コルネリアとの会話
リュウヤは、自分を呼び止めたコルネリアを伴ってバルコニーへと出る。
コルネリアが呼び止めた理由。
それは神殿建設地の相談だった。
バルコニーに設置されているテーブルに着くと、執事長アスランに、侍女にお茶とお茶菓子を持ってくるように伝える。
「本当に、この国はいろんな種族がいるのだな。」
コルネリアが感心したように口にする。
「元々、この地には龍人族と共生していたそうだしな。」
リュウヤはそう言って笑う。
「以前、獣人族の国の族長にも話したが、こうやって話ができて、俺たちと同じように喜怒哀楽を持っているなら、俺たちとなんら変わることはない。」
お茶とお茶菓子を持って来たのは、猫人族の侍女チシャ。
チシャは慣れた手つきでお茶とお茶菓子を置くと、一礼してその場を離れる。
「だが、悩ましい問題もあってな。」
「それはどのような?」
「全ての種族を同じように扱わないといけない。
例えば、俺の身の回りの世話をしてくれる侍女たちだが、全ての種族の者を登用しないといけない。」
それは当然のことのように、コルネリアには思える。
「人数が多くて、名前を覚えるのが大変なんだ。」
「そ、それはたしかに・・・」
コルネリアも流石に苦笑する。
リュウヤの側に侍女を送り込んでいないのは、ドヴェルグとドワーフ、竜女族くらいのもの。
ただ、竜女族の場合はその全長が長過ぎるという、種族特徴のせいであって、皇宮内で仕えている者はおらずとも、外に出ればウッザマーニという名の者が付き従っているのだという。
そのウッザマーニは、普段は若い兵士相手に武術指導をしているという。
「異種族が武術指導できるというのは、陛下が分け隔てなく接しているからだろう。」
「そんなものかね?」
「そんなものだ。上に立つ者の姿勢は、下の者たちへと波及する。
陛下には、変わらずに今のままでいてもらいたい。」
「善処するよ。」
リュウヤはそう言って笑う。
そして、真顔になってコルネリアに尋ねる。
「それで、神殿の建設地の相談だったな?」
まだ建設が始まっていないのは、軍神の神殿と至高神の神殿。
至高神の神殿が未着工なのは、単純に人がいないからである。
なにせ、現段階で聖女ビオラしか関係者がいないのだ。
神聖帝国に警告に行ったモミジの報告では、至高神神殿はかなり揺れ動いているとのことなので、分裂する可能性が高いだろう。
その時には、いくらかの人材がこちらに流れてくることが予想される。
着工は、それからになるだろう。
それで、軍神の神殿がなぜ未着工なのかというと、
「建設にあたって、あまり木々を伐採しないほうが良いと聞いた。
すると、どこに建てていいのかわからない。」
ということらしい。
リュウヤが木々の伐採を制限しているのは事実であるが、まさかそれがこのような形で浮かびあがってくるとは思いもしない。
「たしかに、伐採の制限をしてはいるが、場所の制限はしていないぞ?」
「だけど、軍神の神殿は他の神殿に比べて広い土地が必要になる。」
話を聞くと、軍神であるだけに練兵場や闘技場が必要なのだという。
「関連施設か・・・。」
大地母神なら農地があれば良かったし、智慧之神なら大規模ではあるが図書館があれば良かった。
海神神殿は湖のほとりであるため、さほどの懸案とはならなかったのだ。
練兵場や闘技場を併設できるほどの広さのある、切り拓かれた場所・・・。
「一ヶ所あるな。希望通りの場所が。」
「それは、何処か?」
「俺が、魔法の実験に使っている場所だ。」
あの場所ならば、すでに広範囲に木々は取り除かれており、コルネリアの希望に合致する。
「明日にでも、サクラに案内させよう。」
"明日にでも"という言葉に、不満そうな表情を見せる。
どうやら、コルネリアは今からでもすぐに見に行きたいようだ。
「申し訳ないが、今日は他の聖女たちも招いての食事会だ。
そこで、君たちに頼みたいことがある。」
「頼みたいこと?」
「北方にある飛び地への行幸に、君たちにも参加してもらいたい。」
これは、自分の権威付けという意味合いもあるのだが、それ以上に岩山の皇宮まで来ることができなかった領民たちへ、顔見せをする必要を感じたためだ。
「わかった。」
コルネリアはそう返答する。
そして、聖女を招いた夕食会において、五人の聖女への行幸参加要請が出されたのである。




