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龍帝記  作者: 久万聖
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娼館街の事件の総括とビオラ

アデライードが戻り、リュウヤがその報告を受けたのは陽がやや傾き、湖畔に設けた茶席でティータイムと洒落込んでいた時だった。


ティータイムに参加しているのは、サクラとアナスタシア。カシアにビオラ、スティールも参加している。


ビオラはこの2日ほど、リュウヤの様子を観察するかのように遠巻きにして見ていた。

近隣の子供達が遊んでいる時も、この至高神(ヴィレ)の聖女は別荘の中からリュウヤの様子を見ていた。


それが、今日は自分からティータイムへの参加を希望してきた。


なにか心境の変化でもあったのかと思うが、それを聞く前にアデライードたちが戻って来ている。


「陛下の読み通りでした。」


テーブルに着くと、アデライードはそう話し始める。


最後まで聞くと、


「なるほどな。」


と、短い感想を口にする。

読みが当たったなら、その後の展開は十分に予想できるものだし、それ以上の感想を抱きようがない。


「なあ?王様(おーさま)なんでそこまで読めたんだ?

王様のいた世界は、人身売買なんてなかったんだろ?」


ナスチャの疑問。


「人身売買というものは制度として無くても、似たような状況は作られるということだ。

借金で雁字搦めにして、縛り付けるとかな。」


他にも身内を盾にとるという手段もある。

それは子供だったり年老いた親だったり。


「どこの世界も、欲に塗れた者の考えることは同じだということだ。」


そう答えるリュウヤに、


「へえ。」


と、わかったのかわからないのか、よくわからない返事をする。


そこへお代わりのお茶を持ってきたのは、ユニス。

現段階で、なにができてなにができないのか、その確認の意味合いもあり、早速いろいろと試されているのだ。


流石に給仕をしていただけあり、緊張しながらもなかなか堂にいった動きを見せている。


リュウヤからしてみれば、なかなかの動きで及第点だと思うのだが、侍女長キュウビやメッサリーナからすると、まだまだダメなようである。


食器を置く時に立てたわずかな音。

ティーカップの取っ手の向きや置く場所。

細々とした注意を受けている。


内心、そこまで言わなくてもと思うのだが、侍女の教育はリュウヤの領域ではない。

そのため、一切の口を挟まない。

下手に口を挟めば、キュウビらの労力を否定することになり、不満を醸成する土壌を作ることになる。


世の中、全てに口を挟もうとする上司がいるが、そういう上司の下では一時的に強い組織になったとしても、すぐに弱体化する。


カリスマとも称されるワンマン創業者が率いて、業界ナンバーワンになったにも関わらず、自身の引退や衰えとともに一気に崖を転がり落ちていく。


よく見られる事例だが、その一因には口を出しすぎるあまりに部下が萎縮し、育たないというものがあるのだ。


ユニスとメッサリーナがその場を離れ、再び娼館街の一件についての話が続けられる。


「なあ、あの店の今後はどうするんだ?」


ナスチャは、リュウヤが一方的に叩き潰しただけで終わるとは思っていない。


リュウヤはキュウビに視線を送る。


リュウヤ自身は、実はそこまで考えてはいない。

考えているとすれば、それはキュウビと夢魔族たちだろう。


「はい。あの酒場に関しては、すでに手を回して私たちの拠点の一つとなることが決まっております。

今回、キキョウ様が潰した顔役の縄張りも、そっくりそのままいただきます。」


「全て計画通りというわけか。」


「少し早まりましたが。」


元々、乗っ取りを画策していたようである。


「夢魔族の方は、すでに高級娼館をひとつと中級及び下級のものをいくつか配下に収めております。」


ドルシッラは胸を張ってそう口にする。

ひとつのグループとして確保。情報収集の拠点としているのだろう。


「俺の知らぬ間に、随分と活発に動いているのだな。」


苦笑しつつも感心する。


「イストール王国だけでは無いのだろう?」


キュウビとドルシッラは明確には答えない。

二人とも微笑をもって答えている。


売春は世界最古の職業とも言われる。

だが、決して敬意を払われる存在では無い。

むしろ、敬意とは正反対の侮蔑を浴びる職業ともいえる。

そして、そういう存在相手には平気で重要機密をこぼしたりするものだ。


そういう意味において、高級から下級まで配下に収めているのは理想的とも言える。


高級娼館からは王族や貴族の情報を。

中級からは軍の士官クラス。

下級からは市井の民や一般兵士の動向から、その不満や経済状況を窺い知ることができる。


冷めかけたお茶を口にした時、ビオラがその視線を向けていることに気づく。


「退屈だったか、ビオラ?」


そう問われたビオラは首を振り、


「そんなことはありません。」


そう返事をする。


今回、ビオラを連れてきた理由。


本人の希望もあるが、それ以上に置いておくことへの不安があった。


まだ龍王国には至高神の神殿はなく、その組織も確立されていない。

そのこともあり、ビオラが龍王国にいることを公表していない。

だから、仮に奪われた場合、取り返すことが難しい。


一方のビオラはというと、リュウヤらと接していることで自分がいかに無知であったかを思い知らされている。


光の当たる部分しか知らなかったが、世の中の暗い闇の部分を知った。

逆に、闇だと思っていた部分に思わぬ光があったり、光だと思っていたところにある闇の存在を知る。


いきなりたくさんのことが頭に入り、いくらか混乱しているくらいだ。


「色々と知ることが多すぎて、困惑しているくらいです。」


ビオラは、龍王国にいるもうひとりの聖女に比べて礼儀正しい。

どんな時でも礼儀を忘れないのは、元々王族として教育を受けてきたこともあるのだろう。


「三日後の戴冠式、君はどうする?」


出席するのか欠席するのか。


彼女を守るということを考えるなら、同席させた方がいい。

リュウヤ自身が守るために動けるし、衆人環視の前で襲撃されれば、リュウヤ側は大義名分を得て襲撃者を容赦なく断罪できる。


「同席してもよろしいのですか?」


「かまわない。余分な枠は用意してもらっているからな。」


その返答に少し考え、


「参加いたします。」


そう答える。


「えぇーーっ!!その娘も参加するのー!!」


そして、リュウヤの後ろから絶叫にも似た叫びの声があがる。


「到着は明日じゃなかったのか、ユーリャ。」


そう、大地母神(イシス)の聖女、ユーリャだった。

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