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龍帝記  作者: 久万聖
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視察

龍帝国(シヴァ)は、建設ラッシュになっている。


すでに建設が始まっている大地母神神殿に加え、他の四大神殿の建設が始まったのだ。


捕虜という労働力を多数得たとはいえ、それだけではとても足りず、トライア山脈のドワーフの王国カルヴァハルから出稼ぎに来ているドワーフの姿が目立つ。


来ているのはドワーフだけでなく、トライア山脈北方の飛び地となっている領土からエルフたちもやってきている。


そして以外な種族も、建設だけでなく移住してきている。


それは、黒エルフたち。


ダークエルフとも呼ばれる彼らは、海神マナナスの信者が多いらしく、海神の聖女がこの地に来たことを知り、遥々やってきたのだ。


初めて見たときは流石に驚いたのだが、聖女シャーロットから黒エルフの代表を紹介され、何人かはリュウヤの下に仕えることになった。


そしてこの日、その黒エルフを伴って海神神殿建設現場に視察に訪れた。

なぜか、それにシニシャがくっついてきているが。


久々に「雪風」の背に跨り、湖へと向かう。


海神神殿は、水のあるところがいいとシャーロットが希望し、最もその希望に合致していると思われる湖のほとり提案。


それを受け入れたことにより、他の神殿よりいち早く建設が始まっている。


ただ、その建設によりリュウヤがかつて使用していた、生物の観察・研究施設が取り潰されることになったが。


今回の視察に同行しているのはシニシャとタカオ、モミジ、スティール、ラニャ、カイオン。

さらにアルテアと彼女付きの見習い二人に、新たに配属された黒エルフの侍女ズィナト。


アルテアたちは馬車に乗っているが、リュウヤらは騎乗の人となっている。


「まさか、黒エルフもお前の下にくるとはな。」


リュウヤと馬を並べている、シニシャが呆れたように口にする。


「彼らは、俺の下についたというより、聖女シャーロットがいるから来ただけだろう。」


「そんなものかね?」


シニシャはリュウヤの見解に懐疑的である。


そんな時、とても綺麗な歌声が聞こえる。


大きくな声ではない。


とても澄んだ、そしてよく通る、引き寄せられるような歌声。


「この歌声は?」


シニシャの問う声に、


「シャーロットだろう。」


そう答えるリュウヤ。


その言葉通り、湖のほとりの大きな岩に腰掛けて歌っている、シャーロットの姿が見えてくる。


シャーロットの方もリュウヤたちに気づいたらしく、手を振っている。


近くまで来ると、シャーロットはリュウヤのところに小走りでやってくる。


「こんにちは、陛下。今日はどうなされました?」


朗らかな笑顔を見せて、シャーロットは挨拶をする。


「今日は、海神神殿の建設現場の視察にな。」


「それはありがとうございます。働いている人たちにも、とても励みになります。」


とても良い笑顔を見せるシャーロットに、ローレライというのは、歌声だけでなく笑顔もまた魅了する力を持った種族なのだろうかと、ふと思う。


「ご一緒しても、よろしいでしょうか?」


シャーロットの言葉に、


「そうだな。案内してくれるとありがたい。」


そうリュウヤは答えると、馬上から手を差し出す。


「よろしいのですか?」


シャーロットが驚いてリュウヤを見上げる。


「馬車も、もうひと回り大きなもので来ていればよかったのだが、荷物もあって満席でな。

それに、良き歌声を聴かせてくれた礼でもある。」


良き歌声を聴かせてくれた、その言葉に表情が綻び、


「そういうことでしたら、有り難く同乗させていただきます。」


リュウヤの手を取り、その前に乗る。


それを見てシニシャしは、


「いいのか?

このことを知ったら、ユーリャ様の頭に角が生えるぞ?」


人懐っこさという点で、ユーリャとシャーロットは良く似ている。

ただ、ある一点の違いから、ユーリャは一方的にシャーロットをライバル視していた。


その一点とは、胸の大きさである。


ようやく膨らみかけたばかりのユーリャに対して、シャーロットは海神の神官衣の上からでもはっきりとわかる大きさ。


「同い年なのに、この差ってなんなの!!」


とは、ユーリャの言葉。


大きいからといって、いいことばかりではないとシャーロットは言うのだが、ユーリャの耳には届いていないようである。


「お前が口を滑らさなければ、大丈夫だろう。」


とは、シニシャへの釘刺しの言葉。


「俺だけでいいのか?」


というシニシャの言葉に、


「俺の部下に、尾ひれを付けて話すような者はいないからな。」


とリュウヤ。


「わかったよ。」


と、シニシャは降参のポーズを取る。


そして、リュウヤらは海神神殿の建設現場へと向かう。






☆ ☆ ☆






眼前に湖を望む高台の現場に到着すると、リュウヤは早速視察を開始する。


建設の総指揮を執るのは、海神神殿の神官長エッケハルト。

シャーロットと共にこの地に来た者の一人だ。


現在は基礎工事の段階なのだという。


その工事の様子を、リュウヤは興味深く見ている。

もともと、中小企業とはいえ建設業に従事していたこともあり、色々と質問をしたりしている。


その内容は、総指揮を執るエッケハルトも舌を巻くほどであり、側で聞いているシニシャには、ちんぷんかんぷんである。


さらにリュウヤは、休憩している者たちにも労いの言葉をかける。


そういった声掛けが終わるのを待って、シニシャが呆れたように言う。


「よくもそこまでやるものだな。」


それに対してリュウヤは、


「俺のいた世界の、ある国の君主に倣っているだけだ。」


と答える。


リュウヤの言う君主とはもちろん日本の天皇、特に昭和天皇を指している。


戦後の焼け野原となった国を、復興のために懸命に生きる国民を慰労してまわったのが昭和天皇である。


護衛もろくに連れず、日本中を駆け巡って慰労をした姿は、間違いなく日本の復興に一役買っている。


そして、リュウヤが倣ったのはもう一つの事柄がある。


昭和天皇が「人間宣言」と呼ばれる(みことのり)によって、国民の側へと歩み寄ったのに対して、リュウヤは「龍帝」という称号により国民から一段と離れた場所へと上がってしまっている。


だから、自分は国民の側に寄り添う立場なのだと、証明する必要があると考えたのだ。


「雲上人などというものに、俺が合っているとは思えんからな。」


「なるほどな。」


シニシャはそう言って笑う。


どこか超然として見えるこの男にも、そうあろうとする君主のモデルがあったのかと、そう考えると愉快な気持ちにもなる。


「ところで、本命の用事はなんなのだ?」


この言葉にシャーロットも反応する。


「私も疑問に思っていました。視察や慰労だけなら、他の所でも良かったはずです。」


そう言って、リュウヤを見る。


「会いに来たんだよ。食い意地が張った、古き神の一柱(ひとはしら)に。」


リュウヤの言葉に、


「誰が食い意地の張った神じゃ!!」


そう言って姿を現したのは、冥神ハーディだった。

毎日更新を目指してはいるのですが、最近はなかなか出来ず、申し訳ありません

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