撃隊を危険に晒しかねない。

俺たちとの定時連絡がなければ、何かあったとむこうで判断するだろう。」


たしかにカールレの言う通りだろう。


家に火を放つと、脱出するために行動する。


手に持つものは最小限。


そして、一人でもいいから本国に辿りついて報告する。


カールレたちは、バラバラに散開して脱出行動に入った。


そのカールレたちの行動を、キュウビ指揮下の天狗(てんこう)族が監視しており、高く聳える森の木の上からファーロウ指揮下の夢魔族が見下ろしている。


獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべながら。

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