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龍帝記  作者: 久万聖
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語らい

 みんなに轟沈させられたリュウヤが目覚めたのは、自室のベッドの上だった。


 どうやら、誰かが運んでくれたらしい。


 ベッドから足をおろし、端座する。


「頭がクラクラする。」


 寄ってたかって飲まされたからなあ。明日は二日酔い確定か・・・。やること多いのに。


 ぼんやりとそんなことを考える。


「お目覚めですか?」


 サクヤだ。


「飲み過ぎですよ。」


 そう言って、ベッド横に置いてある水差しを取り、コップに水を注ぐ。


「まったくだ。」


 そう言ってコップを受け取り、飲み干す。


「こんな姿ばかり見せてる気がするな、サクヤには。」


 ここに召喚された初日も、ギイにしこたま飲まされたものだ。

 サクヤはリュウヤの隣に腰掛ける。


「そんなことありませんよ。」


 たくさんの姿をみせてもらっています。強きところも、優しきところも。


「それは、俺の方こそ感謝しないといけないな。」


 ここに来てから、自分の感情が豊かになった、いや、父の自殺以来失ったと思っていたものを取り戻したというべきか。


 だから、


「ありがとう、この地に呼んでくれて。」


「え?!」


 サクヤは戸惑う。むしろ、恨まれているのではないか、そう思っていたのだから。

 だが、リュウヤは感謝しているという。なんの断りもなく召喚し、その魂を失うことになり兼ねない状況にしてしまった。恨まれて当然だと思う。それなのに感謝なんて。


「そんな、勿体ないお言葉・・・。」


「いや、本音だよ。」


 召喚されなければ死んでいたのは間違いない。

 あの事故が無かったとして、幸福といえる人生を送ることができたとは思えない。それが、ささやかなものだったとしても。


 この世界では、地球で望んでいたような幸せはないだろう。その代わりに、それを超える幸せを得られる。努力次第ではあるが。


「だから前にも言ったと思うが、気に病むな。」


 サクヤの頭に手を乗せて言う。


「わかりました、リュウヤ様。」


 リュウヤの手に自分の手を合わせる。



 暫しの沈黙のあと、


「随分と盛り上がっておりましたが、面白い話題でもありましたか?」


「知りたい、のかな?」


「よろしければ。」


 数瞬の沈黙。


「俺が王になっただろう?」


 正直に話すことにする。


「王妃は誰か、てね。」


「王妃、ですか?」


「そう。みんなの意見は、君が第一候補なのだそうだ。」


 口にはしないが、自分がみんなの立場から意見するのなら、間違いなくサクヤを推すだろうと思う。


 実際のところ、サクヤは王妃のやるようなことをしている。自分の留守をしっかりと守り、まとめあげている。サクヤがいればこそ、自分はフットワーク軽く動ける。


 女性としてはどうか?控えめに一歩引き、自分を立ててくれる。それでいて、言うべきことはしっかりと言うことができる。芯の強さもある、大和撫子を体現したような女性、そう思える。


 王妃とするには、申し分のない女性だろう。


「リュウヤ様は、どうお思いなのですか?」


 これが難しい。サクヤが自分に好意を抱いてくれていることは、知っている。そして、自分をこの世界に召喚したことに負い目を感じてしまっていることも。


 だから、自分が婚姻を求めれば断られることはないと思うが、それは彼女の負い目につけ込んでいるのではないか、そんな気がしてならない。


 答えに逡巡しているリュウヤに、


「リュウヤ様のお気持ちは、どうなのでしょう?」


 サクヤが問いかける。


 それは、間違いなくサクヤのことが好きだ。愛おしくさえ思える。それでも、躊躇してしまう。

 サクヤの実年齢は知らないが見た目は二十歳前後。それに対して自分は、外見は鏡を見たことがないのでわからないが、中身は四十代のオッさん。釣り合うように思えない。中年太りだった地球での姿と違い、この世界の自分の身体は随分と引き締まっている。が、中身はやはり中年なのだ。それが彼女に見合うのだろうか?


「もう少し、時間が欲しいな。」


「時間、ですか?」


「そう、時間。」


 サクヤはリュウヤを見る。


「答えはすでに出ているんだ。俺は、君に側にいて欲しい。支えてもらいたい。」


 ほとんどプロポーズの言葉である。


「ただ、今の状況では、サクヤのことを後回しにしてしまう。」


 建国という状況において、とてもやるべきことが多く、また、自分から仕事を背負いこんでしまっている。パドヴァ王国の王族と貴族の子弟の保護、教育やら、移住団の生活の安定化やら。だから、ひと段落つくまで待ってほしい。

 しっかりと、サクヤに向き合える時間を持てるようになるまで。


「わかりました。その時まで、お待ちしております。」


 サクヤとしては、そこまで考えなくてもいいのに、そう思ってしまう。側にいられるだけで嬉しいのだから。



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