フェミリンス氏族の里
カルヴァハルを出て最初に向かうのは、リョースアールヴのフェミリンス氏族の里。
その氏族名の通り、リュウヤに仕えるフェミリンスの出身氏族であり、その出身地。
そして、先のエルフとの戦いで最も被害を受けた場所。
リュウヤが北方の行幸の最初の地として、この地を選んだのはその慰問という側面もある。
「それにしても、わずか二年でよくもこれほど道ができたものだな。」
リュウヤはそう呟く。
カルヴァハルの門から続くこの道。
リュウヤらが乗る大型の馬車が、余裕をもってすれ違える幅の道。
「切り拓くだけでも、大変な労力と時間が必要だっただろうに。」
「たしかにそうだな。これほどの道を、しっかりと舗装もしている。」
リュウヤの言葉に同意するバトゥ。
「石人形を使って、皆が頑張ったそうです。」
ミーティアの言葉。
ミーティアは"頑張った"とあっさり言っているが、実際は頑張ったどころではないだろう。
冬の間はこの辺りも雪に覆われて、作業はできないだろう。
そうなると、実質一年余り。
その期間でこれだけの作業をするとなれば、文字通り不眠不休に近い状態で働いていたに違いない。
大まかな作業は石人形にやらせるとしても、その作業を指示し監督する者が必要になる。
「まったく、よくもそこまでしたものだ。」
リュウヤは感心を通り越して呆れてしまうが、エルフの立場から考えれば、そこまでしなければならなかったことも理解できる。
リョースアールヴやデックアールヴ、そしてドワーフたち。
それらに戦争を仕掛けたという事実があるため、敵対の意思が無いことを示さなければならない。
そして、そうすることでリュウヤへの忠誠心を示し、もしもの時の保険としたい。
リュウヤ自身に、エルフたちに悪い感情を持っていなくても、実際に戦った者たちはどうかわからないのだ。
事実、リュウヤに仕え始めた頃にミーティアは、誹謗中傷の類を受けていた。
それに対して、ミーティアはリュウヤに誠実に仕え、有用な人材であることを示し続けることで乗り越えたのだ。
ミーティアを軽く一瞥した後、窓から進行方向へと視線を移す。
視線の先にはリョースアールヴの里が見えてくる。
そして、そこで待つリョースアールヴたちの姿も。
「到着のようだな。」
リュウヤはそう呟き、
「かなり被害を受けたと聞くが、復興は順調なようだな。」
そう感想を続ける。
そして約二年ぶりに、リョースアールヴのフェミリンス氏族族長ルーディと再会したのである。
☆ ☆ ☆
リュウヤは出迎えたルーディの挨拶を受けると、早速、慰問へと向かう。
戦傷の後遺症により働けなくなった者、配偶者を失った寡婦、戦災孤児となった者。
そういった者たちを優先して慰問を行う。
リュウヤが見せるこの姿勢は、日本の皇室の姿を真似ている。
皇室には遠く及ばずとも、その姿勢は学ばなくてはならないと、そう考えての行動である。
「彼らへの待遇はどうなっている?」
慰問を終えたリュウヤは、ルーディに確認する。
「負傷者は動けなくなったとはいえ、魔法は使えます。
ですので、実はリュウヤ陛下が心配されるほどのことはないかと。」
多少の不便はあるが、魔法人形を使うことでそれなりのことはできるらしい。
また、寡婦や戦災孤児にしても、助け合うための仕組みが慣習的に出来上がっているのだとか。
「陛下が直接声をかけられ、聖女たちの慰問もあったことで、彼らの心も癒されたことでしょう。」
ルーディはそう言うが、
「そうだといいのだがな。」
リュウヤとしては、本当にそうなったか些か不安になる。
「大丈夫です。陛下のお声がけに、彼らの表情もいくらか明るくなったように見えましたから。」
そう答えたのは、ルーディの妻ビルギッタ。
今回、初めて見るが、どこかフェミリンスに似ているように感じられる。
「では、こちらへ。」
ルーディの案内で、族長の私邸へと招かれる。
「陛下が泊まるには粗末なものだとは思いますが・・・」
恐縮するルーディだが、リュウヤはそんなことを考えてもいない。
行幸は昨年に決まったとはいえ、復興途上であり、リュウヤらを泊めるための施設を建設するまでには手が回らなかったのだろう。
「かまわぬ。施設がどうのという以上に、お前たちが私を迎え入れてくれた心情の方を、より尊ばせてもらう。」
その言葉に、ルーディとビルギッタ夫妻は頭を下げていた。