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龍帝記  作者: 久万聖
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ガロアの夜

夜。


リュウヤは私室を出ると、子供たちの様子を見るために見回りをする。


今回、オスト王国王太子ジギスムントは国内の混乱を纏めなければならず、戴冠式に出席できない。

その名代として、第四王子であるマクシミリアンが指名されたのだ。


ただ、そのマクシミリアンにも問題がある。

それは、彼は龍王国(シヴァ)への人質として送られた存在だということだ。


クリスティーネから相談を受けたリュウヤは、即座に駐在しているイストール王国公使を通じて、マクシミリアンの出席の是非を確認した。


その結果、ウリエ王子の名で「可」との返事が届いたため、一緒に連れてきている。


ただ、その際にエレオノーラが、


「マクシミリアンが行くなら、私も行く!」


と、駄々をこねてしまい、結局エレオノーラも連れて来ることに。


さらにその余波は続き、オスト王国から疎開している王子王女たちも一緒に行きたいと、そう主張されてしまった。


結果、5歳以下は参加不可としたものの、それでも15名の子供たちを連れて来ることになってしまったのだ。


そして、その面倒を見るための侍女も多数、引き連れている。


なので、本来ならその見回りも侍女たちの仕事のひとつなのだが、自分で見て回らないと気が済まない。


この辺りは、第一次大戦後のシベリア残留ポーランド人孤児(注)を送り届けた、船長の行いに倣っているともいえる。


この時の船長は、自ら孤児たちの様子を見て回り、熱がないかと額に触れて確認したり、毛布をかけ直したりしていたという。


「あの船長ほど立派なものではないが、それに倣うことは悪いことではあるまい。」


くらいの意識でしかないが、やらないよりもやった方がいい。

この子供たちが帰国したら、少しは龍王国に友好的な姿勢を示してくれたら嬉しいものだ。


そんなことを考えながら歩いていると、まるでリュウヤを待っていたかのような人影がふたつ見える。


「お待ちしておりました、陛下。」


サクヤとクリスティーネだった。


「陛下のことですから、見回りをされると思っておりました。」


ふたりの言葉に、リュウヤは苦笑する。


「サクヤはともかく、クリスまでいるとは。」


そう口にするリュウヤに、


「陛下が、私の弟妹たちが龍王国に来た時にも見回られていたことを、知っていますよ。」


「見られていたか。」


リュウヤは頭をかく。


「そんなことよりも、見回りに行きましょう。」


サクヤに促され、3人は歩き出す。






☆ ☆ ☆






いくつかの部屋を廻り、最後に見て廻るのはエレオノーラの部屋。


龍王国に来た当初は、お淑やかな王女様だったのだが、今では御転婆王女にクラスチェンジしている。


そして、それは昼間だけのことではなく夜もそうであるようだった。


「もう、ノーラったら。」


姉のクリスティーネが呆れたように、ベッドの上の妹を見ている。


ベッドから落ちていないことが不思議に思える、凄まじい行動っぷりを、エレオノーラは見せていた。


そのエレオノーラの姿勢を、サクヤは優しく整える。

そして、リュウヤが布団をかけ直すと、エレオノーラの目がぱちっと開く。


開きはするものの、まだ寝ぼけ(まなこ)なのか、焦点がイマイチ合っていないように見える。

だが、それも少しすると焦点が合い始め、布団をかけ直そうとしているリュウヤと目が合う。


「きゃっ!!リュ、リュウヤ様!!」


顔を真っ赤にしたエレオノーラが、リュウヤから布団をひったくるように奪うと、頭からすっぽりと被ってしまう。


「こらっ!ノーラ!リュウヤ陛下に失礼でしょう。」


クリスティーネが窘めるが、エレオノーラはすっぽりと被ったまま出てこない。


その様子に、なおも言い募ろうとするクリスティーネを止め、


「どうかしたのですか、ノーラ?」


サクヤが優しく問いかける。


すると、エレオノーラは目元まで顔を見せ、


「夢を見ていました。」


そう答える。


「どんな夢でした?楽しい夢でしたか?」


「はい。とても楽しい夢でした。リュウヤ様とサクヤ様、クリス姉様と一緒に遊んでいる夢でした。」


サクヤはエレオノーラの頭を優しく撫でながら、


「そう。楽しい夢だったのですね。」


そう微笑みかける。


「はい!それで目を覚ましたら、目の前にリュウヤ様がいらして・・・」


驚きと恥ずかしさで混乱してしまったらしい。


「そうか。楽しい夢を覚ましてしまったようだな。」


リュウヤはエレオノーラの頭を優しく撫で、


「だが、まだまだ夜は長い。より楽しい夢が見られるさ。」


そう言うと、入眠を促す。


「リュウヤ様、ノーラが眠れるまで手を握っていてくれませんか?」


「ノーラ、わがままを・・・」


言ってはいけません、クリスティーネはそう言おうとして当のリュウヤに止められる。


「かまわない。それでノーラが眠れるならね。」


リュウヤは優しくエレオノーラの手を握った。






☆ ☆ ☆






エレオノーラが眠ったのは、10分ほどしてからのこと。


起こさないよう、3人は静かに部屋を出る。


「申し訳ありません、陛下。ノーラがわがままを・・・」


妹のわがままを謝罪するクリスティーネに、


「偶のことだ。気にするな。」


そう言う。


そして、


「ドルシッラ、今日はどんな夢を見せたのだ?

いや、メッサリーナもいるか。」


リュウヤの言葉に、夜の闇から切り取られたかのように姿を現わす、ふたりの夢魔。


「気づかれているとは思っていましたが、ズバリと言われてしまうと自信を無くしてしまいますわ。」


気配を消し、夜の闇に紛れて近づくのは夢魔族の得意技。

なのだが、リュウヤにはそれが通じない。


先程も、幻術まで駆使していたのに、あっさりと見破られてしまった。


「できますれば、どうやって私たちに気づかれたのか、その方法を教えていただきたいものです。」


ドルシッラとメッサリーナは、リュウヤにそう愚痴をこぼす。


「それは、今度教えるとしよう。

それで、どんな夢を見せたのだ?」


リュウヤの疑問に、ドルシッラが答える。


「エレオノーラ様が仰られていたように、四人で遊んでいる夢です。」


「なるほど。そして、今はどんな夢を見せている?」


今度はメッサリーナが、


「エレオノーラ様が最近、最も楽しまれたことを夢にしております。」


「最近、楽しんだこと?」


「ガロアまでの道中、陛下とともに馬に乗って早駆けをしたことです。」


道中、暇のできた時に、エガリテ翁に贈られた名馬「雪風」に跨り、少し早駆けをしたことがある。

当然、ふたりきりということはない。


「陛下と一緒に、雪風に乗ることができたのがとても楽しかったようです。」


「そうか、わかった。

変な夢を見せていないことが確認できて、安心したよ。」


変な夢。


「陛下がお望みならば、そういう夢をお見せしておきましょうか?」


「俺は望んでいないよだがな。」


ドルシッラの申し出を、リュウヤは即座に却下したのだった。

注)シベリア残留ポーランド人孤児


第一次大戦当時、ポーランドを領有していた帝政ロシアは、ポーランド人の反乱を恐れて、反乱分子となりそうなポーランド人をシベリアに送り込んだ。


その後、ロシア革命の混乱に際して、せめて子供たちだけでも帰国させたいというビエルキエヴィッチ女史の願いを受け、日本政府が孤児たちの受け入れを行う。


日本で療養した後、765名の孤児をポーランドへと送り出しました。


この時、腸チフスに罹患していた子供の世話をしていた、若い看護師が亡くなっています(子供は助かっています)。




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