依代
まだまだ導入部が続く・・・
「どういうことなのか、全てを教えてほしい。」
自分がなぜここにいるのか。この体はどういうことなのか。この世界のこと。
ありとあらゆること、全てが疑問の対象なのだ。
「はい。どこまでその疑問に答えられるかはわかりませんが、そのために伺わせていただきました。」
巫女姫の声は相変わらず穏やかだ。こちらの疑問は想定されていたということもあるのだろう。
「ただ、疑問にお答えする前に、お会いしていただきたい御方がおりますので、一緒に来ていただきたいのですが。」
拒否という選択はない。頷くことで意思表示をする。
「では、こちらへ。」
それまで巫女姫の後ろに控えていた従者二人が、前後に挟むように立ち位置を変える。どうやらこの二人はたんなる侍女ではなく、侍女兼護衛なのだろう。
自分は巫女姫に並んで歩く、、、のだが、後ろの従者の視線が途轍もなく痛い。間違いなく、「巫女姫様に無礼な態度を!」と思われているのだろう。巫女姫がこちらの言動を(表面的には)容認しているから何も言わない、行動に移さないだけ。
うん、なるべく言葉使いには気をつけよう。
扉を抜けると、以外なことにすぐ外が見える作りではなかった。かなり逆光が眩しく感じたから、てっきりすぐ外になっているか、大きな窓でもあるかと思ったんだけどね。窓みたいなものがあるにはあるが、数メートルの高さにある。そこから射し込んだ陽光が、先程までいた祭壇の間(仮称)に入っていたのだ。
日が傾いているようだが、それが朝陽なのか夕陽なのかがわからない。そこで新たな疑問が生まれる。
「どれだけ眠っていたんだ?」
思わず言葉が漏れる。
「3日、丸3日眠っておられました。」
自分では呟いたくらいの声の大きさだと思っていたのだが、巫女姫の耳に届くくらいだったらしい。
「3日、か。」
よくもまあ、そんなに眠っていられたものだ。父の自殺以来、いつも浅い眠りで、短時間しか寝られなかったというのに。
「おそらく、貴方の魂とその身体が結合するために必要な時が、3日だったのでしょう。」
現在、一番聞きたい疑問に巫女姫が触れる。
そこで、巫女姫に問うことにする。
「この体はどういうモノなんだ?」
考えられるのは3つ。ひとつはホムンクルスのような魂を持たぬ擬似生命体を魂の器とすること。2つ目は最近死んだ者の死体を魂の器とする。3つ目が、一番考えたくないのだが、生きている者を依代として使うこと。そして答えは・・・
「一族の娘を、貴方の魂の依代としました。」
やはり、そうであって欲しくない予測ほどよく当たる。溜め息しか出ない。
推測でしかないが、異世界の魂を召喚するには大量のエネルギーが必要なのだろう。そんなことは考えればすぐにわかることで、仮に地球と同じ次元世界だとしても、その距離は如何程のものなのか?それだけ離れたところから召喚するとなれば、想像を絶する量のエネルギーが必要なはずだ。また多元世界だとしてもそれは同様で、次元の壁を越えて召喚するには、やはり大量のエネルギーが必要だろう。
この身体の本来の持ち主である少女、その魂(生体エネルギーというべきか)を召喚のために使われている可能性がある。
「依代か・・・。生贄では無いんだよな?」
この言葉は、あまりにストレート過ぎた。口にした次の瞬間、巫女姫の表情が変わった。激変したと言ったほうが正解だろう。深い哀しみに包まれたような表情。「しまった」と思った時にはすでに遅い。前後にいる従者二人も、自分を睨みつけている。
「お前になにがわかる!」
前を歩いていた従者が、怒りに震える声を投げつける。
だが、怒りが激しければ激しいほど、"生贄"というのが事実なのだとわかってしまう。
巫女姫の哀しみも、生贄という儀式にたいするものなのか、生贄となった少女へのものなのか。多分、両方なのだろう。
巫女姫がよろけ、壁に身を預けるような形になると、従者二人は巫女姫に駆け寄る。自分に非難がましい視線を向けながら。
「どうしたんじゃ?遅いから来てしもうたぞ。」
場違いな陽気な声が前方から聞こえてくる。
酒樽に手足と頭を付けたような体型。ロード・オブ・ザ・リングに出てくるドワーフのような姿。
そのドワーフらしき人物は自分を見て、
「あんたが召喚された者じゃな?ワシはドヴェルグのギイじゃ。」
人懐っこい笑顔を見せながら名乗っていた。