表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
430/463

白の教団の正体と、戦闘準備

牛人族(ミノタウロス)人馬族(ケンタウロス)


両者はそれなりに争いはしたものの、基本的には良好な関係を築き共存していたという。


農耕を主要産業とする牛人族と、半狩猟・半農耕の人馬族で、争う理由がそこまで無かったからなのかもしれないが。


また、外敵に対しても両者は協力して対応していた。


弓による遠隔攻撃と、その脚力を活かした一撃離脱戦法を得意とする人馬族と、接近戦を得意とする牛人族とで相性が良かったこともあるのだろう。


かつて猛威を振るった東方の人間族の来襲にも、決して一歩も引かずに戦って、自分たちの領域の自治を勝ち取ったのだそうだ。


だが、その勇敢なる種族の代表が口を揃えて言う。


「東方から来た人間族は、たしかに野蛮な連中だった。

だけど、エルフどもみたいに卑怯じゃ無かった。」


と。


人馬族の代表マルヤーンが話を続ける。


「奴らは、最初は交易を求めてきた。

それ自体はかまわない。俺たちだって、欲しいものがあれば商売をするからな。」


それを引き取るように牛人族アレコスが、


「それが何年か経った時、奴らの中でもよく取引をしたエルフが、感謝のための酒宴を催したいと申し出てきたんだ。」


断る理由もなく、またそれによってより交易が盛んになれば、互いに潤うことになるだろうと、主だった族長たちがその酒宴に参加した。


そこで、事は起きる。


酒宴に供された酒や肴に、毒が盛られていたのだ。


族長たちは毒に悶え苦しみ、その異変に気付いた者たちが酒宴会場に乗り込んだ時には、完全武装したエルフたちが待ち構えており、文字通りに一網打尽にされたのだ。


族長という指導者を失った牛人族と人馬族は、それでも必死になって戦ったが、初動の遅れは如何ともし難く、また部族をまとめ上げる者がいないために、いくら個別で勇を誇ろうとも、エルフたちに次々と討ち取られていく。


そして、エルフたちの殺戮は徹底していた。


老若男女、それこそ産まれたばかりの赤子でさえ殺して回ったのだ。


かろうじて生き残った者たちは、交易による繋がりもあったアールヴたちを頼って、この地に来たのだという。


話を聞いている者たちは、それぞれに胃のあたりを押さえている。


そんな中で、リュウヤは考え込んでいる。


他種族を老若男女問わずに殺戮する・・・。


その騙し討ちのやり方・・・。


老若男女問わずに殺戮するのは、神聖帝国が同じことを獣人族相手に行っていた。


騙し討ちのやり方は、多少の違いはあれども、インカ帝国を滅ぼしたスペインのやり方に似ている。


両者に共通するもの。


それは・・・。


「そういうことか!」


他種族を自分たちと同等の存在と認めない神聖帝国。


異教徒を人間と認めなかったカトリック教徒。


それが繋がる。


「"白の教団"という言葉に惑わされていたな。」


そう言って立ち上がるリュウヤに、


「どういうことだ?」


説明を求めるバトゥ。


「エルフの国そのものが、白の教団だということだ。」


リュウヤは今まで、白の教団は"光の神"を信奉する者たちが先鋭化したものだと考えていた。


だが、そうすると腑に落ちない点が一つ生まれる。


エルフ以外に、白の教団を構成する者が見つかっていないのだ。

それが、白の教団がエルフのみによって構成されているとなれば、どうだろうか?

しかも、それが国となっていたら?


「お前さんが言う通りなら、エルフの国というのは・・・」


「そう、白の教団による宗教国家だということだ。」


単なる宗教というより、文字通りカルトというべきものだろう。


「人間至上主義ならぬ、エルフ至上主義というわけだ。」


神聖帝国が人間以外の種族を絶滅させようという、そういう思想を持っていたように、エルフの国はエルフ以外を絶滅させようと動き出した。


それは、多種族による共存共栄を指向する龍帝国とは相容れない。

いや、その龍帝国に手を突っ込んできたのなら、それは敵対行為以外のなにものでもない。


「キュウビ。主だった者を全て集めろ。

それと、ルーシー公国のナジェージダ公女を呼べ。至急だ。」


すぐにナジェージダ公女は姿を見せる。


ナジェージダ公女は、自分に続くかのように集まる者たちの物々しさに驚きを隠せない。


「陛下、これはどのような・・・?」


ナジェージダの問いに、リュウヤは簡潔に説明し、


「ルーシー公国に手紙を書いてもらいたい。龍帝国(わがくに)が一時的に国境を封鎖する、そのことを伝える内容で。」


口調は静かだが、その雰囲気は有無を言わさないものがある。


「わかりました。すぐに(したた)めます。」


そうナジェージダは返答すると、すぐにその場を離れる。


それを確認すると、リュウヤは矢継ぎ早に指示を出す。


「ミーティア。他のエルフを連れてすぐにエルフの里に行け。

外部から来たエルフの特定せよ。

キュウビ、お前も共に行き、そのエルフたちの監視をしろ。気取られてもかまわん。

それ自体が奴らの行動を誘発することになる。」


ミーティアとキュウビは、すぐに行動に移す。


「アスラク、有角馬(ナルダ)騎兵を国境に展開させよ。

早急に!

国境を越えようとするエルフを見逃すな!」


アスラクがすぐに動き出す。


「ナスチャ。お前も行ってくれ。」


「わかったよ。」


ナスチャは返事をすると、すぐにアスラクの後を追う。」


「キュテリアたち翼人族は、上空から監視。

ファーロウは、幻術を使って翼人族をフォローしろ。」


さらにスティール、モミジに、


「エルフの国への攻撃部隊を抽出しろ。

攻撃の指揮はモミジが執れ。」


二人は異口同音に、


「はっ!」


そう返事をすると動き出す。


「サクヤ。」


「はい、承知しております。すでにタカオらに念話にて至急、出撃準備を整えるよう伝えております。」


サクヤはそう答え、リュウヤは頷く。


「トモエ、シズカはタカオらに合流、指揮を執れ。

モミジの部隊と合流後は、モミジの指揮下に。」


好戦的な笑みを浮かべるトモエと、表情を変える事なく命令を受け入れるシズカ。


「ドルシッラとメッサリーナ。お前たちは、共に来ている夢魔族の指揮を任せる。

今回の第一段階は、お前たちの働きが重要になる。」


リュウヤの説明を受けると、


「陛下も人が悪いですわね。」


ドルシッラはとても楽しそうな笑みを浮かべ、


「ライラ様が悔しがるでしょう。」


とメッサリーナは笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ