休暇明けのアルテア
アルテアが戻ってきたのは、慰霊祭が終わった後のことだった。
戻ってきて、上司にあたるウィラとキュウビにそれぞれ挨拶を済ませたのだが、状況が帰省前と激変していることに呆然としている。
まず、自分に補佐として二人の見習いがつけられたこと。
しかも、その二人がまだ10歳であることに、大きな衝撃を受ける。
さらに衝撃的だったのは、この二人が元奴隷であり、しかもその年齢で性的な奉仕をしなければならなかったことだ。
その二人とともに、キュウビに伴われてリュウヤのもとに、戻ってきたことを報告するために向かう。
リュウヤの執務室に入ると、ミーティアやフェミリンスらとともに、見慣れない少女が四人いる。
「陛下、休暇より只今戻りました。」
その言葉にリュウヤは振り返り、
「お帰り、アルテア。」
そう微笑を浮かべて応える。
そして、アルテアの顔を見て、
「少し日に焼けたようだな。
休暇は、楽しめたか?」
「はい、とても。」
そう答えるアルテアの表情が、ほんのわずかだけ曇ったことを、リュウヤは見逃さない。
親子の蟠りは、完全に解消されたわけではないようだ。
「お心遣い、ありがとうございます。」
「いや、楽しめたなら何よりだ。
それから、こちらの者達を紹介せねばならんな。」
そう言うと、まずはユニスから紹介する。
「この娘はユニス。ガロアから来た者だ。
現在の身分は・・・」
リュウヤはアルテアとキュウビの後ろに隠れるように立っている、二人の少女を見ながら、
「その二人と同じ、侍女見習いだ。
メッサリーナが教育係であり、後見を務めている。」
「よろしくお願いします、アルテアさま。」
まだ慣れていないことがわかる、ぎごちない動作でアルテアに向けて礼をする。
そのぎごちない、初々しい動作にアルテアは懐かしさを覚える。
かつては、自分もこんな風にカチコチになってたんだなあ、と。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、ユニス。」
アルテアの動作は、実に堂に入ったものだった。
「それから・・・、後ろの者達への紹介も必要だな。」
ユーリャとビオラを、二人の少女のために紹介する。
ユーリャとビオラが聖女と知り、息を飲む二人。
ここでユーリャの人懐っこさが功を奏す。
「ねえねえ、名前はなんていうの?」
ユーリャは二人のところに行くと、とても人好きのする笑顔を見せながら尋ねる。
二人の少女、黒い短髪の少女は、
「ジージャと言い・・・、も、申します、ユーリャさま。」
そう名乗り、もう一人の栗色の髪の少女は、
「ハムザと申します、ユーリャさま。」
ジージャとハムザ、二人の様子を見てリュウヤ少し首を傾げる。
疑問に思うことがあったのだが、今はそれを押し留めて残る三人を紹介する。
コルネリア、シャーロット、アイシャの三人を紹介し、この三人も聖女であることを知って、今度はアルテアも含めた三人の目が点になっている。
「陛下、五大神の聖女様が、なぜこの地に集まっているのでしょうか?」
当然すぎるアルテアの疑問。
「決まってるだろう?俺の徳を慕って集まってきたのだ。」
この物言いに、
「本当のところはどうなのですか?」
アルテアはにべもない。
その表情には、「陛下のことはよーく理解していますよ」と書かれている。
リュウヤはやや憮然とした顔をしている。
「陛下がそういう言い方をするときは、私を揶揄う時ですから。」
その言葉に、ミーティアやフェミリンスは笑う。
二人の表情は、「陛下の負けですよ」と書かれている。
「神託を受けて来たそうだ。」
ぶすっとした口調で言うリュウヤに、思わずアルテアは吹き出す。
そして、その様子を不思議そうに見ている三人の少女と、ユーリャ以外の聖女たち。
通常であればありえない、王と侍女の会話。
「こんなことで驚いてたら、龍王国で過ごせないよ。」
そう薄い胸を張って力説するユーリャ。
「そうですね。あまり良いことだとは思えませんが、貴女たちも慣れることです。」
とはフェミリンス。
「あまり慣れすぎて、公と私の切り替えができないようでは困りますが。」
とはキュウビ。
「慣れるのもほどほどにしてくださいね、皆さん。」
とはミーティア。
「散々な言われ方をしているような気がするのは、気のせいか?」
そうボヤくリュウヤに、
「気のせいじゃないよ。」
とトドメを刺すユーリャ。
そのユーリャの言葉に、執務室は笑いに包まれた。