アデライードの策謀
リュウヤら龍王国一行は、予定通りの日程を過ごし、帰国の途に着く。
往路では、リュウヤの乗る馬車に乗っていたのが、自身を含めてサクヤとアナスタシア、アデライード、ミーティアの5名だった。
そのため、かなり余裕があったのだが、復路はというとアナスタシアとミーティアの二人が別の馬車に移ったのだが、代わりにユーリャ、ビオラ、コルネリア、シャーロット、アイシャの5名が乗っている。
「戻ってから、やることが多いな。」
リュウヤのぼやき。
ユーリャの大地母神神殿の建設は、トルイ指揮の下に開始されている。
これからは、それ以外の至高神、智慧の神、軍神、海神の神殿を建設する必要があるだろう。
それだけではない。
それぞれの神殿の祭事の問題。
どの祭事に参加するのか、またはしないのか。
このままでは宗教国家になりかねないと、リュウヤは本気で頭を抱えたくなる。
そしてもうひとつ。
聖女が龍王国に集っていることを公表するべきか否か。
公表すれば、当然ながら軋轢が生まれる。
至高神神殿と、その総本山がある神聖帝国との対立。
すでに獣人族絡みで起きているが、ビオラがこちらに残ったことで、より激しくなることが予測される。
イストール王国ウリエ王の戴冠式では、互いに接触を避けていたので大きなことになってはいないが、その内心はわからない。
たまたま、騒ぎを起こしたくないという人物だったのか、本当に穏健派だったのか。
「そういえば、陛下は戴冠式を行われないのですか?」
アデライードの突然の問いかけ。
アデライードの方を見ると、他の者たちは興味深そうに見ているのがわかる。
突然と感じていたのはリュウヤだけで、別のことを考えこんでいたために気づかなかったのだろう。
「そういえばしていませんね、戴冠式。
いえ、即位式そのものもしていませんでした。」
サクヤが答える。
リュウヤに言わせれば、成り行きで王に押し上げられたのだから、そんなことをする気はなかった。
事実を言うならば、そんなことをしていられる状況ではなかった。
「していないのならば、やりましょう。
戴冠式を。」
なぜか、アデライードが乗り気である。
アデライードが乗り気であることに、リュウヤは疑問を感じる。
「フィリップや、エガリテ翁に唆されていないだろうな?」
「はい。戴冠式を行ったのかと、聞かれはしましたが。」
「それで、お前はどうしたい?」
答えはわかりきっているが、念のために確認する。
「行いましょう。」
わかりきった答えが返ってくる。
ただ、続く言葉に絶句する。
「ですが、聖女五人の祝福を受けられるのですから、"王"では不足ではありませんか?」
「い、いや、王でいいだろう?
それに、聖女五人の祝福とはなんのことだ?」
そう聞かれたアデライードは、とても良い笑顔を見せる。
「一昨日以来、聖女様方と話し合い、戴冠式をなされていないのであれば、皆様の祝福を頂けるとのことですので。」
どうやら、リュウヤの知らぬ間に話し合いがされていたらしい。
チラリとサクヤを見ると、露骨に視線を逸らしている。
どうやら、知らぬは自分だけだったらしい。
リュウヤは大きく溜息をつくが、そこであることに思い至る。
「まさか、その話を誰かにしていないだろうな?」
自分の部下たちは、一度面白いと思えば、凄まじい勢で動き出す。
それに対抗するなど、濁流に筏で立ち向かうようなものだ。
「もちろん、ミーティアやドルシッラ、スティールにキュテリア、キュウビにも話しております。」
キュウビに話したということは、間違いなく今頃は岩山の王宮内に話が広がっているはずだ。
そして、帰国する頃には国中に広がっている可能性もある。
「ですので、後は陛下の称号を決めるだけですわ。」
アデライードの笑顔が、悪魔の笑いに見えてしまうリュウヤだった。