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龍帝記  作者: 久万聖
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行動範囲

リュウヤとサクヤ、アデライード。そしてフィリップとジュディトは、やや奥に入った、それでいて全体の様子が見渡せる場所に設置されたテーブルを囲んでいる。


アナスタシアは、オスト王国の王子王女や近隣の子供達との交流に励んでいる。


「まったく、常識外れもいいところだぞ、お前の行動は。」


フィリップは呆れた顔でリュウヤを見ている。


「俺のいた世界では、王室の人間の訪問先では、よくこういった交流があるからな。」


交流が行事として組み込まれていることはあるが、今回のリュウヤのようにノーチェックで行うことはありえない。


「それは、いいことではあるのだろうな。」


フィリップが毒づくが、これはもしものことを考えての言葉だ。


もし、暗殺者などが潜り込んでいたら?


とんでもない外交問題になる。


「お前を殺せる者がいるとは思えんが、もう少し自重してほしいものだ。」


これは完全に本心からの言葉だ。


警備上の問題もあれば、他国に対しての問題もある。


今回のことを市井の者たちが知れば、間違いなく龍王国(シヴァ)の王様は気さくな飾らない人物だと、そう評判になるだろう。


その一方で、従来通りの対応をする他国の者たちへの評判はどうなるだろうか?


「お高くとまってる。」


そんな評判になるに違いない。


「俺としては、少し先の将来を見据えているだけなのだがな。」


リュウヤとしては、子供達に良い印象を植え付けることで、友好関係のより長い継続へと繋げたい。


「他の奴が言っていたなら、一笑に付すのだがな。」


フィリップは、リュウヤが龍王国でどのように配下となっている種族の者たちと接しているか、それを知っているだけに笑うことはできない。


「お前の理想通りになるのに、どれだけの時間を見ているのだ?」


フィリップの問いかけに、


「ざっと1,000年、だな。」


そう答える。


その時間の長さにフィリップは驚く。


「100年、それくらいだと思っていたのだがな。」


「100年では短過ぎる。」


そう、リュウヤのいた世界でさえ100年では差別は無くなっていない。


例えばアメリカ。


リンカーンの奴隷解放宣言からみるならば、1862年9月22日よりはじまって、150年強。いまだに人種差別は無くなっておらず、むしろ人種差別による犯罪がニュースになるほどだ。


アメリカ以外の国ではどうだろうか?


第一次世界大戦、パリ講和会議で日本が人種差別撤廃を訴えたのは1919年だ。

この時、フランスの高級紙ル・モンドは「日本の提案が、今後の世界の普遍的な価値観となるだろう」という記事を載せたものの、人種差別は無くなってはいない。


むしろ、人種差別から民族差別へと姿を変えているようにさえ見える。


人間という同族でさえこれなのだ。


ならば、種族そのものの違いを超えるのに、1000年という時間を見るのも不思議ではないだろう。


「1000年でも足りないかも知れないな。」


リュウヤは子供達のいる方に視線を向け、そう呟く。


その視線の先では、ドワーフとともになにやら作っていたり、エルフたちとともに庭の草花を見ている。


中には、鬼人(オーガ)を相手にチャンバラをしているものまでいる。


「大丈夫なのか、あれは?」


流石に鬼人相手にチャンバラをしているのを見て、フィリップが心配そうに言う。


「大丈夫だ。サクラとキキョウが手にしているのは、木の皮を貼り合わせた訓練用のものだ。

軽い打ち身くらいはするかもしれないがな。」


竹があれば、それで竹刀を作成したところだが、木の皮で代用したのだ。


「それに、ふたりに打ち掛かっているのは、騎士になりたいと言っていた者たちだ。

多少の傷は、本人たちも承知だろう。」


リュウヤの言葉に、


「接した時間は短いのに、よくそこまで聞き出したものだな。」


そう感心する。


「子供達同士の会話を聞いていれば、すぐにわかるさ。」


それでも、顔と名前、そしてその発言の主とを短時間で一致させるのは難しいだろう。


「やっぱり、お前は上に立つべき存在だよ。」


フィリップはそう口にした。






☆ ☆ ☆






日が傾いたとはいえ、まだ明るい時間に子供達はその母親たちと帰っていく。


夕食の準備の手伝いということもあるのだろう。


リュウヤは、自身の子供時代よりも早い帰宅に、そう結論づける。


そして、リュウヤとフィリップはようやく本題に入る。


本題とは、龍王国の者たちの行動範囲の協議。


前日、ジゼルがリュウヤから問われたのを、フィリップが説明に来たのが本来の目的なのだ。


だから、協議といってもリュウヤがするのは、フィリップの説明の疑問点を指摘して、さらなる説明を受けるものとなる。


実際、大きな疑問点や問題点はなく、順調に進む。


別荘のある側の、ガロア湖周辺は自由に行動して良いこととなる。


問題は、市街地に入ることだ。


フィリップの提案は、最大5人までのグループでの行動。

そのグループに、イストール王国側から案内役という名の監視役がふたりつけられる。


それにリュウヤがひとつだけ疑義を呈した。


「子供達も、大人同様の数え方をするのか?」


ということだ。


思いもしなかった疑義にフィリップは沈黙したが、代わりにジュディトが提案する。


「一グループに5人までの同行。それでどうでしょうか?」


リュウヤはその提案を受け入れる。


そして最後に、フィリップから不要不急の市街地への移動は避けてほしいと、要請される。


警備上の問題もあると言われ、リュウヤは受け入れた。


伝えるべきことを伝え終えると、フィリップらは王宮へと戻っていく。


「夕食は食べていかないのか?」


というリュウヤに対し、


「戴冠式が終わるまでは、色々とやらなければならないことがある。

終わったら、遠慮なく御馳走してもらうよ。」


そう笑っていた。

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