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龍帝記  作者: 久万聖
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パレード、そして・・・

戴冠式当日。


この日のために、ドワーフたちが用意した馬車を見てリュウヤは絶句する。


絢爛豪華というのはこういうものかと、そう思わせるものだった。


リュウヤとしては、日本の皇室や各国の王室がパレード等に使用するくらいのものが用意されると思っていたのだが、それを遥かに上回る豪華さ。


「任せるとはたしかに言ったが、それでも目立ち過ぎるのではないか?」


成金趣味と言われるのは、イメージとしてマイナスではないだろうか?

それに対して、今回同行しているドワーフのリーダーのエジェイは、


「新興国なのですから、むしろ度肝を抜くくらい派手な方がよいのではありませんか?」


との返答。


確かに国の創設者には、そうやって自身を権威付ける者もいる。


日本なら、豊臣秀吉はその代表例だろう。


ただ、隋の文帝のように質素倹約を旨とした始祖もいる。


「それに、我が国の産物を見せつけるという意味では、これくらいではまだ足りないくらいです。」


たしかに、岩山の王宮の地下はミスリルを産出するし、トライア山脈ではドワーフ王バトゥと共同開発による、金銀の産出もある。


ようやく開始し始めた野蚕により産出された絹や、大森林の木材・・・。


たしかに、そういうものを知らしめるのには好都合だろう。


「陛下。」


サクヤが声をかける。


「わかっているよ。」


そういうと、少しだけ空を見上げ、


「腹をくくるか。」


そう呟くと、サクヤの手を取り、先に馬車に乗せる。


そして、アナスタシア、アデライード、ビオラと乗せ、最後に自身が乗り込む。


馬車はパレード用のものだけあり、屋根はなく周囲から見えるようになっている。


御者を務めるのはリョースアールヴのマルック。


一団の先頭に立つのは鬼人(オーガ)たち20名。サクラとキキョウが指揮を執る。


それに続いて、オスト王国名代マクシミリアンとクリスティーネが乗る馬車が続き、その周囲はオスト王国の騎士15名が守護する。


念のために、馬車には護衛役としてエルフが4名乗り込んでいる。


パドヴァ王国の馬車が続き、その周囲はコジモ指揮の下、20名のパドヴァ騎士が護衛を担う。


リュウヤの乗る馬車は最後に登場する。


その周囲にはスティールが指揮する近衛20名。


それだけでなく、上空では翼人族の4名が警戒にあたる。


リュウヤの乗る馬車の後方にて、殿(しんがり)となるのはドヴェルグとドワーフの混成隊30名。


多種族混成の一団を、怖いもの見たさのガロアの市民が集まって沿道を埋め尽くしている。


一度に三ヶ国の王族を見るなど、そうそうある機会ではない。

そういうこともあるだろう。


沿道を埋め尽くす民衆は、最初に現れた鬼人族の集団に息を呑む。


鬼人一人で、少なくとも人間100人を相手どれるという。

完全武装したその鬼人が20名。


なにか起きれば、この周囲はあっという間に灰と化すだろう。


鬼人たちの印象があまりに強すぎて、続くオスト王国やパドヴァ王国の印象はどうしても薄くなってしまう。


そして現れるリュウヤら龍王国(シヴァ)の馬車。


まず目を惹くのは馬車を曳く馬の見事さと、馬車の車体の装飾の見事さ。


この地域で最大であり伝統ある国である、イストール王国でもこれほどのものは所有していないだろう。


そして続いて目を惹いたのが、アデライードの存在。


民衆から、「慈悲深き王女」という評価を受けていただけに、ひときわ大きな歓声で迎えられる。


そして目ざとい者は、アデライードの左に座っている少女の衣装を見て気づく。


至高神(ヴィレ)の聖女様!!」


どよめきが起こるだけではない。

聖女といえば、前々日に大地母神(イシス)の聖女が来訪していた。

その時、空には四人の翼人族がいた。

ならばこの聖女のいる上空には・・・。


そこには、当たり前のように四人の翼人族がいる。


天使の異称の通りに、その姿は神々しく映る。


そして再び馬車に視線を戻すと、この世のものとは思えぬ美貌の持ち主であるサクヤの存在に、民衆の目は奪われる。


民衆の目には、リュウヤという存在は映っていない。

リュウヤはこうなることを予測しており、だからこそ民衆の様子を観察する余裕もある。


だからこそ気づいた。


自分を見つめる3つの視線に。


その視線の主を、民衆の中からほんのわずかな瞬間だが捉える。


一人は黒髪黒眼の、力強い目力を持った日に焼けた浅黒い肌の少女。


そしてもう一人は、赤い髪と翠の瞳が印象的な少女。


最後の一人は、フードを目深に被っており、その容姿はわからない。


その3人を確認することのできないまま、リュウヤらは王宮の門をくぐって行く。






☆ ☆ ☆






「間違いないわ。」


黒髪、黒眼の少女は側に控える従者にそう呟く。


そして向かい側に、自分と同じようにリュウヤという王を見ていた赤髪の少女を見る。


「アイシャ様、あちらの方は?」


従者が少女に問いかける。


「多分、軍神アヴェガーの聖女。」


言葉短く返答する。


「なっ!すると、この地には四人の聖女が集まっていると?」


「いえ、もう一人いる。フードを目深に被っているから確信はないけど、海神マナナスの聖女。」


かくいう彼女は、「深淵なる智慧の神エアル」の聖女。


彼女の言葉通りならば、この地に至高神、大地母神、軍神、海神、智慧の神と、この世界において最も信仰を集める五大神の聖女が集まっていることになる。


従者は思わず息を呑む。


「五大神の聖女がひとつの場所に集われるとは・・・」


「うん、多分初めてのこと。そして・・・」


アイシャはそこで口を噤む。

代わりに口にしたのは、


「明日、訪ねるわ。」


という言葉。


「そんないきなり。」


「大丈夫。きっと会えるから。」


アイシャの言葉は短い。


「宿に戻る。」


従者にそう告げると、アイシャは踵を返して歩き出す。


従者は慌ててその後を追った。






☆ ☆ ☆






「強い。とても。」


赤い髪の少女は、短く感想を呟く。


少女は従者など連れていない。


軍神に仕える者であるのだから、当然ながら武芸は人並み以上に修めている。


そんじょそこらの傭兵や暴漢など、10人程度なら余裕で叩きのめすことができる。


「それにしても、五大神の聖女がひとつの場所に集まるとは。

どれほどの災厄が起きる?」


軍神アヴェガーは言った。


巨大な災厄が起きる、と。

そして、龍人族のところに行けと。


「何が起きる?」


その口調は、どこか楽しげなものであった。






☆ ☆ ☆






「シャーロット様、おひとりで出歩かれては困ります。」


フードを目深に被った少女を、年配の男がそう声をかける。


「申し訳ありません、ジョシュア。ただ、せっかくの機会ですから、どうしても見てみたかったのです。

本当に、神託の人物なのかを。」


「なるほど。それでいかがでしたか?」


歩きながら、ふたりは会話を続ける。


「おそらくは、間違いないかと。」


「そうでしたか。なら、すぐに面会の手配をいたしましょう。」


ジョシュアはすぐに面会をさせるべく、動こうとする。


「あら?ジョシュアはさっき、私にひとりで出歩かないようにって言っていたのに、ひとりにするのかしら?」


揶揄うようなシャーロットの言葉。


「申し訳ありません。年甲斐もなく、急いてしまいましたな。」


そう言ってジョシュアは笑う。


笑いながら、ふたりは大地母神神殿へと向かう。


大地母神神殿は、旅人へ無償で宿を提供している。

ただ、多少の奉仕活動は必要だが。


シャーロットら一行は、はるか西方の島国から来ており、無償で宿泊できるというのは、路銀の節約という意味でもとても有り難い。


そしてなにより、現在、この地の大地母神神殿には聖女がおり、その聖女はリュウヤ王の庇護下にあるという。


リュウヤ王に接触するには、一番の伝手になりうるのだ。


「諸王たちは、そろそろ王宮に入った頃合いでしょうから、他の者たちも集まって参りましょう。」


ジョシュアはそう言い、シャーロットは頷く。


ふたりは大地母神神殿前にて、他の従者たちが来るのを待つことにした。



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