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龍帝記  作者: 久万聖
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対オスマル帝国戦 内紛と謀略

右翼の敗走を知らないオスマル帝国軍本隊は、龍王国(シヴァ)軍本隊へと猛攻を仕掛ける。


すでに連日の戦いによって馬防柵は破壊されており、残るは空堀と土塁のみ。


オスマル帝国軍は、本来なら攻城戦に使うであろう大梯子(おおはしご)を土塁にかけ、中に入り込もうとする。


対する龍王国軍はこれでもかと矢を射かけ、槍を突き出して防戦する。


間断なく攻撃を仕掛けてくる帝国軍に、龍王国軍とビンツア王国軍の連携に綻びが生じる。


元々、付け焼き刃の連携でしかなかったのだ。

このような事態になることは想定内である。


ただ、想定外だったのはそこに駆けつけたのが、大柄な者が多い鬼人族の中でも一際目立つ巨体を持つシナノとその指揮下の部隊だったことだ。


そのシナノはちらりとエストレイシアを振り返る。


エストレイシアはそれに苦笑しながら、頷くことでその行動を承認する。


「私が出るつもりだったのだがな。」


エストレイシアはそう口にする。


「何を言われますか。おかげで、帝国軍を押し返すことができます。」


そう。

間違いなく鬼人族の参戦は、相手を押し返すことができる。

そうすれば、作戦を第二段階へと進めることができる。


シナノは、その巨体に見合う怪力の持ち主であり、その手に持っている武器はその怪力を発揮するのに適したもの。


狼牙棒を大きく振るうと、帝国軍兵士はひとたまりもなく吹き飛ばされる。


当たれば鎧ごと砕き、掠っただけで手足は千切れ飛ぶ。


シナノの部下も、隊長と同様の殴打武器を持って帝国軍の中に雪崩れ込む。


もはやシナノ率いる鬼人族1千の部隊は、帝国軍の恐怖の的となったいた。






☆ ☆ ☆






あと一歩で敵陣に突入できたところを、鬼人族1千によって阻まれたのみならず、逆に撤退やむなしとなったことにバニパル将軍は失望を隠せない。


「これほどの戦闘力を持つとは・・・」


ウルバト将軍の呟きは、この場にいるひとりを除く全ての者の感想である。


それだけではない。


森に侵入した右翼は、エルフたちによって甚大な損害をうけ、再編する時間が必要なほどである。


主将、副将を立て続けに失い、兵も二割を超える損害を出している。


この部隊は、一時的にバニパル指揮下に組み込む。


とはいえ、他の部隊も大きな損害を出しており、全体的に大幅な再編が必要な状況だ。


「編成などさっさと済ませて、攻勢をかけるべきでしょう。」


巡察使カリニコスはそう主張する。


その主張に対し、


「戦のことには口を慎んでもらおうか!」


フィロパトル将軍は激怒する。


「そんなに攻めさせたいなら、お主が兵を率いて戦えばよかろう!!」


テーブルを叩き、カリニコスに詰め寄る。


思わず鼻白むカリニコスだが、


「わ、私は皇帝陛下より巡察使としての役を与えられたのです。

そんなこと、できるわけがないでしょう。」


「それはこちらとて同じこと!

我らも陛下より軍権を賜り、この場におるのだ!

戦に関し、二度と口を差し挟むな!!」


フィロパトルの激しい言葉に、カリニコスは沈黙するしかなかった。






☆ ☆ ☆






「ええい、あの馬鹿将軍どもが!!」


カリニコスは自分の天幕に戻ると、辺り構わず怒鳴りちらす。


「さっさと大軍の利を活かして押し潰せばよかったのだ。

それを、兵の損失がどうのと屁理屈を捏ねおる!」


帝国貴族のひとりであるカリニコスにしてみれば、兵士の命など大した価値のあるものではない。


どれだけ死のうがかまわない。


そもそも、オスマル帝国軍の歩兵は奴隷であり、士官は平民。

士官が死ぬのはともかく、奴隷などいくら死んだところでどうでもいいのだ。


「それなのに・・・。」


カリニコスはしばらく考え込む。


そして、


「ペンと羊皮紙を出せ。陛下に報告書を(したた)める。」


長い時間をかけて報告書を書き上げると、それを部下に持たせて出立させる。


帝都ビジャールへ向けて。






☆ ☆ ☆






帝都ビジャールへの街道の途中。


カリニコスが帝都へと向かわせた使者は、天狗(てんこう)族と龍人族のタカオらに捕らえられている。


そして取り上げた羊皮紙を、天狗族オイテが見ている。


「なんだこれ?ただの讒言(ざんげん)を書きなぐっただけじゃないか。」


呆れ返るオイテから羊皮紙を受け取ると、タカオも目を通す。


「本当だな。こんな物が報告書とは、オスマル帝国ってのも随分と危ないんじゃないか?」


さらにタカオから回されて内容を確認するアカギが、


「ウチの陛下なら、こんな手紙を送ってきたらその首を刎ねるだろうな。」


前線で戦う指揮官を讒言し、罵詈雑言を浴びせようなどとは彼らの主君の忌み嫌うこと。


だが、この使者の様子からするとこのオスマル帝国では、ごく当たり前のことなのかもしれない。


それが当たり前ということは、その統治機構がいかに不健全なものとなっているかを示したものとも言える。


そしてそれは、謀略の入り込む余地が大きいことを教えてくれる。


「皆さん、これはそろそろ私たちが仕掛ける時が来たと、そういうことでしょう。」


その言葉に、この場にいるものたちは不敵な笑みを浮かべる。

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