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龍帝記  作者: 久万聖
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聖女たち

戴冠式翌日。


エガリテ商会の別荘では、イストール王国新王ウリエを迎えるための準備でごった返している、というわけではなく、いつもより警備が少しだけ厳しくなったくらいしか、変化はない。


これは、アデライードかすでにキュウビに伝えていたからであり、戴冠式でリュウヤらがいないうちに粗方の準備は終了している。


一応、アデライードはリュウヤに伝えなかったことで注意を受けたが、それ以上のことはなかった。


「それにしても、ウリエがここに来るとはな。」


戴冠して最初の会談相手、しかも自分から訪問するとなると周囲への影響は大きい。


最初の相手というのは、ウリエの今後の方針を明確に示すものと見做されるからだ。


ウリエは龍王国(シヴァ)を重要視し、その関係を強化・発展させると宣言したと見做されるわけだが、これをギリギリまで公表しなかったのは、国内の反発が強いからでもある。


そしてこの日、リュウヤはもう一人の訪問者を受け入れることになっている。


前日に、急に来訪した翼人族ディアネイラから、智慧の神エアルの聖女が会談を希望していることが伝えられたのだ。


「エアルといえば、ムシュマッヘの仇だったと報告を受けていたな。」


そう口にするリュウヤに、


「その通りです。」


と、ディアネイラを繋いだカシアが返事をする。


「ウリエとの会談が終わるまで待ってくれるなら、会うのはかまわない。」


そのリュウヤの言葉を受け、ディアネイラはアイシャの待つ宿に向かっている。


「さて、そろそろウリエも来る頃合いだな。」


そう呟くと、会談用に準備された広間へと向かう。


そして、ウリエの来訪が伝えられたのは、それから三十分後のことであった。






☆ ☆ ☆






会談はリュウヤからの祝辞で始まる。


戴冠式への招待と、ウリエが即位したことに対しての。


それに対して、ウリエは参列してくれたことへの謝意を表明する。


それらが一通り終わってから、本来の会談へと向かう。


会談とはいっても、今回は政治的なものはなく、むしろ懇談会と言った方が正確かもしれない。


実務的なことは、別室でのアデライードとフィリップの間での協議で行われている可能性があるが。


「昨日は、一部、申し訳ないことをしてしまった。」


これはグラキエナ、サラミス、ラウレイオンの三ヶ国の代表とのやり取りのことだ。


「いえ、まさかあのような場所で、そんなことが起きるとは思いませんでした。」


ウリエがそう思うのが当然で、周囲にそれぞれの国を代表している者がいるのに、そんな暴言を吐くなどあり得ない。


「どうなさるのですがか、その三ヶ国を。」


「相手次第だな。ヴァーレも駄目押ししたから、謝罪くらいはあるものだと思っているがね。」


ウリエもその報告はフィリップから受けている。


「やりすぎないでくださいよ。」


その言葉が、前日のフィリップの言葉にダブって聞こえる。


「そう心がけておくよ。」


途中、昼食を挟んだ会談は、三時間ほどで終了する。


「ところでウリエ殿()。」


リュウヤが改まってそう呼びかける。


呼びかけられたウリエは、一瞬、誰のことかと戸惑う。


「陛下と殿、ふたつの呼称に慣れないといけないな、ウリエ陛下(・・)。」


ことさらに、陛下の部分を強調して揶揄うリュウヤに、ウリエも苦笑する。


「わかりました。なるべく早く慣れるようにします、リュウヤへ・・・、殿。」


陛下と言おうとして言い直す様子に、軽く微笑を浮かべる。


「コ、コホン。それで、なにかおありでしょうか?」


ウリエも、軽く咳払いをしてから、リュウヤに尋ねる。


「この後、智慧の神エアルの聖女に会うのだが、一緒にどうだ?」


「聖女?すでに2人の聖女を庇護しているのに、まだ増えるのですか?」


ウリエは半ば呆れたような口ぶりである。


「何人の聖女がいるのか知らんが、なんで俺のところに集まるのか・・・。」


そう嘆いてみせるリュウヤだが、この会談の最中にさらに2人増えていることを、まだ知らなかった。






☆ ☆ ☆






ウリエを伴い、智慧の神エアルの聖女が待つ部屋へと入っていく。


そこでリュウヤが見たのは、なぜかいるユーリャを含めた4人の少女。


思わずウリエと顔を見合わせる。


黒髪、黒眼、褐色の肌の少女の後ろに、翼人族ディアネイラがいるところを見ると、彼女が昨日、ディアネイラが言っていた智慧の神エアルの聖女アイシャなのだろう。


「貴女が智慧の神エアルの聖女アイシャ殿、でよろしいのかな?」


リュウヤが確認する。


「はい。私が、アイシャ。」


アイシャの返事。


たどたどしい話し方に興味を抱くが、口にしたのは別のことだった。


「昨日、沿道にいたな。そちらの2人も。」


「へえ?気づいてたんだ。」


赤髪の少女は、こちらを値踏みするかのような視線を送ってくる。


「やはり、気づいておいででしたか。」


フードを目深に被ったままの少女は、とても美しく響く声でそう言うとフードを外す。


フードを外して見える首筋には、薄っすらと鱗のような模様が見える。


人魚(マーメイド)?」


リュウヤの呟きに、


「似てはおりますが、少し違います。

私はローレライ。海神より神託を受けました、ローレライのシャーロットにございます、リュウヤ陛下。」


「ローレライ、ね。」


リュウヤは口の中で呟く。


自分のいた世界なら、ドイツのライン河流域の伝承に出てくる。

非常に美しい少女の姿と美声で知られ、その歌声に魅了されると川底へと沈んでいくという話だったか。


実際には、ローレライが佇んでいたとされる岩のある場所は、大きく曲がっているだけでなく、川底には沢山の岩があるために元々難所として知られており、警戒を促すために作られた話という説もある。


「ヴァーレ。なぜお前たちと一緒にいるのか、経緯(いきさつ)を説明してくれ。」


シャーロットの隣に座っているユーリャを飛び越え、その背後に控えているヴァーレに説明を求める。


「えーっ!!私に聞くんじゃないの、そういうのって!!」


ユーリャのあげる抗議の声。


「わかった。じゃあユーリャ、説明してくれ。」


あっさりと水を向けられたユーリャだが、


「えーっと・・・。」


どうやら話す内容を忘れたらしい。


「ヴァーレ、頼む。」


このやり取りに苦笑しながら、ヴァーレが説明する。


「昨日より、シャーロット様一行が大地母神神殿に泊まられておりまして。」


それは、自分たちが王宮から戻る前からすでにおり、神殿責任者を通じて面会を求められたのだという。


王宮から戻り、シャーロットと面会したのだが、


「リュウヤ王に面会したいのですが、紹介していただけないでしょうか。」


身分を明かし、そう頼んできた。


「そうしましたら・・・」


「ユーリャがあっさり引き受けたと、そういうことか。」


「はい。」


海神の聖女ということかと、リュウヤは理解する。


「そちらの赤毛の娘は、どういう経緯なのだ?」


「そちらの方は、今朝方、神殿の方に来られまして。」


「私はコルネリア。軍神アヴェガー様に仕えている。」


コルネリアが、説明は自分がするとばかりに口を挟む。


「軍神アヴェガー様の神託により、貴方に会いに来た。」


リュウヤは眉間を押さえ、ため息をつく。


その隣にいるウリエはというと、唖然とした顔をしている。


リュウヤは、部屋の入り口に控える夢魔族の侍女に命じる。


「ドルシッラ、ビオラを呼んできてくれ。」


ユーリャはともかくとして、他の聖女たち全員から話を聞く必要がありそうだと、そう判断した。

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