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龍帝記  作者: 久万聖
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ビルギッタ

ルーディが主催する夕食会。


夕食会というよりも、むしろ祭りのようなものだ。


里の中央の広場にて盛大に行われる。


バトゥなどは、


「この方が気楽でいい。」


と喜んでいる。


リュウヤとしても、この方がいいと思っていたのだが、その考えは甘かった。


なにせ、次から次へとリョースアールヴの有力者たちが挨拶に押し寄せてくるのだ。


聞くところによると、フェミリンス氏族はこの辺りのリョースアールヴ最大の部族であり、まとめ役でもあるのだという。


二十人ほどの小さな部族から、数百人規模の部族まで大小合わせて百近い部族があり、その族長たちがリュウヤへの挨拶のために集まっているのだ。


中には、オスト王国との戦いに参陣した者もおり、その時の話で盛り上がったりもしている。


正直、二十人より先は覚えていないが、そのあたりはミーティアに任せることにしよう。


その夕食会が終わりに近づくと、ルーディの妻ビルギッタから話しかけられる。


「私の姪がお世話になっております。」


「姪?」


「はい。マタレーナ、いえフェミリンスのことでございます。」


「ほう。フェミリンスの本名はマタレーナというのか。」


「あの子は、産まれた頃より盲目でした。

それ故に、この里ではほとんど仕事を与えられることもなく、大きな疎外感を感じていたようでした。」


そのことは聞いたことがある。

フェミリンス付きのリョースアールヴの従者から。


「あの子に、仕事をお与えくださってありがとうございます。

あの子付きの者から、最近はとても活き活きとしていると、そう報告を受けております。」


「能力があるなら使う。それだけだ。

フェミリンスは、十分に有能だからな。」


リュウヤ自身、フェミリンスには何度も助けられていると感じている。

特に外交交渉の場などでは。


「そう言っていただけると、あの子を育ててきた甲斐があったというものです。」


「育てた?」


「はい。あの子の母親、私の妹はマタレーナを産むとすぐに亡くなってしまいましたから。

私ともう一人の姪、シグネと一緒に育てました。」


「シグネ・・・。」


「私の姉の子になります。」


ビルギッタは、リュウヤの表情をさぐるように見ている。


「貴女と、そのシグネの教育が良かったのだろうな。」


はぐらかすようなリュウヤの言葉に、ビルギッタは視線を外す。


そして、互いに理解する。

リュウヤは、ビルギッタが姪の未来を心配していることに。

ビルギッタは、リュウヤが自分の伝えたいことのほぼ全てを知っていることに。


暫しの沈黙の後、


「マタレーナを、宜しくお願いします。

フェミリンス、いえ調和者(フォリア)の呪縛から解き放ってください。

貴方なら、きっとそれができるでしょうから。」


ビルギッタはそう言って、その場を離れていった。






☆ ☆ ☆






「よろしかったのですか、ビルギッタ様。」


広場から少し離れた物陰から、ビルギッタに話しかける者がいる。


「ええ、私の方はなにもいたしません。

貴方は色々と画策しているようですけれど、アスラン殿。」


名を呼ばれたのは、リュウヤの執事長であるアスラン。


「私は、貴方の策に乗る気はありません。

私にとって重要なのは、マタレーナの平穏な暮らしのみ。」


凛とした声で断言するビルギッタに、


「よく理解しておりますとも。

ただ、我が主人は欲の無いお方ですもので。」


「だから、リュウヤ陛下に代わって、争乱を起こすとでも?」


問われるアスランは、話しを逸らすかのように言葉を紡ぐ。


「あの御方は、私が忠誠を誓うに足るだけの力と能力をお持ちです。

ですのに、あまりに欲が無い。

この世界を統べるに相応しいお力をお持ちだというのに・・・。

ですから、私はそうせざるを得なくなるようにしたいだけなのですよ。

それこそが、我が望みなのです。」


その目には、リュウヤが世界の全てを統べている姿でも見えているのだろうか?

陶酔したような表情を浮かべている。


ビルギッタは、アスランの様子を薄気味の悪いものを見るかのような目で見ていた。

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