表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍帝記  作者: 久万聖
356/463

対オスマル帝国戦 森の戦い

七日目。


遂にバニパル将軍は決断を下す。


帝都から送られてきた巡察使カリニコスの、


「寡兵を相手に、いつまで攻めあぐねているのか。」


という言葉を受けてのものだった。


バニパルにしてみれば、攻めあぐねているわけではなく、あえて持久戦に持ち込んで相手の士気と兵力を削り取る作戦なのであり、その説明もするのだがカリニコスは聞く耳を持たない。

むしろ、この地に来るまでに聞いた根拠のない噂話を元に、叛意があるのではないかとさえ言う。


「叛意があるのではないか」


その言葉に愕然としたバニパルは、やむなく総攻撃を命じたのだ。


中央の本隊は8万。

これを四隊に分け、それぞれの攻撃する持ち場を決めて猛攻を仕掛ける。


右翼には1万2千。

ここからさらに5キロほど北から森に侵入し、おおよその目星をつけた敵本陣に攻勢をかける。


左翼には騎兵を主力とする残存兵力を置き、機を見て突入させる。


この日の早朝、まだ朝靄(あさもや)の残る中、バニパルは攻勢を命じた。


エストレイシアはこのことを予測しており、前日にやってきたビンツア王国正規軍とともに防衛線をひいて待ち構えていた。


そして、ビンツア王国正規軍とともに、最も頼りとする鬼人(オーガ)族の部隊2千が合流していた。


率いているのはキヌとシナノ。


モガミは、ふたりが語るにはクジ引きに負けて、残りのビンツア王国正規軍の訓練を担当することになったのだという。


モガミが率いていた千人も惜しいが、このふたりとその指揮下の二千は十分な戦力である。


彼ら鬼人族部隊は、最後の局面で働いてもらうことを確認する。


ふたりは口では文句を言いながらも、了承した。


ふたりもまた、エストレイシアの説明でリュウヤの狙いに気づいたこともある。


ビンツア王国正規軍と共同戦線を張ることにより、友軍であるという認識を持たせること。

そのためには一定の苦戦をしてもらわねばならず、圧倒的な武力を持つ鬼人族部隊の投入は最小限に抑えなければならない。


「友軍という意識を持たせりゃ、なかなか戦うことはないだろうからな。」


とはキヌの言葉だ。


ここでシナノがあることに気づく。


「そういや、タカオら龍人族はどうしたんだ?」


そう、この場に龍人族が誰一人としていないのだ。


「彼らなら、天狗(てんこう)族とともに、敵国の奥に入り込んでいる。」


その言葉を聞いてふたりは、


「入り込まれた先に同情するよ。」


「それだけで、相手の負けは決まったようなもんだろ。」


と口にしていた。






☆ ☆ ☆






オスマル帝国軍の攻勢は、控えめに言って苛烈なものだった。


前日までの攻勢が、まるで遊びだったのではないかと思えるくらいに。


特に変化したのは強引さだろう。

前日までは被害を抑えようという意図があったが、今日の攻勢にそれがない。


少しくらいの犠牲などかまわないとばかりに、強引な突入を繰り返して来る。


だが、その苛烈さは対応できない苛烈さではなかった。


なにせ普段の訓練の相手が鬼人族やら、エストレイシア指揮下の部隊なのだ。

それに、前日までの実戦経験が大きく龍王国軍兵士を成長させていた。


オスマル帝国の猛攻に怯むことなく、持てる能力、武器の限りを尽くして戦線を支える。


その姿を見て、新しく参戦したビンツア王国正規軍兵士も負けじと奮闘する。


迂回して森に侵入したオスマル帝国軍は、アンセルミ率いるエルフたちの襲撃に直面する。


エルフたちは巧妙に姿を見せては奥へと誘い込み、罠を仕掛けた地点へと誘導していく。


誘導された帝国軍は、落とし穴にはまったり網にかかって無力化される。


「古典的な罠だが、効果的なものだ。」


アンセルミが呟く。


"森の人"とも"森の妖精"とも呼ばれるエルフにとって、森の中での戦いはお手の物である。


アンセルミの長い生の中で、森の中での戦いで敗れたのはリュウヤが絡んだ先年の戦いのみ。

それも自分たちのフィールドで戦ったとは言い難い。

自分たちのフィールドで戦っていたなら・・・。


「いや、無理だろうな。」


龍人族の戦闘力はあまりにも規格外。

それよりもなにも、その龍人族の上に君臨するリュウヤの存在そのものが、全てを覆してしまう。


アンセルミの目の前では、罠にかかって混乱しているオスマル帝国軍がいる。


アンセルミはゆっくりと右腕を挙げ、号令とともに振り下ろす。


「撃て!」


この場に潜んでいたエルフたちは、帝国軍に向けて一斉に矢を放つ。


弓の名手たるエルフにとって、混乱している大軍など単なる的にすぎない。


次々に射倒される帝国軍兵士たち。


アンセルミは帝国軍の中に、一際立派な鎧を身につけた者を見つける。

指揮杖らしきものを持っているところを見ると、この軍の指揮官なのだろう。


距離はざっと200メートル。

ゆっくりと自慢の弓をつがえ、狙いをつける。


そして、矢を放つ。


数瞬の後、眉間を貫かれて倒れる敵指揮官。


その見事な弓の腕前に、沈黙が広がる。


だが、アンセルミは視界の隅に指揮杖を拾う者の姿を捉える。


指揮を引き継ごうとしているのだろう。


再び弓をつがえ、放つ。


今度は相手の首を貫き通し、倒す。


立て続けにふたり倒されたのを目の当たりにして、後続の者たちは総崩れになり、逃走に転じる。


「追撃!!」


アンセルミは有角馬(ナルダ)に跨ると、先頭に立ち追撃を指揮する。


もともとこの有角馬はデックアールヴが飼い慣らし、森での戦闘用に飼育していたものだ。


それをエルフたちが騎乗して、戦う。


この有角馬は馬とはいうものの、実は鹿の仲間であり、通常の馬よりも一回り以上小さい。

そしてデックアールヴよりもエルフは小柄であり、有角馬との親和性がとても高い。


この有角馬騎兵をもって、アンセルミは帝国軍を追撃する。


この追撃戦により、帝国軍右翼部隊は多大な損害を受け森から叩き出されることになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ