会談とバトゥの家庭の事情
リュウヤとバトゥの会談は、逗留二日目のこと。
「残念だが、"白の教団"についての情報はない。」
「そうか。」
エルフの若者たちの一部に浸透し、過激な行動へと走らせた白の教団。
かつての戦いで、エルフに浸透した分に関しては一掃したという自負がある。
しかも、その指導者的存在だったヴァンザントを裏切り者に仕立てあげて。
その結果として、ヴァンザントに憎悪を集中させることに成功したが、だからといってその教団の本部を叩いたわけではない。
だから、必ず報復の機会を狙っていると考えていたのだ。
「俺や、俺に近しい者を標的とするなら、カルドゥハルのトンネルを通過すると思ったのだがな。」
そこから、白の教団の情報を少しでも得ることができるのではないか、そう考えていたのだがうまい話はないということか。
そうなると、行幸の列を狙うということも考えられる。
漢の高祖劉邦に仕えた謀臣張良が、秦の始皇帝暗殺を狙ったのは行幸の最中だった。
第一次世界大戦の引き金となったサラエボ事件、オーストリア=ハンガリー帝国皇太子フランツ・フェルディナント・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンとその妻ゾフィー・ホテクが暗殺された事件だが、それも領内の視察の時だった。
「1200人は多すぎたかな・・・。」
リュウヤの呟きに、バトゥが反応する。
「自身を囮にするつもりか?」
リュウヤはそれに答えない。
自分の傍に控え、バトゥの言葉に緊張を隠せないミーティアに、キュウビとスティールを呼ぶように伝える。
やがて現れたスティールに、今後の警備をはじめとした計画の見直しを命じ、そしてキュウビには怪しい動きがないか調査を命じる。
スティールは、リュウヤの命令を受けてすぐに見直し作業に入る。
その一方でキュウビはというと、その場に残って一つの報告を行う。
「怪しい動きではありませんが、お伝えしたい動きがあります。」
どこか勿体つけた言い方に、
「なんだ?新しく庇護下に入りたいとかいう者たちでもいるのか?」
皮肉のつもりで返すが、
「はい。さすがは陛下。御名答でございます。」
リュウヤは大きく溜息をつき、バトゥは笑いを噛み殺している。
「どこかで会う必要がありそうだが、その種族は一つだけか?」
「いえ、複数の種族がおります。」
「どこで会うかは、ミーティアと相談しておいてくれ。」
リュウヤがそう言うと、キュウビはミーティアと連れ立って退室したのだった。
☆ ☆ ☆
夜は、前日に続いて晩餐とは名ばかりの宴会が開催される。
酒好きのドワーフらしく、大量の酒が持ち込まれる。
そして、リュウヤの周りにいるのはバトゥとイェスイ、そしてその三人の息子。
サクヤはリュウヤの隣に座っており、アナスタシアとリュウネはイェスイの側にいる。
数年前に両親を失い、肉親の情に薄いリュウネはイェスイによく懐いている。
祖母というより、イェスイに母親の姿を重ねて見ているのかもしれない。
いくらサクヤやトモエ、シズカに可愛がられていたとしても、それは妹のようなものであって、娘としてのものではない。なにせ、三人とも育児経験というものがあるわけではないのだから。
では、リュウヤがリュウネに与えているものはどうかというと、これまた評価しづらいものがある。
リュウヤの魂を召喚するための依代となったことで、互いの魂の一部を共有しており、そういう意味では肉親以上と言えなくもない。
だが、リュウヤの立場というものもあり、リュウネはそうそう甘えられるわけではないし、龍帝国の急速な発展によりリュウヤも忙しくなり、なかなかリュウネとの接点を作れなくなってしまっている。
巫女となり、リュウヤやサクヤの側にいられるようになったことは、リュウネにとって喜ばしいことなのだ。
そしてアナスタシアはというと、その祖母はまだ幼い頃に亡くなっているのだそうだ。
ただ、朧げながらに憶えているのは、恰幅の良い女性だったということ。
それが、ドワーフのイェスイに被っているようだ。
イェスイに懐いている二人の様子を、周りの大人たちは微笑ましく見ている。
バトゥの三人の息子、キヤト、コデン、シレムイは、母親のそんな様子を見て、
「やっぱり、オフクロは娘が欲しかったんだろうなあ。」
と、顔を見合わせている。
「さっさと結婚して、孫の顔を見せたらあんな顔を見せてくれるさ。」
リュウヤがさらりと言うが、
「それ、なんだよなあ。」
「相手がいれば、いいんだけど・・・」
「そう、相手がいないんだよなあ。」
三人揃って、似たような言葉を口にする。
どこかで聞いたような言葉・・・。
いや、自分も言っていたような気がする、あちらの世界で。
「だから、さっさと一人前になれって言ってんだよ。
そうしたら、母ちゃんがいい相手を探してやるよ。」
イェスイは、地が完全に出ている。
昨日、すでに地を出しているため、最早気にしようとは思っていないらしい。
「母ちゃんみたいないい女をね!」
イェスイの言葉に、
「いや、それは勘弁して!
父ちゃんみたいに尻に敷かれたくないから!」
家庭の状況を暴露され慌てるバトゥ。
それを見てリュウヤは笑い、サクヤはリュウヤにぴったりくっついていた。
更新が乱れてしまい、申し訳ありません。
年末に入り、また自身の膝の故障もあり、仕事に通院にと時間を取られてしまっています。
なるべく、更新ペースを落とさないよう、頑張ります