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龍帝記  作者: 久万聖
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事後処理 竜女族の場合

竜女族(ヴィーヴル)の会談は、チャールヴァーカ氏族族長サーヒヴァの天幕の中で行われる。


サーヒヴァの側には側近らしい者が2名と、同盟者である部族の代表者達が5名。


ケーサカンバリン氏族、ルカイヤの側には側近はおらず、同盟者である部族の代表が3名。


仲介者として名乗りを上げた龍人族からは、言い出しっぺのトモエとシズク。

そして翼人族からアルテミシアが参加する。


トモエとしては、シズカに丸投げしたかったのだが、


「言い出した者がやるべき。」


と、にべもなく拒絶されたのだ。

それでも、トモエ一人にするのは躊躇われたようで、シズクとアルテミシアを補佐として送り込んでいる。


そして、天幕に入らなかった者たちのうち、カスミと夢魔族の二人は、リュウヤへの報告のため一時帰国する。

その途中、氷づけのムシュマッへを海に投棄することになっている。


残る者たちは、会談を行なっている天幕の周囲100メートル以内に誰も入れないように、シズカの指揮のもとに警備を行なっている。


流石に、絶大な戦闘力を見せられた後だけに表立って文句を言われることはない。


だが、まさに完勝目前だったものを閉ざされた、チャールヴァーカ氏族とその同盟部族の者たちからは、憎しみのこもった視線を向けられる。


ただ、龍人族に向けられる視線には、憎しみ以外にも嫉妬も込められている。

龍人族の女性のその美しさに対して。


特に、その嫉妬のこもった視線を受けているのはシズカだ。


その凛とした美しさは、見るものを圧倒する。


美形揃いの龍人族にあって、シズカの美貌は上位に挙げられる。

見るものによっては、最上位に。


ただ、シズカは自分から口を開くことはほとんどなく、その美しすぎるがために近寄り難い存在と見做されている。


そして、その近寄り難さはこの場でも変わることはない。


そのシズカに、ひとりの竜女族の少女が声をかけてくる。


「あ、あの、シズカ様。」


振り返ったシズカの視界に入ってきたのは、左肩に包帯を巻いた姿が痛々しい、ウッザマーニだ。


「貴女は、たしかウッザマーニという名だったかな。」


「はい!ウッザマーニです。」


「なにかあったのか?」


「いえ、そういうわけではないのですが・・・」


シズカはウッザマーニの表情を観察する。


「不安ですか?」


「・・・・・・はい。」


それも仕方がないだろう。

戦いに敗れたのだから。


自分たちにしても、リュウヤが始源の龍を復活させるまでは、人間族をはじめとする他種族の襲撃に怯える日々だったのだ。


シズカは柔らかな笑みを浮かべて、ウッザマーニに優しく語りかける。


「私が言っても説得力はないかもしれない。だけど、安心してほしい。

私たちは貴女たちを悪いようにはしない。

それだけは確約できる。」


その言葉に、ウッザマーニはホッとした表情を見せる。


ただ、そのためにはシズクとアルテミシアに頑張ってもらわないといけないのだが。


シズカは会談の最中(さなか)の天幕を一瞥(いちべつ)する。


チャールヴァーカ氏族族長サーヒヴァには、すでに提案はしてある。


紛糾するとしたら、その側近たちと同盟部族だろう。


そう考えながらウッザマーニへと視線を戻し、


「肩の怪我というのは、安静にしておかないと非常に治りが悪いそうだ。

だから、大人しくしているといい。」


そう諭す。


その言葉に大人しく従い、ウッザマーニは自分たちの天幕へと戻ろうとする。


「ウッザマーニ殿。こちらで休むといい。」


そうシズカが声をかける。


ウッザマーニが戻ろうとした天幕の周囲を、敵対していたチャールヴァーカ氏族のものが囲んでいる。


そんなところでは気が休まらないだろうと、自分たちの使う天幕へと案内する。


そしてシズカは、会談が行われている天幕を一瞥する。


ただ、波乱なく進めばいいと思いながら。






☆ ☆ ☆






会談はシズカの予想とは違い、平穏に進む。


これは、最大の懸案に関してすでにトモエが方針を明らかにしていたことが大きい。


その提案を聞いた時、ルカイヤらは驚いて互いの顔を見合わせた。


この地にとどまれば、間違いなく肩身の狭い暮らしをしていかなければならない。


自分たちの世代は仕方がない。

なにせ、実際に武器を手に取り戦ってきたのだから。


だが、子や孫の世代までそんな暮らしはさせたくはない。


敗者がそう考えるのは当然かもしれないが、勝者の側も思考の帰結として同様に考えている。


勝者の側として、少なくとも上層部は敗者も同等に扱いたいとは思う。

だが、下の者たちはそれをすることはない。


なにせ、直接的に殺し合いを行い、死んでいったのは自分たちの階層のものなのだ。

いくら戦いの結果であるとしても、感情的にそれを許すことは簡単にできるものではない。


そうなればどうなるのか?


敗者への迫害が行われ、それは将来への禍根となる。


その将来の争乱の埋み火を無くすには、トモエの提案は最良の方法なのだ。


チャールヴァーカ氏族側は、


「我らはトモエ殿、ひいては龍王国(シヴァ)の提案を受け入れる。」


そう宣言する。


そうなると、ケーサカンバリン氏族も否とは言えない。

自分たちの血を残すには、それが最良であることは理解している。


「部族の者たちを説得する時間がほしい。」


ルカイヤがそう発言する。


「わかった。だが、時間は7日。7日で説得できなければ、その時は強制的に立ち退かせる。」


「・・・わかった。」


ルカイヤは、サーヒヴァの言葉に絞り出すように返答する。






☆ ☆ ☆






トモエとシズクは天幕から出ると、シズカらと合流する。


「あー、終わった終わった。これで・・・」


「帰れないわよ。」


帰れると言おうとしたトモエに、シズカが冷や水をぶっかける。


「ケーサカンバリン氏族の移動の目処がつかないと、帰れない。」


そう。

ケーサカンバリン氏族の移動、いや自分たちで移送しなければならないかもしれないのだ。


「エストレイシア殿の交渉次第ですね、それは。」


帰国の道すがら、カスミがタカオらにそのことを伝えることになっている。


エストレイシアとオスマル帝国との交渉に、ケーサカンバリン氏族の移動に関する事案も議題に乗せられることになる。


7日以内に決まらなければ、自分たちが龍化して移送することになるだろう。


それまでは、まだ帰国することはできないのだと、トモエは理解したのだった。

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