表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
368/463

事後処理 オスマル帝国

龍王国(シヴァ)とオスマル帝国の会談は、バニパルが撤退先と想定した都市ファサで行われる。


オスマル帝国の、西方統治の要であるカルラエよりは規模が小さいが、それでも小国であれば王都と呼ばれてもおかしくはない、大規模な都市である。


そのファサの中央にある庁舎にて、和睦へ向けた交渉が始められる。


龍王国からの参加者は、軍総指揮官エストレイシアと龍人族からホダカ。翼人族からは族長補佐マリレナ。

マリレナと一緒に合流した、フェミリンス、ミーティア、イルマタル。

ファーロウは先に本隊に合流して、その後にリュウヤへの報告のために先行する。


さらにビンツア、パルメラ両王国の代表者が参加している。


オスマル帝国側の参加者は、皇帝アルダシール7世の宿老中の宿老スライマーンを代表者とし、その補佐として文官アミールと、武官ガザン。

その他の官僚が10名ほどが参加している。


会談は、まずスライマーンの挨拶より始まる。


「オスマル帝国全権代表を務める、スライマーンと申します。」


マリレナの表情が一瞬変わり、ビンツア・パルメラ両王国の代表はどよめく。


このどよめきには、ふたつの意味がある。

ひとつはアルダシール7世の、宿老中の宿老が出てきたこと。

そしてもうひとつは、スライマーンが全権代表として来ていることを知ったこと。


全権ということは、皇帝の代理人だということ。

そしてそれは、自分たちとの格の違いを明確に表している。


「私はエストレイシア。この度の軍の全権を委ねられている。」


エストレイシアはそう名乗り、スライマーンと握手を交わす。

握手を交わしながら、スライマーンが尋ねる。


「それは、此度の件においても全権を持っていると、そう解釈してもよろしいのですかな?」


「当然です。委任状も持ってきておりますが、ご確認なされますか?」


「是非とも、拝見させていただきたい。」


隣のホダカから書類を受け取り、スライマーンに渡す。


受け取った書類を一読したあと、今度はその手触りを確認している。

その確認が終わると書類を返しながら、


「失礼ですが、これはなんというものに書かれているのですかな?」


「これは紙というものです。製法を明かすことはできませんが、御入用であればそちらに卸すことはできます。」


ホダカが答える。


「なるほど。では話がまとまったら、そちらの商談もしたいものですな。」


そう言ってスライマーンは笑う。


この言葉にビンツア・パルメラ両王国の代表は頭を抱える。

スライマーンは確実に、最低でも大枠を定めにかかっている。

そして、それは全権を委任された者がいる龍王国も、同様の考えをしているということ。

自分たちはあまりにも準備が足りなさすぎる。


オスマル帝国と龍王国、翼人族の間の交渉は順調すぎるほど順調に進む。

両王国が口を挟むことができないほどに。


まずは翼人族との間の交渉。


北方の都市エレバノとその周辺の住民、今回の戦いで翼人族に与した者の罪は問わないこと。


シャフルバラースに関しては、太守を解任すると同時に斬罪に処すこと。

また、その在任期間にされた増税分の返還とともに、税率を元に戻し、なおかつ勝手に増やした税の廃止。


そして、地下水路(カレーズ)の所有権は翼人族にあると、正式に決定される。


翼人族にしてみれば今更なことなのだが、その所有権が確定していなかったから起きたのが、今回の紛争なのだ。


所有権の確定は、今後のこの地域の安定に寄与するだろう。


さらに翼人族へは、多額の賠償金が支払われる。


当初は、エレバノ周辺を割譲しようという提案もあったのだが、それはマリレナが拒絶する。

翼人族の根拠地であるアララト山脈から遠く、統治することが面倒だというのが理由である。


その代わりというほどのものではないが、エレバノとの交易に際して関税が撤廃される。


そして、今回の本題ともいえる龍王国とオスマル帝国の交渉。


スライマーンが最初に求めたのは、ビンツア・パルメラ両王国に降嫁した皇女とその子供たちの引き渡し。


それに対してエストレイシアは快諾する。


国境を接しているわけでもないため、人質として確保する理由がないこともあるが、それ以上に不要な火種を抱えたくないというのが本音である。


このエストレイシアの態度に慌てたのが、両王国代表たち。


彼らにしてみれば皇女らを盾にして、オスマル帝国から最大限に譲歩を引き出したかったのだ。


エストレイシアらには、彼らの腹の中が読めているのだが、そんなに火種を抱えたいのかと呆れてしまう。


下手に欲をかけば、オスマル帝国の攻撃を招きかねないことが、彼らにはわからないのだろうか?


もしそうなったら、龍王国としても援軍を送るのは難しい。

なにせ原因が、両王国の欲深さにあるのだから。


オスマル帝国と龍王国の交渉は、実にトントン拍子に進む。


龍王国にとって東方、オスマル帝国からみれば西方の小国家群を、緩衝地帯地帯としておきたいのは両国とも共通認識としている。


オスマル帝国側にとっての懸案であった、皇女とその子供たちが無事に引き渡されるなら、次の懸案は降伏したオスマル帝国軍将兵だ。


バニパル将軍をはじめとする高級指揮官及び中級指揮官は、帝国が身代金を払い、それにより解放される。

これは、あくまでも立替払いということだろう。


そして下級士官と一般兵士は、本人たちが身代金を払うことになる。

これは事実上、そちらに連れて帰ってかまわないということである。


この捕虜の配分は、龍王国が半数を。ビンツア・パルメラ両王国が残りを分け合うことになった。


また、オスマル帝国は龍王国に多額の賠償金を支払うことが定められる。


そして龍王国からの要請。


竜女族(ヴィーヴル)の統一戦争に敗れたケーサカンバリン氏族の、通行許可。


これはスライマーンも初耳だったため、即答は避けられるが、決して無碍に扱うことはしないと確約を得た。


それ以外に定められたのは、互いに使節を派遣することが決まり、まずはオスマル帝国より夏に派遣されること。


その返礼使節が翌年に、龍王国から派遣される。


これにより、龍王国及び翼人族とオスマル帝国の交渉は、ひとまず終了する。


もうひとつ、飛竜(ワイバーン)に関してのものがあるが、それに対しては龍王国、翼人族ともに議題にあげなかった。


そのことを疑問に思ったスライマーンが、確認のため尋ねるが、


龍王国(わがくに)にとって脅威ではないし、翼人族にも対応策は伝授してある。」


と、あっさり返答される。


帝都に送りつけられた飛竜の死体を思い出し、スライマーンは大きく頷く。


交渉が成立するとすぐに文書が作成され、エストレイシアとスライマーンが署名する。


これにより和睦は成立する。


ただし、ビンツア・パルメラ両王国はこれからが大変である。


龍王国が後ろ盾となるとはいえ、直接国境を接していない。

ゆえに、オスマル帝国との交渉は、ほぼ独力で行わなければならない。


そして、その相手はこのスライマーンが担当する可能性が高い。


この、好々爺とした宿老を相手にしなければならないとなると、相当な準備と苦労をすることになりそうだ。


ビンツア・パルメラ両王国の代表は、代表権を得ていなかったことを後悔していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ