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龍帝記  作者: 久万聖
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遅れてきた戦後処理

帰国したリュウヤがやることは多い。


まず最初に行ったのは、アデライードとキュウビが広めた戴冠式に関する話題の凍結。


その理由として、ユーリャ以外の聖女のための神殿が築かれていないことを、最大の理由としてあげておく。


しかも、仮設ではなく正式なものとしている。


「まさか、仮説の神殿でいいわけはないだろう?」


この一言で、皆は静かになる。


「すると、五大神の神殿が出来上がれば、戴冠式を執り行うということか!」


という、リュウヤが逃げられない状況に陥ってしまったのであるが。


聖女絡みとしては、もう一つの指示を出している。


それぞれの神殿の祭事の一覧を作成すること。


庇護下に置いている以上、いくら政教分離が大原則としても、それぞれの神殿において重要視される祭事に参加しないわけにはいかない。


ダブルブッキングを避けるためには、その祭事が執り行われる時期を知らなければならない。


ただ、ここでヴァーレから一つの疑問が呈される。


「それだけでは、公平に扱っていると見做されないのではないか?」


ということだ。


いくらリュウヤが、それぞれが重要視する祭事を平等に参加することにしても、信者たちがどう思うのか?


「ならば、それぞれの神殿に五年のうちの一年を、最重要視する一年とする。

その一年を、大きな祭りとするも良し。

その内容や祭事の数は、それぞれの神殿の裁量とする。」


言ってしまえば、その一年はそれぞれの神殿が決めたことに従うということになる。


その内容にリュウヤが一切触れないとなれば、軽んじられていると思われるかどうかは、それぞれの神殿の力量次第である。


それをいつから始めるかは、リュウヤの戴冠式後とされる。


新たな提案をしてしまったがために、自ら逃げ道を塞いでしまうといういい事例である。


なぜ戴冠式後かというと、神殿そのものが建築されておらず、それぞれの儀式・祭事が執り行うことができないという問題からである。


ここでがっくりと項垂れたいところだが、まだまだやらなければならないことが、帰国したばかりのリュウヤにはある。


新たに傘下に入った、竜女族(ヴィーヴル)のケーサカンバリン氏族長ルカイヤとの面談。


イストール王国国王ウリエの戴冠式参列のため、竜女族の本隊と入れ替わりになってしまっている。


そのため、ルカイヤも挨拶が出来ずにおり、なんと言っても受け入れてもらえたことへの感謝の意を伝えなければならない。


「敗残した我々を受け入れていただき、感謝にたえません。」


「敗残などという言葉を使うべきではないな。

お前たちは、この地で新たに生きていくための戦いに身を投じたのだから。」


新たな戦いという言葉に、ルカイヤは身を硬くする。


「その身体から察するに、お前たちは寒さには強くないのだろう?」


人間と同様の上半身は、それなりに着込めば寒さは凌げるかも知れない。

だが、下半身の蛇身はそうはいかないだろう。

何か服のようなものを着せるにしても、その生活の場が水辺となれば、かえって凍りついてしまいかねない。


「はい。ご明察の通りでございます。」


「冬の対策を考えねばならぬが、西の湖をはじめとする水路の管理を、お前たちに任せようと思っている。」


その言葉に、ルカイヤは改めてリュウヤを見る。


「やれるか?」


「はい。謹んでお受けいたします。」


ルカイヤは、深々と頭を下げた。


これにより、竜女族ケーサカンバリン氏族はリュウヤの部下として組み込まれることになる。


これで大きな課題はクリアしたが、これだけで終わりではない。


なにせ、オスマル帝国との戦いで捕虜を3万人も得てしまったのだ。


この捕虜の大半は、神殿建設に回されることになるだろうが、それ以外に回す者の選別と、人数を決めなければならない。


捕虜の扱いに関しては、リュウヤの意向によりその労働には対価を支払うことになっている。

その労働の日当についても話し合われる。

それだけでなく、今後の自立に向けて最低限の教育をすることも、議題としてあがる。


その辺りの配分は、有能な部下達に丸投げする。

自分はそれを承認するだけ。


それが一番混乱がなくて済む。


捕虜関連の議題はそれで終わりかと思ったら、最後に(リュウヤからしてみたら)とんでもない爆弾が仕掛けられていた。


「それから陛下。捕虜の中に千人ほど、女性がいるのですがどういたしましょうか?」


エストレイシアの報告。


「女性?オスマル帝国軍も、龍王国(うち)と同じように兵士や士官級に女性を登用していたのか?」


リュウヤの言葉に、


「いえ、違います。捕虜となっているのは奴隷です。

それも、性的な行為のための者たちです。」


エストレイシアの言葉に、リュウヤの頰が引き攣る。


「売春婦、というわけではないのか?」


「広い意味では、そう言えるかもしれません。」


「なるほど・・・。」


理解したくはないが、できてしまう。


自分たちのような例外はあるが、この世界での軍隊は完全なる男社会である。

そこで起きる大きな問題の一つが、性の問題である。


放っておくと、民間人に対する性的集団暴行事件へと発展してしまい、民間からの協力を得られなくなる。

得られなくなるならまだマシで、敵対されると非常に困ったことになるのだ。

それを未然に防ぐために、兵士の性処理目的で女奴隷を連れて来たのだろう。

おそらくは、売春業者も連れて来ていたはずだ。


売春業者や売春婦としても、軍隊相手というのは比較的硬い相手であり、戦場に近い場所となればそれこそ多額の報酬を得るチャンスでもある。

多額の報酬というのは、女奴隷にとっても同様で、自身を買い戻す資金を調達する絶好の機会なのだ。


これは別に珍しいことではなく、かつては自分のいた世界でも広く行われていたことだ。


例えば、第三次ポエニ戦争(紀元前149〜146年)、途中で指揮官として赴任した小スキピオが最初に行ったのは、軍から売春業者を一掃することだったという。


「業者はどうした?」


業者に引き取らせるのが一番良いのではないかと、そう考えて口にする。

もっとも、そういう業者というのは、


「真っ先に行方をくらましております。」


こういうものである。

そして、行方をくらますときというのは、


「しかも、商品であるはずの女性たちを置いて。」


ああ、やっぱり。


「その人数は?」


「こちらも、千人ほどおります。」


「その中で、奴隷だった者は?」


「三割ほどと、報告を受けております。」


「奴隷以外の者は、ライラに任せる。」


奴隷ではないのなら、自分の意思で売春婦となっていると見るべきだろう。借金など、一部例外はあるかもしれないが。


この国にとどまるのも、帰国するのも勝手にすればいいが、勝手に売春をされても治安の面で困ったことになりかねない。

だから、この国の売春の元締でもある夢魔族ライラに任せることにする。


問題となるのは、奴隷たち。


このまま解放しても良いのだが、それだと男の奴隷たちの不満が噴出しかねない。


なんらかの労働を課す必要がある、のだが、


「女奴隷の年齢はどうなっている?」


この質問を予想していたらしい。


「最年少は10歳。最年長は30歳です。」


そう返答される。


予想はしていたが、最年少が10歳・・・。


近世フランスの記録の中に、年端もいかない少年が、パン一切れのために客引きをしていたというものがある。

客引きをして連れて行った先にいたのは、その少年の姉だったという。


正確な年齢が伝わっていないが、表現からするとその姉は10歳を越える程度だったのではないかと推計される。


知識としてそういう存在がいたことは知っていても、自分に関わるところに現れるとなると、やりきれない気持ちになる。


「15歳以下の者は、売春を禁止する。」


15歳としたのは、この世界では一般的に15歳で成人と見做されるというからだ。


「だから、15歳以下の者たちは、王宮内での下働きをさせる。

それ以上の者は、その能力によって割り振るように。」


とりあえずの措置として、そう命じる。


能力といっても、希望が優先されることになるだろう。

ただ、そうなるとそのほとんどは売春へと流れることになる、簡単にそう予想できる。


そして、それはこの場にいる者の共通の認識でもあった。


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