決戦
トモエたちは、龍化したカスミの背に乗っている。
竜女族の族長サーヒヴァから、道案内をつけると言われたのだが、それを断ってムシュマッヘのいる場所と方角のみ教えてもらい、向かっていた。
「トモエ。あんなことを言ってよかったの?」
とは、シズクの言葉。
サーヒヴァに、敵対した竜女族の移住受け入れを伝えたことを言っている。
「かまわないさ。陛下なら、絶対にそう言っただろうからね。」
そのことを、この場にいる者は誰も否定しない。
彼女たちの主君であるリュウヤなら、物言いは違えども必ずそう口にしただろうから。
「でも、その報告を受けた陛下は、また渋い表情をされるのでしょうね。」
トウウがそう言って笑う。
その時だった。
目的地の周辺で、轟音がすると同時に土煙が上がったのは。
カスミは、その土煙の上がった所へと急行する。
そこにいたのは、リュウヤの執事である吸血鬼アスラン。
そして土煙の晴れた中にいるのは、七つ首の邪竜。
「あれがムシュマッヘか。」
トモエが獲物を観察するかのように、ムシュマッヘを見ている。
「アスラン!お前、まだ陛下の元に戻ってなかったのか?!」
トウウがアスランに声をかける。
「ムシュマッヘを足留めするために、少しばかり相手をしておりました。」
「そうか、ならば後は私たちに任せて、陛下の元に戻るといい。」
トウウはアスランにそう言い、視線をムシュマッヘへと移す。
だが、アスランは気づいていた。
自分に対して、シズカが冷ややかな視線を向けていることに。
これ以上この場にいては、一層怪しまれる。
「わかりました。では、私は陛下の元に戻ります。」
そう言ってこの場を離れるアスランを、シズカは冷ややかに見送る。
その一方で、トモエはムシュマッヘの観察を終える。
「なかなか、厄介な能力を持っているな。
かなり強力な再生能力に、強力な毒。
体液は、強力な酸性毒か。」
巨岩で潰れた身体が再生していく。またその傷から流れる体液は周辺を溶かしている。
崩落した周辺には、枯れた木々などの植物。
「それだけじゃなさそうね。」
シズクがトモエの言葉を引き継ぐ。
「潰れた首は四つ。でも再生しているなら、同時に全ての首を倒さないとダメみたいね。」
「そうみたい。だから・・・」
トモエはそこで言葉を区切る。
その様子に、その場にいる龍人族は嫌な予感を共有する。
「陛下に教わった魔法を試してみるか。」
トモエの呟きに、予感が的中したことを知る。
トモエはそのまま魔法を発動するべく、集中力を高めていく。
こうなるともうトモエは止まらない。
「シズク、トウウ、ヒサメ!」
シズカは龍人族の三人の名を呼び、さらに夢魔族のふたりの名を呼ぶ。
「スクリボニア、リウィッラ!ムシュマッヘを牽制するわよ!!
アルテミシア殿たちは、周囲に魔法結界を張って、トモエの魔法に備えて!!」
さらに念を入れるように、シズカは忠告を加える。
「貴女たちが思っている以上に強力な魔法よ。気を抜いたら巻き添えになるからね!!」
カスミはトモエを乗せたまま、より上空へと上がっていく。
そして、シズカたちはムシュマッヘへと向かっていく。
☆ ☆ ☆
ケーサカンバリン氏族族長ルカイヤは、決死の防戦を指揮している。
チャールヴァーカ氏族は、自分たちの3倍以上の兵力でもって押し寄せている。
この一戦に敗れれば、もう自分たちに生きていく地はない。
それゆえに、ケーサカンバリン氏族の者たちは必死になって戦う。
戦いながらも、ルカイヤはムシュマッヘに使いを送る。
ムシュマッヘは劇薬だということは理解している。
だが、自分たちが生き残るためには、あの力は必要なのだ。
「ウッザマーニ。貴女の不安が的中してしまったわね。」
傍に控える側仕えの少女に、嘆息しながらルカイヤは声をかける。
いや、ルカイヤにもそれは見えていた。だが、それを見ないようにしていたのが自分だ。
この少女は、それをしっかりと見ている。
自分の後継者としての資質はある。
自分よりも相応しいかもしれない。
だけど、この少女に継がせることはもうできないだろう。
たとえムシュマッヘが間に合ったとしても、あの七つ首の邪竜が通った場所は、強力な毒に汚染されて不毛の地と化してしまう。
あの邪竜の甘言にのり、手を借りてしまった時点で自分たちは詰んでしまっている。
気づくのが遅すぎた。
あまりにも。
そう思い天を仰いだとき、轟音が響き渡る。
轟音の発信源の方を見ると、巨大な土煙が立ち昇っている。
「あれは、ムシュマッヘのいる洞窟の方角!」
ルカイヤには何が起きているのかわからない。
だからこそ、指揮が止まってしまった。
それは、ケーサカンバリン氏族の敗北を決定づけた。
☆ ☆ ☆
突如響き渡る轟音を、チャールヴァーカ氏族族長サーヒヴァは、龍人族がムシュマッヘと対峙した合図だと受け取った。
「ムシュマッヘは龍人族に抑えられ、この地に来ることはない!
我がチャールヴァーカ氏族と、同盟者の戦士たちよ!
今こそ竜女族を統一する時!!
その力を見せつけよ!!」
サーヒヴァの号令を受け、勢いづく戦士たち。
もともと兵力で上回っている。
ムシュマッヘという存在がなければ、すでに勝利できていたのだ。
ムシュマッヘという存在が龍人族に抑えられた今、負ける要素は何もない。
戦士たちの士気はこれまで以上に高く、完全にケーサカンバリン氏族を追い込んでいく。




