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龍帝記  作者: 久万聖
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セルヴィ王国からの訪問者

自分を取り巻く状況の変化に、アナスタシアは目を丸くしている。


自分がなぜこの龍帝国(シヴァ)にいるのかといえば、龍帝と称されるようになったリュウヤの側室としてであり、それがどういう意味なのかは理解している。


ただ、現在11歳の自分に手をつける気は無いように見えるが。


それでも、この国に来てから半年ほど。


この国の非常識さに徐々に染まりつつあることを、アナスタシアは幼いながらに気づくことに。


この日、セルヴィ王国から彼女の従兄弟たちが訪問して来た。


「リュウヤ陛下、サクヤ様、アナ姉様、お久しぶりです。」


エレナとパヴレの二人である。


二人は馬車から降りると、出迎えたリュウヤらに挨拶をする。


二人に続いて降りてきたのは、セルヴィ王国の外交を担当するアルセンの妻マリーア。


「申し訳ありませんが、しばらくの間お世話になります、リュウヤ陛下。」


そして、彼らを護衛するのがシニシャである。


「久しぶりだな、龍帝陛下(・・・・)。」


ニヤリと笑いながら、リュウヤに向けて挨拶をする。

あえて「龍帝陛下」のところに力を込めたのは、半分以上のからかいがある。


「なんだ、ついに厄介払いされたのか?

龍帝国(うち)にくるなら、こき使ってやるぞ?」


リュウヤも負けじと応戦する。


「それもいいかもしれんな。」


シニシャには、馬耳東風のようである。

だが、そのシニシャも、


「シニシャ叔父上様も、お久しぶりです。」


アナスタシアの挨拶にデレる。


「おお、アナ。

この色欲陛下に、酷いことはされていないか?」


デレながらも、リュウヤを下げることは忘れない。


「ほお?お前はよほどこの地で命を捨てたいと見えるな。」


にこやかに、それでいて殺気を隠さずに言うリュウヤ。


「もう!リュウヤ様!叔父上様も!!」


アナスタシアが二人を叱りつける。


「そ、そうだな、遊びが過ぎた。」


リュウヤがアナスタシアに謝ると、


「お、おう、俺も言葉が過ぎた。」


シニシャも、可愛い姪っ子に頭を下げている。


そして、その様子をエレナとパヴレは目を丸くして見ており、サクヤとマリーアは笑いをこらえている。


そして、


「二人とも、ざまぁねえなあ。アナに怒られてやんの。」


アナスタシアの護衛となっている、ナスチャが大笑いしている。


「アナも、随分と龍帝国(このくに)に染まってきたなぁ。」


感慨深そうにナスチャは言い、


「アナ姉様、とっても強い。」


エレナとパヴレは驚きからか、素直な感想を口にする。


従兄弟の言葉に、アナスタシアは顔を真っ赤にしていた。






☆ ☆ ☆






エレナとパヴレ、そしてその母マリーアが龍帝国に来たのは、セルヴィ王国の王宮がとてつもなく忙しくなってしまったからである。


その原因はリュウヤというか、龍帝国の廷臣たちにある。


翼人族に手を貸してオスマル帝国と戦い、これに勝利することで東方八ヶ国はほぼ親龍帝国派で占められることになった。


それはそれで良いことなのだが、問題はその中で主導権争いが始まりかねず、その対応に苦慮しているのだ。


現時点では、龍帝国に一番近いのはセルヴィ王国だと見做されている。


それは正しい認識ではあるのだが、その立場にある者にとって居心地の良いものではない。


なにせ、各国との利害調整という、神経をすり減らすことをしなければならないのだ。

そのため、外交担当のアルセンは諸国を駆け回ることになり、国王アレクサンダルも内政のために執務室にこもらなければならない状況なのである。

時には殺伐とした雰囲気になることも予想され、子供の教育に良くないだろうと、子供達を従姉妹であるアナスタシアに会わせるという名目で外に出したのだ。


それになぜシニシャが護衛役として同行したかというと、


「俺にそんな事務仕事ができると思うのか?」


この言葉に、誰も反論ができなかったからである。


ただ、他国への備えとしてゴランやアルカンは残留している。


そして子供達とマリーアは、サクヤとアナスタシアの案内で今春に開校された学校を見学に行っている。


この地にいる間だけでも、通わせてみるのも良いかもしれない。

そんな考えからである。


その案内には、宮廷魔術師でもあるヴィティージェが加わる。


学校はその習熟度によりカテゴリーが分かれ、文字の読み書きを教える初期教育。


それをクリアすると初等教育になり、四則演算と算盤と歴史が教えられる。


中等教育になると、武芸や魔法、魔術をはじめ、適性を見るための初期教育が行われる。


そこから先は、希望者か中等教育からの推薦により、それぞれの専門教育へと上がっていく。


そこで優秀な者は、さらに専門教育へと上がっていく。


「学費は、どうなっているのでしょう?」


「学費は無料です。」


この返答にマリーアは驚く。


実のところ、無料にしたところで全ての者が上まで上がっていくわけではない。

大半の者が、初等教育で終わることが予想されるからだ。


現在でこそ、大学まで行くのが当たり前のようになっている日本だが、教育制度が整えられてからそこに至るまで、どれほどの時がかかっているかを考えればわかるだろう。


「むろん、貴族や王族向けの教育は、有料となっております。」


ヴィティージェはそう言って、別の場所へと案内する。


こちらでは、オスト王国で職を失った教師が教鞭をとり、マナーも教育されることになる。


アナスタシアが学ぶのも、こちら側になっていることを伝えられる。


マリーアらが学校を視察している頃、シニシャはリュウヤの執務室にて尋問されているのであった。




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