帰還
リュウヤたちが戻ったのは、パドヴァを出て5日後のことだった。
普通に行けば2日で着くのだが、旅慣れぬ者が多かったこともあり、余裕を持って進ませたのだ。そのため、5日もかかったのだ。
森のへりに着いた時、リュウヤは驚いた。リュウヤだけではない。オボロやサギリら、リュウヤと行動を共にしていた龍人族も驚いていた。
森の奥へと続く道ができていたのだ。舗装こそされていないが、木々は伐採され、その根はしっかりと取り除かれており、かなり平らにならされている。
自分たちがパドヴァに出てより10日足らず。そんな短期間でできるものなのか?
移住団を指揮するグィードも同様に驚いている。
「いったいこれは?」
あの時はこんな道などなく、獣道のようなものしかなかったのだ。
「りゅーやさま!」
龍人族の少女リュウネが現れ、リュウヤの胸に飛び込んでくる。
「リュウネ、はしたないですよ。」
奥からサクヤと、ふたりの従者も現れる。
「お帰りなさいませ、リュウヤ陛下。」
優雅な挨拶。
「出迎えご苦労、サクヤ。」
サクヤに答えると、わざとらしく周りを見る。
「驚かれたようですね。」
「そりゃ驚きもするさ。10日足らずで道ができているのだからな。」
道幅も、大型の馬車が余裕を持ってすれ違えるほどある。
「御出でなさい。」
サクヤが呼ぶと、トール族の10人が現れ、リュウヤの前に平伏する。
「みんながね、いっしょうけんめいつくったんだよ!!」
リュウネが胸を張る。
リュウヤは平伏するトール族の下に行き、膝をつく。
「顔をあげよ。」
その言葉に従い、トール族は顔をあげる。
トール族の手を取り、
「よくぞここまでのことをしてくれた。お前たちの働きは、一軍に匹敵する。」
後方で、グィードは頷く。わずか10日足らずで、この幅の道を作り上げる。まさに一軍の働きだろう。
リュウヤはトール族の身体を見ながら、
「まだ、傷も癒えておらぬではないか。サクヤ!!」
そのまま振り返り、サクヤを叱責する。
「お前がいながら、傷の癒えぬ者を働かせるなど、なんたることか!」
「申し訳ございません。」
サクヤは頭を下げる。そのとき、笑みが浮かんでいたことを、リュウヤは見逃さなかった。
"確信犯だな、サクヤは"と、見抜く。パドヴァで行った宣言、正しく理解していると同時に、この場で移住してきた者たちにも周知させる。そのために利用したのだ。
「この者たちは、奴隷ではないのだぞ!」
そう言って、リュウヤはトール族に向き直る。
「オウサマ、ミコサマ、ワルクナイ。オコラナイデ。」
トール族は慌てている。
「オウサマ、ヤクタチタイ。ダカラ・・・」
少ない語彙で、サクヤを一生懸命に擁護しようとしている。
その頭に優しく手を置く。
「その怪我が治るまで、お前たちが働くことを禁じる。よいな?」
「デモ、シゴト、シナイト、オレタチ・・・」
捨てられる、そう思ったのだろうか?悲しそうな顔をする。
「勘違いするな。怪我が治ったら、しっかりと働いてもらう。」
いまいち、理解できていないようだ。
「お前たちとて、仲間が怪我をしたまま働いているのを見るのは、嫌だろう?」
トール族たちは頷く。
「俺とて、仲間であるお前たちが怪我をしたまま働いてほしくない。」
「オレタチ、オウサマ、ナカマ?」
「そうだ。」
トール族たちは、自分たちの顔を見合わせる。やがて、喜色満面になる。
リュウヤの庇護を求めしもの、この森に住まう者に、少なくとも種族による上下はない。改めての宣言である。
「さて、いつまでもそんなところに居っては、日が暮れてしまうわい。せっかくのイストールからの酒が飲めなくなっちまう。」
いつの間に来ていたのか、ギイが言う。
"ん?イストールから食料が届いている?"
イストールから誰か来ているのか?
以前、友好関係を築くための会談をする話をしていたが、その日取りが決まったのだろうか?
まあ、それは明日以降に考えることにしよう。
トール族絡みの騒乱がやっと終わったのだ。
それくらいの先延ばしは許されるだろう。
そう勝手なことを考えながら、移住団とともに進むことにした。
トール族絡みのエピソード、やっと終わりました。
もう少し短くなると思っていたのですが・・・
思うようにいかないものですね。