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龍帝記  作者: 久万聖
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のどかな午前

この日の朝食。


リュウヤはとても居心地の悪い思いをしている。


その理由は、ユーリャがジト目で睨んでいるからだ。


たまたま隣に座っているビオラに、


「なにかあったのか?」


そう尋ねると、頰を赤らめて、


「陛下が私を受けとめてくださったことを話しましたら、ずっと拗ねてしまいまして・・・」


ビオラを受けとめた?

ふと疑問に思うが、初対面の時かと思い出す。


それにしても、なぜビオラが頰を赤らめているのだろう?


「私、まだ陛下(へーか)にそういうことしてもらったことない!!」


まるで唸り声をあげる犬のようなユーリャ。


そこに、寝ぼけ(まなこ)をこすりながら、アナスタシアがカエデに伴われてやってくる。


そして、


「リュウヤ陛下、昨夜はとても失礼なことをしてしまい、申し訳ありませんでした。」


恐縮するアナスタシアに笑いかけながら、


「気にしなくていい。それよりも、よく眠れたか?」


「はい。陛下が私を運んでくださりましたので。」


顔を赤くするアナスタシアの頭を、リュウヤは優しく撫でる。


だが、アナスタシアの言葉にユーリャが反応する。


「陛下がアナを運んだの?」


「は、はい。そうカエデから聞いています。」


それを聞いて、ユーリャは絶叫する。


「むーっ!!

なんで私にはしてくれないのに、他の娘にはするのよーっ!!」


「いや、お前がそういう状況になったことがないからだろう?」


「そ・れ・で・も!!私にもしてほしいの!!」


「気が向いたら、な。」


「むーっ!!」


むくれるユーリャに、外から声がかかる。


「ユーリャ様、そろそろ準備をなさりませんと。」


ユーリャ付きの侍女のようだ。


「むー。わかった、すぐに行く。」


ユーリャは席を立ち、むすっとした顔で外に出ようとする。


「リュウヤ様。」


サクヤが小声でリュウヤに声をかける。


「ユーリャ、少し待て。」


サクヤに促されたリュウヤは、ユーリャを呼び止める。


そして自分付きの侍女のひとりに命じる。


「エルセ、例の物をユーリャに渡してくれ。」


エルセと呼ばれたエルフは、一旦退出したあと、すぐに二つの箱を持って戻り、ユーリャに手渡す。


二つの箱はそれほど大きなものではないが、とても意匠を凝らされており、その箱だけでも相当な価値のあるものだとわかる。


「開けてみてください、ユーリャ。」


サクヤが促し、ユーリャは促されるままに箱を開ける。


中から出てきたのは、ティアラと首飾り。

大地母神(イシス)の聖女にふさわしく、華美に過ぎず、かといって質素過ぎない、それでいてとても品の良さを感じさせる代物だ。


「今回、戴冠式に参加すると言い出したときに、リュウヤ様がギイに作らせたのですよ。」


サクヤの説明に、ユーリャは喜色満面の表情を見せる。


「えへへ、やっぱり陛下って私のこと大好きだよねー。」


先程までの表情はどこへやら。

飼い主にじゃれつく子犬のような表情を見せる。

もし尻尾があったら、ちぎれんばかりに振っていたに違いない。


「ユーリャ様!」


侍女の呼ぶ声に、


「すぐ行く。」


そう答える。


「さあ、行ってくるといい。」


リュウヤはユーリャの肩を軽く叩き、送り出した。






☆ ☆ ☆






「戴冠式に合わせて、大地母神神殿に届けさせる予定だったんだがなあ。」


そもそも、ティアラと首飾りを渡したからといって、それを使うとは限らない。

大地母神神殿としても、それぞれの儀式に応じた仕来りがあるわけで、またそれぞれの儀式の格式に合わせた装飾具だってある。


だから、使うかどうかの判断を神殿側にさせようと考えていたのだ。


だが、事前に渡してしまった以上、ユーリャは使用することを主張するだろう。


「大丈夫ですよ。なにせギイが製作したものなのですから。」


サクヤは、そう自信たっぷりに言い切っていた。






☆ ☆ ☆






ユーリャを見送ったとき、ティアラと首飾りを早速着用していたのを確認する。


ヴァーレに確認すると、


「これほどの代物なのですから、使わない手はありません。ましてやギイ様の作られたものとあれば、尚更のことでしょう。」


とのことである。


リュウヤはユーリャたちを送り出したあと、テラスで過ごしている。


アデライードの叔父であるカルロマン公爵より、昼過ぎに来訪するとの報せがあり、侍女はもちろん使用人たちは走り回っている。


その邪魔をしないよう、リュウヤはテラスで過ごしている。


そしてメッサリーナの指導のもと、ユニスがリュウヤたちにお茶出しをしている。


昨日よりも慣れてきてはいるのか、緊張はあれど動きに落ち着きが見られる。


「ありがとう、ユニス。」


リュウヤにしてみれば当たり前の、感謝の言葉を言うとユニスは、


「ありがとうございます!」


そう返事をする。


ユニスとアルドの姉弟は、今日から本格的に仕事を始めている。


もっとも、アルドの方は午前中は剣の練習。

昼過ぎには近隣に住んでいる友達が来るため、その相手をさせている。


そして、友達が帰ると文字の読み書きの勉強である。


ユニスの方はというと、仕事の合間に文字の読み書きの勉強をしている。


ふと視線を庭に移すと、エレオノーラたちオスト王国の王族たちはドワーフやエルフたちに見守られながら、遊んでおり、クリスティーネとマクシミリアンは戴冠式出席のマナーのおさらいをしている。


「のどかだな。」


リュウヤはそう呟く。


そんな風に過ごしていると、キュウビより報告される。


「カルロマン公爵がお着きになられました。」


と。




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