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龍帝記  作者: 久万聖
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巫女の交代

その夜、夕食後のリュウヤとサクヤの私室には、子供達が集まっていた。


その理由は一つ。


リュウヤのいた世界では、月に人が足を踏み入れているということをアナスタシアから聞いたからだ。


どうやって月に行ったのか?


月の世界はどうなっているのか?


なぜ月に行こうと思ったのか?


広いはずのリュウヤらの私室が子供達で埋め尽くされ、好奇心からくる質問が怒涛のように押し寄せる。


私室の一画では、その様子を見ながら酒を飲むシヴァとハーディの姿がある。


「いらんことを言うから、こんなことになるのじゃ。」


「話を聞きたいのは、子供達だけではないようじゃからな。」


私室の外には、大人たちがずらっと並んでいる。


特に多いのがドヴェルグとドワーフ。


千年進んだ技術というものに興味があるようだ。


ドヴェルグやドワーフたちには後日、その話をするからと引き下がってもらったものの、子供達はそういうわけにはいかない。

というよりも、興味を持った今こそ、子供達には話をしないといけないとリュウヤは判断する。


「鉄は熱いうちに打て」とは使い古された言葉だが、それは真理だと思う。

強く興味を抱いた時こそ、しっかりと説明をする。

そうすれば、未来に向けての技術の進歩へと結びつくかもしれないのだ。


ただ、非常に困るのはこの世界に存在しない物や概念を説明することだ。


ロケットはもちろん、エンジンだとか燃料だとか、宇宙と言われてもこの世界では通じない。


どう噛み砕いて説明すればいいのか、非常に苦しみながらリュウヤは話し、子供達は目を輝かせながら聞いている。


そして夜更けになり、子供達に欠伸(あくび)が目立ち始めた頃に、リュウヤは話を終わらせる。


子供達はそれぞれに付いている侍女たちに促され、部屋へと戻っていく。


その姿を見ながら、


「どんな夢を見るのだろうな。」


そんな感想を口にする。


「良き夢が見られると良いですね。」


サクヤはそう応じる。


これで眠れると、大きく背筋を伸ばすリュウヤに、


「まだ眠れる状況ではなさそうじゃぞ、リュウヤ。」


シヴァが言葉を投げかける。


それはどういうことかと、シヴァの方を振り返ろうとしたときに、その集団の姿が目に入る。


エルフに鬼人(オーガ)、人間族に夢魔族。


いや、なぜ夢魔族がそこにいる?


夢魔族が聞きたいことってなんだ?


「それはもちろん、房中術についてのことですわ。

できれば、実地で教えていただければ・・・」


ドルシッラのあけすけな返答に、リュウヤは頭を抱えながらも、


「全員、後日だ。それから、種族ごとに聞きたいことはまとめてから来い。」


最後まで言わせず、追い払うことにしたのだった。






☆ ☆ ☆






「千年の格差、魔法だけが原因ではあるまい。」


室内にリュウヤとサクヤ、ハーディの三人のみがいることを確認すると、シヴァがそう確認する。


「少なくとも過去に二回、その格差を埋める機会があったであろう?」


「その通りだ。」


リュウヤはシヴァの言葉を肯定する。


リュウヤにとって先代、先先代とも言える者たちはその格差を埋めようとしていたはずなのだ。


自らの持つ知識を、少しでもこの世界に還元しようと。


だが、リュウヤが見る限りでは、その知識が残されている気配はない。


その知識が残されていたならば、火薬や紙、活版印刷などは現存していても良かったはずだ。


調和者(フォリア)の呪い。考えれば考えるほど、徹底したものなのだと思うよ。」


文明・文化を大幅に発展させる物は、跡形も残さない。


その呪いに、リュウヤは抵抗しようとしている。


「シヴァ。一つ聞きたいんだが、"巫女"をサクヤから別の者に代えることはできるのか?」


「それはかまわぬが、どうかしたのか?」


訝しげなシヴァの声。


リュウヤはハーディを一瞥(いちべつ)してから、


「どうやら、呪いの発動が早まりそうでな。」


「ほう?それと、サクヤを交代させることがどう繋がるのじゃ?

それと、代わりの者に目処がついておるのか?」


サクヤも、リュウヤをじっと見つめている。

リュウヤの真意を理解するために。


「サクヤは、俺と結婚したら皇后としての立場から、色々とやらなければならないことも増えてくる。

そして、皇后としての立場は非常に目立つ。」


「たしかにその通りじゃな。」


身軽に動くことはできないし、もしもの時はリュウヤに代わって指揮を執らなければならなくなる。


「そこで、今のうちに代わりの者を立てて、鍛えておきたい。」


「意図するところはわかった。して、代わりは誰を立てるのじゃ?」


シヴァの問いに、リュウヤはひとりの少女の名を挙げる。


「リュウネ。」


その名に、シヴァは驚くことはない。


「たしかに、潜在能力では一番じゃな。」


「潜在能力だけが理由じゃない。

忘れていないか?

俺とリュウネは、魂が繋がっていることを。」


リュウヤを召喚する際、その依代となったのがリュウネだ。

その結果、リュウヤとリュウネの結びつきは魂そのものの結びつきとなっている。


「なるほどな。それならば、いざという時のために備えるためにも、リュウネを鍛える必要があるじゃろう。」


そう口にすると、シヴァは巫女の交代を了承する。


「そのことは、いつ発表いたしますか?」


サクヤはそう応じ、了承したことをリュウヤに示す。


「スライマーンたちが帰国してからにしよう。

龍人族たちの了承も必要だろうし、北方への行幸にも連れて行きたいからな。」


"龍帝"という称号を持った自分だけでなく、聖女たちと同時に新たな"龍の巫女リュウネ"のお披露目をするということになる。


「わかりました。龍人族のことはお任せください。

リュウヤ様は、リュウネにそのことをお伝えしてくださいね。」


サクヤの言葉にリュウヤは、


「わかった。明日にでもリュウネに伝えよう。」


そう応じたのだった。






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