表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
396/463

聖女たちとの会談

 ウリエは王宮へと戻る。


 五大神の聖女が集うなど、聞いたことがない。


 そのため、何が起きるのか、起きようとしているのか調べる必要がある。


 この場で聖女たちから話を聞けば、それがわかるかもしれないが、少なくとも今の自分には耐えきれないだろうことはわかる。


 だから、あの場を辞することにしたのだ。


「それにしても、リュウヤ・・・殿はどれほどの重荷を背負っているのか・・・。

 凡庸な自分には計れぬものだ。」


 そう口にして、リュウヤがいるであろう部屋をわずかに振り返り、馬車に乗り込む。


 なにか伝えられることがあるならば、まだ残っている兄フィリップがなにか聞いてくるだろう。


 その時から、考えればいいのではないか。


 ウリエはそう考えると少しばかりの時間、目を閉じていた。






 ☆ ☆ ☆






「凡庸な自分」とは先ほどのウリエの言葉だが、それはリュウヤ自身が自覚していることでもある。


 他者の評価はどうあれ、リュウヤ自身は自分を凡庸であると思っている。


 それが、異常なまでの魔力量と身体能力。

 それに過去にシヴァの贄となった者たちの記憶、元いた世界で得ていた知識でなんとかなっているに過ぎないと、リュウヤ自身は思っている。


 そして、ウリエが退出したため、場所を湖のほとりに移す。


 リュウヤは改めて名乗り、そして聖女たちも改めて名乗る。


 リュウヤの右隣にはサクヤが座り、左にはヴァーレ。

 そしてユーリャ、ビオラ、コルネリア、シャーロット、アイシャと続き、サクヤとなる。

 また、コルネリア、シャーロット、アイシャの後ろには従者が各1名控えている。


 また、ヴァーレが隣にいるのは、この世界の宗教に疎いリュウヤのアドヴァイザーとしてである。


 さらに、リュウヤの後ろにはスティールとキュテリアが控える。


「リュウヤ陛下の部下は、噂通りに多種族混成なのだな。

 安心したぞ。」


 リュウヤのほぼ正面に座る、軍神(アヴェガー)の聖女コルネリアの言葉。


 コルネリアは外套(マント)も外しており、その尻尾や犬のような耳も晒している。


「ここには連れてきていないが、獣人族の部下もいる。

 獣人族の国とも、同盟を結んでいるぞ?」


 その言葉に、ニヤリと笑みを浮かべる。


 また、シャーロットもホッとした顔を見せている。

 おそらくは、自身だけでなく従者にも他種族がいるのだろう。


 その一方で、アイシャの表情は変わらない。


「なぜ、俺のところに来たのか、その理由を知りたい。」


 単刀直入に尋ねる。


「はいはーい!」


 すかさずユーリャが手を挙げる。


「私はねぇ、大地母神(イシス)様から南に行けって言われたんだ。」


「それだけか?」


「うん。南に新しく豊かな森ができたから、そこに村の人たちを連れて行けって。」


 それはすでに聞いている。

 だが本人は意識しているのかわからないが、ユーリャのこの積極的な行動は、周囲が参加しやすくしてくれる。


「私も、龍王国(シヴァ)に行くようにと。

 そして、陛下のお顔を見たとき、お仕えせよと。」


 とはビオラ。


「大いなる災厄に備えよとも。」


 ビオラはそう付け加える。


「私も、至高神(ヴィレ)の聖女と同じ。

 始源の龍を蘇らせた存在がいる。その者の力となれと、そう神託を受けた。」


 とコルネリア。


「個人的に興味もあったけどね。産声をあげたばかりの小国が、どう見ても格上の大国を次々と破っていったんだから。」


 そう言ってリュウヤを値踏みするような視線を向ける。


「私も、だいたい、同じ。」


 アイシャは相変わらず、たどたどしく言う。


 そのたどたどしい言葉に、リュウヤは興味を抱く。

 これは種族としてそうなのか、生育環境によるものなのか?


 アイシャからは通常の人間よりも、遥かに強い力を感じるのだが・・・。


 そのリュウヤの興味に答えたのは、アイシャの後ろに控えている従者だった。


聖女(アイシャ)様は、ヤリクの民にございます。

 もし、話し方にご不快なことがあるのなら・・・」


 謝罪いたします、そう続けようとしたのだろう。

 それを遮るように、リュウヤが問いかける。


「ヤリクの民?」


「は、はい。月の民とも呼ばれる種族にございます。」


「どんな種族なのだ?」


 これに答えたのは、背後に控えるキュテリア。


「月の満ち欠けにより、その力を左右される種族です。

 その個体によっては、獣のような姿になることもあります。」


 そこで言葉を区切り、


「ですが、彼女(アイシャ)がそのような姿になったとは聞いたことがありません。」


「なるほどな。」


 狼男に代表される、獣憑(ライカンスロープ)に近いのだろうか?


 その姿を見てみたいとは思うが、見ない方が平穏な日々であることは間違いない。


 そしてリュウヤはもうひとりに視線を向ける。


「私は、海神(マナナス)より、その上位神からの伝言として伝えられました。」


「ん?上位神?」


 シャーロットの言葉に疑問が生ずる。


「海神だけ、やけに具体的なのだな。」


 一見すると具体的に見える大地母神は豊穣と繁栄という概念、至高神は高潔さといった概念。


 軍神は武と勇気、智慧は知識と智慧。


 だが海神はそのまま「海」となる。


「上位神とは、なんなのだ?」


「名は伝わっておりません。」


 あっさりとシャーロットに言われる。


「まさか、な。」


 ひとりだけ心当たりがあるが、今は黙っておく。

 いずれ再会することもあるだろうから、その時に確認することにしよう。


「来た理由はわかった。だが・・・」


 この場にいる者たちに釘を刺す必要がある。


「君たちの言う、大いなる災厄についてはしばらくの間、口外しないように。」


 この場にいる皆は、一様に頷く。


 アイシャ、コルネリア、シャーロットの三人の聖女を、ユーリャ、ビオラに続いて受け入れることを決める。


 そして、アイシャとコルネリアに、三日後に出立する旨を伝える。


 シャーロットは大地母神神殿に投宿しているので、特にその必要はないだろうとの判断からだったのだが、全員この別荘に合流することを望んだため、翌日から合流することになった。






 ☆ ☆ ☆






 リュウヤはヴァーレを残し、いくつかの質問をしている。


「聖女とは、同時期にこんなに誕生するものなのか?」


「他の神々の神殿のことはわかりません。ですが、ユーリャ様がお生まれになるまで、約150年ほど聖女様はご不在でした。」


 大地母神神殿の事例を当てはめるなら、そうそう誕生するものではない。


 だが、時期はどうなのだろう?


 そして、


「過去に、聖女が一堂に会することがあったのか?」


 この疑問にヴァーレは、


「ありません。教皇となってから、禁書とされるものまで、大地母神神殿総本山の蔵書に目を通してまいりましたが、そのような記述は見たことがありません。」


 そう断言する。


 どうやら、「大いなる災厄」とやらは、リュウヤの持つ記憶を上回るものになりうるという、最悪の事態を想定しなければならないようだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ