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龍帝記  作者: 久万聖
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パドヴァの惨劇

 リュウヤは拍子抜けした気持ちで、歩いている。


 あれだけこちらを見下しておいて、たいした結界もなく、報告を受けているであろうにもかかわらず、迎撃も無い。


 この国の危機管理はどうなっているんだ?

 戦争相手国ながら、心配になる。


 一方のパドヴァ王国の認識は異なる。

 迎撃をしなかったのは、その必要が無いと信じていたからだ。

 王宮だけでなく、王宮を守る王城とその城壁、王都を守る城壁と三重の防御結界を張り巡らしている。その結界は、この100年は敵の侵入を許していない。

 それなのに、こんなにも簡単に防御結界を突破してくるなど、想定の外でしか無い。



「リュウヤ様。あの人間が集まっている辺りに、この国の王がいるのではないでしょうか?」


 バルコニーのようなものを指差している。


「そうだな。あそこに居なかったとしても、誰かが知っているだろうな。」


 オボロたちは猛然と駆け出す。

 リュウヤのもとにはサギリのみが残っている。


「張り切り過ぎだろう。」


 苦笑するしかない。必要かと言われれば不要だが、それでも主の護衛を考えずに突入するというのは、やりすぎだろう。


 バルコニーから飛び降りて逃げる度胸がある者は、どうやら居ないらしい。上空からシヴァが睨みを効かせているということもあるだろうが。


 オボロたちの働きもめざましく、あっさりと一階、バルコニーのある二階を制圧したと、念話を使い報告が入る。王宮を守るはずの衛士らが、シヴァの姿を見て戦意喪失していたこともあるようだ。



「さあ、どう始末をつけるつもりだ?」


 悠然と、自分たちの前に現れたリュウヤという男が発した第一声だ。

 そして、苦悶の表情を浮かべるアガーノが、パドヴァ王国の国王や廷臣らの前に投げ捨てられる。


 アガーノは顎が砕かれ、言葉を発することが出来ず、ただ苦悶の表情を浮かべるのみ。ただ、その視線は国王や筆頭宮廷魔術師になにかを訴えている。が、ただ一瞥をくれるだけで、誰もその視線に取り合おうとはしない。


 どう始末をつけるか、誰も口に出せずにいると、リュウヤとかいう男は、事もあろうにパドヴァ王国の国王のみが座ることを許された玉座に座る。


「どう始末をつけるのだ?」


 傲然と、言葉を繰り返す。


「貴様!そこはパドヴァ王国国王のみが座る、神聖なる玉座だぞ!」


 激昂した衛士長が斬りかかる。この王宮において、武器の携行を許されるのは衛士のみ。王宮を守る最後の盾である衛士は、当然だが一流の戦士揃いであり、衛士長はその中でも技量に秀でたものだ。


 その衛士長への期待も、一瞬にして潰える。あの男の脇に控えていた龍人族の女戦士に、横薙ぎに一刀されたのだ。


「下郎が!」


 吐き捨てるように言う。


「リュウヤ陛下の御下問に答えよ!」


 衛士長を一刀のもとに斬殺した女戦士が、パドヴァ王国の者たちに詰め寄る。


「我は、リュウヤ陛下ほど気が長くはない!!」



 サギリのその場を圧した行動と、パドヴァ側の沈黙。


 パドヴァ側の沈黙は、ただの時間稼ぎでしかない。この王宮という建物の外観と、二階の大広間に感じる違和感。外観から想定される広さと、この大広間の広さにズレがある。そのズレがなにによるものか、リュウヤは感じ取っている。


 日本の武家屋敷にみられる武者隠し。それと同じようなものがある。ただし、中に入っているのは魔術師だろう。


 それらの人の気配と、魔力の高まりによって感じ取る。おそらくは、魔力感知を阻害する結界なりが張ってあるのだろうが、数人の魔力が一度に高まれば、完全に阻害できるものではない。


 オボロたちに目配せをすると、彼女らはリュウヤの脇に控える。


 その数瞬後、大広間を魔力が覆う。凄まじい高熱を発して、大広間の床を覆っていた絨毯が燃え上がる。先程斬りかかってきた男の身体が、すぐに燃えあがり、灰となる。同様に、国王らの面前に転がっていたアガーノも、高熱に耐えきることなく灰となる。


 リュウヤがこの場に来てから、バルコニーから誰も入って来ないのだ。唯一の例外があの斬りかかってきた男。なにかある、そう思わないほうがおかしい。そこにあの魔力の高まり。


 あからさま過ぎるだろうと思う。


 リュウヤが右手をあげ、開いていた手を閉じる。

 それだけで発動されていた魔力は消え去る。



 ここで、はじめてパドヴァ側は驚愕の表情をみせる。


「お前たちの返答はわかった。」


 その言葉は、まさしく死の宣告に聞こえた。


 リュウヤという男の前に、無数の小さな光球が現れ、一斉に飛ぶ。この場にいる、魔力を扱える全てのパドヴァ王国の者たちに当たり、小さな衝撃と軽い痛みを与える。

 報告のために来ていた、あの森の惨劇を目にしていた兵士たちは、絶望の悲鳴をあげる。


「俺は寛容だからな。命までは取らぬよ。」


 あの時と全く同じ台詞。


「この化け物め!」


 魔力を発動させ、リュウヤたちを攻撃しようとする。先程まで武者隠しに潜んでいた者、筆頭宮廷魔術師とその配下の魔術師たち。国王と王妃、廷臣たち。

 この場にいる、魔法を使える者たちが一斉に呪文を詠唱する。その姿に絶望する兵士。



 パドヴァの王宮は惨劇の場と成り果てた。


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