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龍帝記  作者: 久万聖
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育成環境

翌朝、リュウネを呼び出すと、リュウヤは新たな巫女となるように伝える。


「うん、わかった。」


リュウネは、とてもあっさりと了承する。


リュウヤは一瞬、呆気にとられてしまうが、


「本当にいいのか?」


そう確認する。


「うん。りゅーや様とサクヤ様のお側に仕えるんだよね。」


たしかに、その認識は間違ってはいない。


間違ってはいないのだが、何か違う。


そこに、サクヤがシズカとトモエ、さらにふたりの龍人族の少女を伴ってやってくる。


ふたりの少女、ツイリとシブキという名前だったなと思いつつ、サクヤの言葉を待つ。


「リュウネ。今日から貴女につくふたりです。」


ここで、リュウヤは"おやっ"と感じる。


まだ朝食を終えたばかりの時間なのに、すでに決定事項と化している。

龍人族の中での調整はできているのだろうか?


そんなリュウヤの疑問に気づいたのか、シズカからの念話が入る。


"次代の巫女を決める決定権は、当代の巫女にあるのです"


それが龍人族の認識であるため、反対は起こらないのだという。


これが日本だったら、どこからか反対意見が沸き起こり、裁判に訴えるなんてことが起こり得るだろう。


いや、日本以外の国でも、非人道的だとか、権力の固定化などと大騒ぎになったかもしれない。


そういったことが起こるのは、人権意識の高まりと、専制君主や独裁者を出さないための人類の知恵でもある。


どちらが良いか悪いか一概には言えないが、ある一定の開発が進むまでは独裁の方が、色々な開発は進む。

ただ、一定の発展を遂げてからは民主的な政権へと移行するのが望ましいと思われる。


その"移行"こそが、最も難しいものでもあるのだが。


そんなことを考えているうちに、リュウネへサクヤの細々とした説明が終わったようである。


リュウヤはサクヤとリュウネ。

リュウネ付きとなったふたりとシズカに、いくつかの確認をする。


そして、トモエに重要事項を伝えようとした時、


「それでは、私は竜女族(ヴィーヴル)たちと仕事がありますので。」


そう言うと、トモエは脱兎のごとく逃走する。


呆気にとられてしまうが、


「その竜女族関係で、重要な伝達事項があるというのに・・・」


そう呆れて呟く。


「連れ戻しますか?」


シズカの言葉には、冷たいものが感じられる。

彼女なりに、トモエの態度を怒っているのだろう。


「いや、伝えるだけでいい。ルカイヤにはウッザマーニを通じて伝えているからな。

さほど問題にはならないだろう。

オスマル帝国の視察は。」


竜女族の族長と、リュウヤ付きとなっている竜女族の少女の名前を挙げ、大丈夫だろうと皆に告げる。


それに対して、


「竜女族の視察は、最終日ではありませんでしたか?」


サクヤが問いかける。


「予定を切り上げて帰国するのだそうだ。

セリム殿下の意向で、オスマル帝国での教育の普及のあり方を研究したいのだそうだ。」


そのために、予定を繰り上げて竜女族の視察に行くのだという。


「竜女族は、それもケーサカンバリン氏族は、始祖皇帝を産んだ種族だそうだからな。

正確には視察というよりも、表敬訪問というべきだろう。」


そう補足説明をすると、リュウヤは考える。


その考えている時間は、リュウヤが思っているよりも長かったようで、


「りゅーや様、何を考えているの?」


リュウネが話しかけてくる。


リュウヤが何を考えているのか、この場にいる者たち共通の疑問であるようで、視線が集中している。


「いや、後継者の育成環境は重要なのだと思ってな。」


自分の住む国を良くしようとは、おそらくは殆どの者が思っているはずだ。

だが、一般の国民と政治家の子息ではその視点は、かなり違ってくるのではないか?


現在の日本では、「世襲議員は悪」といった認識を持つ者が増えているようだが、はたしてそうだろうか?


リュウヤとて、諸手を挙げて賛成するわけではないが、世襲議員の利点というものを考える必要があるのではないだろうか?


利点として考えられるものは、政治が身近にあるために研鑽を積みやすく、一定のレベルにあること。

企業経営者や官僚とコネが多いこと。

反面、企業経営者や官僚との癒着が起こりやすいというマイナスもある。


また、政治を「家業」としてしまうために、新陳代謝が起こりにくく、一般の国民との認識の乖離が起こることも大きなマイナスだろう。


では世襲議員ではない政治家の場合はどうか?


新しい風を吹き込み、議論を活発化させるという点では大きなプラスである。

新たな認識や価値観、一般の国民との距離が近いことにより、政治と国民との乖離を防ぐことができるだろう。


だが、研鑽不足であったり、認識が足りないことも多く、現実よりも理想に走りやすい。そのために議論の停滞を招くことも多いように見える。


結局のところは、そのバランスをどう取るかによるのだろう。


「教育には、より力を入れていかないとならないなと、そう考えていただけだ。」


リュウヤはそう言って立ち上がると、


「今日はオスマル帝国の使節が竜女族の視察だから。

少しは羽が伸ばせるだろう。」


そう言って笑ったのだった。


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