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龍帝記  作者: 久万聖
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王都ガロア

イストール王国王都ガロア。


リュウヤがこの地に来るのは三度目。


一度目は、当時の国王ラムジー四世を縛り上げ、送り届けにシヴァとトモエ、シズカとともに来た。


リュウヤの認識としてはこうなのだが、ウリエやフィリップにしてみれば、強襲されたという認識であろう。


そして二度目はお忍びで。


アルテアと鬼人(オーガ)のサクラとともに、こっそりと。

先の戦いで知己を得たデュラスへ、出産祝いを届けたり適当に散策していた。


無論、これもリュウヤの認識であり、相手であるウリエやフィリップにしてみれば、最重要危険人物がそこら中をほっつき歩くという、危険極まりない事態である。


そして三度目の今回。


正式な行事への参加とあって、出迎えが現れる。


王都ガロアへの侵入を防ぐ城門前にて、デュラスとジゼルの親子が待っていた。


龍王国(シヴァ)国王、リュウヤ陛下の一団とお見受けいたします。」


これは形式的な確認である。


各国使節の先頭に掲げられる紋章旗などでわかるし、こういう時には当然ながら相手国のことを知る者が充てられるものだ。


一方で今回の使節団の総指揮を執るスティールも、


「いかにも。我らは龍王国国王、リュウヤ陛下の使節である。出迎えに感謝する。」


定められた口上を述べる。


そして、スティールの案内でデュラスはリュウヤが乗る馬車までやって来る。


そしていくつかのやり取りをする。


元々、顔見知りでもあり、和やかにやり取りは進む。


それが一変したのは、滞在先となるエガリテ翁の別荘に向かうルートについての説明を受けた時だ。


通常であれば、各国の使節は王都の道を堂々と進みむ。


それは王都の民衆へのアピールでもある。


堂々と進むことで、自国の国威を示すのだ。


だが、龍王国の使節団に示されたルートは、城外の街道を通り、滞在先となるエガリテ翁の別荘に向かうというものだった。


「それは、殿下のお考えか?」


スティールが怒りを抑えるように、そう確認する。


「否!」


デュラスは言葉を強くして、返答する。


「デュラス男爵の指示に従え、スティール。」


返答を聞き、リュウヤがそう命じる。


スティールも不満はあるが、デュラスの言葉である程度のことを察する。


貴族たちの反対と、自分たちの使節の種族構成も問題があるということだ。


龍王国の使節は、デュラス男爵の先導でエガリテ翁の別荘に向かうことになった。






☆ ☆ ☆






エガリテ翁の別荘に着くと、デュラスはジゼルを連絡役として残し、自身は報告のため王宮へと戻っていく。


「エガリテ商会というのは、今更の感想だが巨大な商会なのだな。」


リュウヤは別荘に用意された自室にて、サクヤやアデライードらと茶を飲みながら感嘆の声をあげる。


使節団150名を収容しても、なお余るだけの室数を持つなど、ただの商会にできるわけもない。


「この別荘は、王族相手の接待に使われていました。

そのため、それ相応の格式を持ったものとなっております。」


アデライードの説明。


アデライードの話によれば、彼女の母が先々代の王ラテール五世に見初められたのも、この別荘だったのだという。


そのことを話す口調が、かなり自嘲めいたものであるのは、なにか思うところがあるのだろう。


「それにしても、エガリテ翁には感謝しないとな。」


なにせ別荘だけでなく、相当数のスタッフも用意してくれているのだ。


「感謝など必要ないと存じます。なにせ、砂糖の専売を陛下より認められたのですから。

それだけで、十分過ぎる利益は得ておりますわ。」


そう、エルフたちの尽力で、甘蕪なるものから砂糖を精製する技術が確立され、それを周辺諸国に販売する権利をエガリテ商会が得たのだ。


ちなみに、オスト王国より南の国々はキティノフ商会が販売を担当する。


砂糖という輸出品を得たことで、龍王国は経済的にかなり潤うことができるようになるのだ。


リュウヤはテラスへと歩き、そこから見える眺望を楽しむ。


「見事なものだ。龍王国の湖の眺望とは、趣を異にして良い眺めだ。」


リュウヤの記憶にある日本の湖の眺望では、諏訪湖サービスエリアから望む諏訪湖の情景が似ているだろうか。


穏やかな湖面が陽光に美しく映えている。


「オスカル・シーレも連れてくるべきだったかな。」


自身が援助をしている、若い画家の名前をだす。


「あの、彼ですか。」


アデライードは、あまりいい印象を持っていないようである。


「肖像画を描かせてほしいというので、モデルになったらとんでもない絵を描かれました。」


と、アデライードは愚痴をこぼす。


「まあ、彼のセンスは独特だからな。」


フォローにもならないフォローを、リュウヤはする。


「別荘に着いたということは、静かな日々は長くてあと3日だな。」


その言葉にサクヤが苦笑する。


それは、大地母神(イシス)の聖女ユーリャが今回の戴冠式への参加を表明してしまったからだ。


天真爛漫な聖女様は、自身の価値というものに無頓着である。


大地母神の聖女が参列するとなれば、他の神々の神殿も相応の者を参列させなければならない。


慌てた各神殿は、参列させる人選を再調整が図られることになった。


その原因を作った聖女サマは、当然のようにリュウヤの滞在先であるエガリテ翁の別荘に来るつもりでいる。


本人に自覚はないものの、聖女派とも呼ぶべき派閥を立ち上げたため、このガロアに存在する大地母神神殿に滞在することができないということもある。


やむを得ないといえば、やむを得ない処置ではあるのだが、静かな日々の終焉は惜しいものがある。


「陛下、夕食の準備が整いました。」


そう扉の向こうから、キュウビの声がかかる。


「わかった。すぐに向かう。」


リュウヤはサクヤとアデライードを伴い、夕食会場へと歩き出した。


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