カルロマン公爵
侍女長キュウビとアデライードに伴われ、テラスまでやってきた人物、リシャール・カルロマン公爵。
身長は170センチくらいだろうか。
豊かな顎髭をたくわえ、胸のあたりまで届いている。
年齢は40代に入ったばかりと、アデライードから報告されているが、顎髭のせいかもう少し上に見える。
いや、若く見られることを嫌って顎髭をたくわえているのだろう。
こちらの世界に来る前の自分の年齢に近いとなると、単純ではあるが親近感がわく。
「お初にお目にかかります、リュウヤ陛下。」
「こちらこそ、カルロマン公爵。
それと・・・」
カルロマン公爵に、少し遅れてついてきている御婦人と若い男女4名。
「リシャールの妻、イルドガルドと申します。」
優雅な挨拶をする御婦人。
残る4名は、カルロマン公爵が自ら紹介する。
「右から長男アルベール。次男セレスタン。三男シャルル。長女リュシール。
どうぞお顔見知りを。」
4名の男女は、名を呼ばれると優雅に挨拶をする。
見たところ、長男アルベールが20歳を少し過ぎたあたり。
一番若い三男シャルルは、10代半ばに差し掛かる頃にみえる。
だが、わざわざ妻子を連れてきたことに違和感を感じる。
リュウヤも、サクヤとアナスタシアを紹介すると、
「御子息方まで来られるとは、私も予想していなかったな。
これでは、このテラスでは手狭だ。
場所を変えようか。」
「いえ、このテラスで十分でございます、陛下。」
リュウヤの申し出に、カルロマン公爵は恐縮したように返事をする。
そして、
「私もこの別荘に宿泊するときは、このテラスからガロア湖を眺めているものですから。」
そう続ける。
「なるほど。公もこの眺望がお気に入りであったか。
私は、この眺望だけでなく、湖から吹き抜けてくる風が心地よくてな。時間があるとつい、このテラスへと足が向いてしまうのだ。」
リュウヤの言葉にカルロマン公爵は笑い、差し出された手を握る。
「アデライードからは会談と言われたが、堅苦しい話はおありですかな?」
妻子を連れてきたところを見ると、堅苦しい話をしにきたわけではないだろうことは予想できる。
「いやあ、それが私は堅苦しい話というのが苦手なもので・・・」
「そうなのですよ。夫はそういうことが大の苦手なものですから、準備の邪魔をするなと追い出されたのです。」
イルドガルドが身もふたもないことを言う。
その言葉に、アデライードが笑いを堪えているのが視線に入る。
どうやら、この夫妻の言葉に嘘はないようだ。
「ナギ、クリスティーネとマクシミリアンを呼んできてくれ。」
オスト王国の名代であるマクシミリアンにとって、イストール王国の王族と顔を繋いでおくのは将来のために必要なことだ。
しかも、このカルロマン公爵のように生き残る術を知るというのは、特に有用なはずだ。
また、カルロマン公爵家としても、今後のオスト王国内乱の動静次第ではあるが、自家がその外交の窓口となることは悪いことではない。
特に、カルロマン公爵の子息にとっては。
クリスティーネとマクシミリアン、二人が来ると公爵たちに紹介する。
そして、会談が始まる。
☆ ☆ ☆
会談には、カルロマン公爵の宣言通りに政治的な話は一切ない。
あるのは、娯楽に関しての話ばかり。
この時期のガロア湖での楽しみ方であったり、釣りをしたら何が釣れるのか等々、イストール王国の水遊びの話に、リュウヤがいた世界での湖の楽しみ方。
劇団や楽団を所有しているのとから、カルロマン公爵はリュウヤのいた世界での演劇部や楽団、その他の娯楽について質問を浴びせている。
リュウヤの方も、カルロマン公爵の質問に出来るだけ答える。
ただ、映画やらテレビ、ゲームといったものは非常に説明に困る。
かつて冥神ハーディが、自身の映像を封じた魔道具をカルミラに持たせて来たが、あれを上手く利用できれば映画に近いものができるかもしれない。
ただ、必要とされる魔力量が尋常ではないため、実用化できるかは不明である。
また、カルロマン公爵から強く求められたのは、次の雪祭りへの招待だった。
「フィリップが、やたらと面白かったと吹聴しておりましてな。
今度は、是非とも招待していただきたい。」
リュウヤは苦笑しながらも、確約する。
「それで、招待するのは公のみでよいのか?」
その言葉に、
「いえ、是非とも私たちも招待したください。
むしろ、父上は招待などしなくてもかまいません!」
「そうです!父上が道楽の道に突き進むあまりに、私たちがどれだけ苦労していることか。」
長男、次男から父親へのクレームが突きつけられる。
とはいえ、これはいつものことのようで、イルドガルドらは笑っている。
「わかった。全員に招待状を出すことにしよう。」
この言葉で会談は締めくくられた。