愚者の評定
グィードらは必死に本国に向かった。
着ていた鎧を脱ぎ捨て、必要最低限の食料を持つ。
少しでも軽くする事で馬への負担を減らす。
ただ一人だけでいい。少しでも早く伝えなければならない。アガーノの失態と、なによりも絶対に敵対してはならないのだと。
その上空を飛ぶシヴァ。
その背にはリュウヤほか龍人族6名と、忘れ物ことパドヴァ王国次席宮廷魔術師アガーノ。
"我を扱き使うとは!"
シヴァの愚痴を
"行きだけだ。帰りは馬でも奪ってくから"
と返す。
当初はオボロ班5名のみを連れて行くつもりだったのだが、サギリがどうしてもと聞かず、連れて行くことになった。
トール族に入れ込み過ぎている、そう感じる。悪いことだとは思わぬが、判断を誤る可能性がある。そこは留意する必要がある。
地上のパドヴァの一団は、すでに集団になっていない。ばらばらになっており、とにかく一人でもいいから本国に到着させたい、そんな意思がみえる。
自分があの団長の立場なら、同じように考えるだろう。
パドヴァ王国。
王宮内は騒然としていた。
運良く先行して逃げることができた者たちが帰着したのだ。
アガーノの傲慢さが、戦争状態を作り上げたこと。
アガーノの魔術が効かなかったこと。
パドヴァ王国が開発した呪紋をあっさりと複製され、また改編されたこと。
その術式により、魔術師数人が狂戦士化したこと。
それらが報告される
最も騒然とさせたのは、パドヴァ王国の魔術師たちが開発した呪紋をあっさりと複製、改編されたことだった。
リュウヤがそれを知れば"呑気なものだ"と笑ったことだろう。そして、グィードが知れば絶望したに違いない。危機を危機として認識できない、その鈍感さに。
王宮では呪紋を改編されたことへの非難が噴出する。
「簡単に解呪、改編されるようなものではない、そういっていたのはデタラメだったのか!?」
「しかも、相手に使われるとはどういうことか!」
魔術師優遇に対する、潜在的な不満。それがここぞとばかりに噴出する。
報告した兵士たちは、唖然としている。
あの恐るべき龍人族と戦争状態になってしまっているのだ。それなのに、呪紋の責任追及などとは・・・。
こんな奴らのためになど死にたくはない。
兵士たちは互いに顔を見合わせると、頷きあう。形振りなどかまっていられない。逃げるしかない。
そう考え、実行に移そうとした時、凄まじい轟音が聞こえる。
皆、一斉に何が起きたのかを確認するべく、外を見る。
そこにあったはずの王宮の門が、跡形もなく崩壊している。
そこに咆哮が聞こえる。もちろん、始源の龍シヴァのものだ。悠然と空を翔ける姿を見て、はじめてパドヴァ王国の者たちは戦慄した。
兵士たちは発見する。崩壊した門があげる砂埃の中から現れる、あの存在を。